文化か技術か? 韓国企業の“餃子の形”特許に中国が激怒―知財とナショナリズムのはざまで揺れるアジア


「餃子戦争」勃発―発端は韓国の特許取得

2025年初頭、韓国の中小食品メーカーが取得した一件の特許が、東アジアの食文化の火薬庫に火をつけた。対象は、なんと「餃子の形状」――。このニュースが中国のネット上に拡散されるやいなや、Weibo(微博)では「餃子は中国のものであり、盗用だ」といった怒りの声が噴出し、「餃子戦争」とも言うべき文化的対立が広がった。

この韓国企業が取得したのは、特定のヒダ数や折り方、密封構造に関する意匠的な特許(韓国では「デザイン登録」と呼ばれる場合もある)であり、「味」や「具材」といった要素ではない。にもかかわらず、特許の説明文に「従来の餃子の不便さを解消する」などと記載されていたことが、中国側の感情を大きく逆撫でした。

一方で、韓国側では「文化を守るための当然の防衛手段」とする声も多く、まさに「餃子を巡るナショナリズム」が衝突した形だ。

食文化と知的財産権のねじれ

この一件が示すのは、食文化という“共通財産”と、知的財産権という“独占権”の本質的なねじれだ。餃子という料理は、中国北部で数千年の歴史を持つとされるが、朝鮮半島でも長い時間をかけて独自に進化してきた。中国の「水餃子」、日本の「焼き餃子」、韓国の「マンドゥ」など、地域ごとに姿形や食べ方に違いがあり、それぞれの国の家庭料理として定着している。

とはいえ、形状の特許取得という行為は、「食文化の独占」と受け取られやすい。特に形状に関する特許や意匠権は、似た形を模倣できなくなる可能性を含んでおり、周辺諸国の企業や伝統文化関係者にとっては看過できない事態となる。

こうした状況は、過去にもキムチ、漢方薬(韓方)、剣道、茶道などを巡って幾度となく起きてきた。文化の“起源”を争う論争は、特に中韓間で頻発しており、今回の「餃子特許」はその最新の火種となった。

韓国の「知財ナショナリズム」

この問題を単なる食文化の衝突として片付けるのは早計だ。背景には、韓国における「知的財産権による文化防衛」の国家的戦略がある。

韓国では近年、文化資源を知財として保護し、国際的競争力を高める動きが活発化している。特に2010年代後半以降、「K-food」「K-beauty」「K-pop」など、“K-ブランド”を支える一環として、食品やデザイン、さらには製造工程に至るまで、積極的に特許や意匠を取得してきた。

こうした動きは、かつて韓国の伝統食品「キムチ」を中国が「泡菜(パオツァイ)」として国際標準化機関(ISO)に登録し、韓国が大きな衝撃を受けた出来事をきっかけに加速した。以降、韓国政府は民間企業への知財支援を強化し、地理的表示(GI)や特許の申請費補助、国際的な意匠登録支援を積極化している。

今回の餃子特許も、この「知財ナショナリズム」の一環と見ることができる。

中国の反応:文化盗用 vs. 法制度のズレ

中国側がここまで反発する背景には、「文化盗用」というナラティブ(物語)が根強くある。特に、東アジア文化の源流としての“自負”が強い中国では、伝統的な要素が他国で「独占的な権利」として登録されることに、敏感にならざるを得ない。

しかし、法制度的に見れば、この特許はあくまで韓国国内の意匠登録に過ぎず、中国企業が直接的な不利益を受けるわけではない。にもかかわらず、大衆感情としての「文化盗用」への怒りが、SNSを通じて一気に拡散された点が興味深い。

ある中国の知財専門家は、「本来であれば、中国企業が形状特許に先んじて動いていれば防げた問題」と冷静に指摘している。つまり、知的財産の世界では「先に取った者勝ち」というルールが機能しているのだ。

国際特許と“文化摩擦回避”の難しさ

この騒動を国際的な視点で見れば、伝統文化の保護と、現代の特許制度との調和という課題が浮かび上がる。WIPO(世界知的所有権機関)でも、伝統的知識や伝統的文化表現(TCEs)の保護に関する議論が進められているが、まだ確固たる制度化には至っていない。

また、形状に関する意匠登録は、比較的容易に国際出願(ハーグ協定に基づく意匠の国際登録制度)できるため、今後は韓国の餃子特許が中国や日本、他のアジア諸国に拡大される可能性もある。そうなれば、さらに多国間の摩擦が深まる恐れもある。

餃子は“食べる”ものであって“争う”ものではない

「文化を守る手段」としての知財取得と、「共通財産」としての伝統食の共有――このバランスの取り方は、国際社会がこれから真剣に向き合わなければならないテーマだ。

餃子は、多くの国で愛されている庶民の味だ。その形や名前が少しずつ違えど、「皮に包まれた温もりのある中身」という本質は変わらない。むしろ、それぞれの国が餃子に独自の解釈を加え、豊かな食文化を形成していること自体が、アジアの文化的多様性の証なのではないか。

今必要なのは、“誰が餃子を発明したか”を巡る争いではなく、“どう餃子を未来に継承するか”を巡る協調だ。

終わりに:知財で文化を守るということ

今回の「餃子戦争」は、意匠登録という一見技術的な話題が、いかに文化アイデンティティに直結しているかを示した好例である。特許や意匠制度は、あくまでビジネスのツールだが、文化と接することでナショナリズムを刺激する危険もはらむ。

これからの知財制度には、単なる「早い者勝ち」ではなく、文化的背景や周辺国との摩擦への配慮が求められる場面が増えてくるだろう。AIが文章を書き、合成音声が歌い、料理のレシピすらアルゴリズムで最適化される時代―それでも、餃子は“心”を包む料理であり続けてほしい。


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