世界を驚かせた200億円の資金調達
2025年初頭、中国のスタートアップ企業「Aiper(エイパー)」が、プール清掃ロボットの分野で約200億円(約1.3億ドル)のシリーズC資金調達を成功させたというニュースが世界を駆け巡った。調達の中心となったのはIDGキャピタルやセコイア・チャイナなど、名だたるベンチャーキャピタルであり、すでにグローバル展開を進めている同社の成長性に大きな期待が寄せられている。
特に注目すべきは、スペインの世界的プール機器メーカー「Fluidra(フルイドラ)」との戦略的提携だ。Fluidraは、業務用プールから家庭用まで幅広い機器を手掛ける業界の巨人であり、この提携によりAiperは欧州・北米での販路を一気に拡大することが可能となる。これまでアメリカ、オーストラリアを中心に累計販売台数20万台以上を誇るAiperが、次のステージへと一気に駆け上がる体制が整った。
プール業界の「ロボット化」は始まったばかり
一見するとニッチ市場に思えるプール清掃。しかし、世界には数千万にのぼる家庭用・商業用プールが存在しており、維持管理には大きなコストと労力がかかる。特に住宅地の発展が著しいアメリカ、オーストラリア、中国沿岸都市などでは、プール保有率も高く、清掃業務の自動化ニーズは年々高まっている。
これまでプールの清掃は人手か、またはコード付きの重いロボットに頼ってきた。しかし、Aiperが開発したのは「コードレス&スマート」な自走型クリーニングロボットであり、まるでお掃除ロボット「ルンバ」のプール版とも言える存在だ。自動ルート設計、ゴミ検知、障害物回避といった機能を備え、電源ケーブルに煩わされることなく、ユーザーはアプリひとつでプールの状態を管理できる。
つまり、単なる清掃ロボットではなく、「スマートプール管理システム」の入り口としての価値を持つプロダクトなのである。
なぜ今、「プールテック」なのか?
今回のAiperの快進撃は、「気候変動」や「スマートホーム化」という背景も見逃せない。近年の温暖化やヒートアイランド現象を受け、欧米やアジアの一部都市では、公共プールの整備や家庭プールの設置が加速している。日本でも関西圏や九州を中心に、高気温対策としてマンションプールや個人用プールが再評価されている動きがある。
一方で、水資源や管理費の問題もある。プール清掃ロボットの活用は、水質維持の自動化、薬剤使用量の最適化など「持続可能な水管理」としてのソリューションにもなり得る。加えて、AI・IoTを活用したスマートプール管理への流れが加速する中で、ロボットが果たす役割は年々大きくなるだろう。
中国発・ロボティクス新潮流の象徴
Aiperは中国・深センを拠点とする企業である。深センといえば、ドローン大手のDJIをはじめ、電子機器・IoTのハードウェア・スタートアップが数多く生まれる都市だ。実際、Aiperの開発チームには、元DJI出身のエンジニアや、米国で機械学習を専攻した研究者も名を連ねており、設計段階からグローバルを意識したプロダクト作りが行われている。
従来、中国製ハードウェアは「価格競争力はあるが、ブランド力が弱い」とされてきた。しかし、近年はAiperのように、技術的にも先進性を持ち、デザイン・操作性・マーケティング面でも高評価を得る企業が増えている。中国製造業のイメージが「安かろう」から「革新を伴うもの」へと進化している証左と言える。
Fluidraとの提携:販路拡大と知財連携
世界に約45カ国以上の販路を持つFluidraとの提携により、Aiperは自社の製品を「より早く・広く」市場へ届けられるようになるだけでなく、メンテナンスや保証体制の強化にもつながる。販売のスピード感だけでなく、「安心して買える製品」としての信頼性も大幅に向上する。
加えて、知的財産面での連携にも注目だ。Fluidraはすでに水質管理センサーやスマートフィルターなどで複数の国際特許を保有しており、AiperのAI制御技術とのシナジーは大きい。今後、両社が共同で新しいプールメンテナンスの統合プラットフォームを開発すれば、ロボット単体では提供できなかった「総合的なスマートプール管理」の知財ポートフォリオが形成される可能性がある。
Aiperの未来は「水インフラ」全体へ?
Aiperの現在の主力製品はあくまでプール清掃ロボットだが、長期的には「水回りに関するスマート化」全体へと事業展開が見込まれている。例えば、水槽の清掃、庭園の池、商業施設の噴水、さらには温泉・スパ施設などへの応用も考えられる。さらに、プール水質のセンシングデータを蓄積し、地域全体の水管理に寄与するような公共インフラへの展開も視野に入る。
このような「ウォーターテック」の領域は、まだブルーオーシャンであり、Aiperの先行者利益は極めて大きい。
おわりに:ハードウェア×AIの勝者は「専門特化」か?
ロボット産業では、近年「汎用ロボット」よりも「タスク特化型ロボット」の方が市場をリードしやすいと言われている。清掃、配送、介護、農業など、特定のユースケースに絞り込むことで、高効率・高精度なソリューションを提供できるからだ。
その意味で、Aiperのように「プール清掃」に絞り込み、ロボティクスとAIを掛け合わせ、さらに国際パートナーとの連携まで視野に入れるモデルは、今後のスマートハードウェア企業の成功モデルとして注目されるべきだろう。
2025年は、単なる「ロボット元年」ではなく、「スマート水管理元年」になるかもしれない。