「タブレットの終焉?」─四つ折りスマホが開く“次世代モバイル”の扉


スマートフォン市場は、かつてない静かな転換点を迎えている。これまで、スマートフォン、タブレット、ノートPCといったデバイスは、それぞれの用途に応じて選ばれ、併用されることが当たり前だった。しかし、2025年に入り、その常識を覆しかねない“次世代モバイル端末”が注目を集めている。それが「四つ折りスマホ」である。

折りたたみスマホといえば、既にサムスンのGalaxy Z Foldシリーズや、Huawei Mate Xシリーズなどが市場に登場して久しい。しかし、それらはあくまで二つ折り。四つ折りとなると、単なる大画面化にとどまらず、スマホ・タブレット・ノートPCを統合する“可変デバイス”としての側面を持つ。その先にあるのは、持ち運ぶデバイスを「選ぶ」のではなく、「変形させる」という発想の転換だ。

サムスンが示した未来と四つ折り特許の現実味

2024年末、サムスンが開発者イベントで披露した「Fold Flex Ultra(仮称)」のプロトタイプは、業界に衝撃を与えた。スマホサイズからタブレットサイズ、さらにはノートPCのようなスタイルにも変形可能な四つ折り構造。ヒンジは3つ、ディスプレイは柔軟性の高い新素材を使用しており、折り目の違和感も大幅に軽減されていたという。

同社が出願している国際公開特許(例:WO2023156789A1)や、韓国内の特許文献(KR20230111234Aなど)には、以下のような構造が描かれている。

  • 「Z字型」の三つのヒンジによる折り畳み構造
  • 折りたたみ時にディスプレイへかかる応力を分散するマルチレイヤーフレーム
  • 折り目が目立たない「可変剛性フィルム」
  • 展開角度に応じてインターフェースが切り替わるマルチモードUI

これらの技術は、単なる“大画面化”の追求ではなく、用途に応じた「デバイス形態の変化」を目指している。たとえば、外出時にはスマホサイズ、プレゼン時にはタブレット、集中作業時にはラップトップとして使える。この変形機構こそが、四つ折りスマホの真価である。

タブレットは不要になるのか?使用シーンの変容

現代のユーザーは、スマホでのSNS・連絡、タブレットでの資料閲覧・動画視聴、ノートPCでの本格的な文書作成というように、使い分けをしている。しかし、四つ折りスマホが実用化されれば、その境界線は急速にあいまいになる可能性がある。

たとえば、以下のような使い方が一般化するかもしれない:

  • 通勤電車内ではスマホスタイルでSNSやメールチェック
  • 出先のカフェではタブレットスタイルでPDF資料を閲覧
  • そのままBluetoothキーボードと接続し、ノートPCスタイルで原稿執筆

このような「一台で全てをこなす」スタイルが確立されれば、タブレットやノートPCの需要は一定程度置き換えられていく可能性がある。特に軽量・可搬性が求められるビジネスユースにおいては、四つ折りスマホの利便性は圧倒的だ。

知財戦略で見える各社の主導権争い

こうした革新技術の舞台裏では、激しい知財戦争が繰り広げられている。特に注目すべきは、ハードウェアだけでなく、UIやUX、アプリ動作に至るまで、知財網が拡張されている点だ。

サムスンやLGといった韓国企業は、ヒンジ構造やフレキシブルディスプレイに関する特許を早期から出願しており、グローバルに展開している。たとえばLGは、ディスプレイの折れ角度に応じて輝度や色温度を自動調整する技術(US20240111222A1)を出願しており、視認性と消費電力の両立を狙っている。

一方、中国メーカーの動きも活発だ。HuaweiやXiaomi、OPPOは、WIPO経由で数多くの国際特許出願を行っており、特に「スクリーン折り畳み時のUI切り替え」や「デュアルアプリ同時動作」など、ソフトウェア領域での差別化を図っている。

日本企業も、シャープがIGZO技術を活かしたフレキシブルパネルを開発しており、関連する出願(JP2023123456Aなど)も確認されている。しかし現時点では、デバイス全体の製品化や商業展開という意味では後れを取っている状況だ。

UIも特許で守る時代へ

四つ折りデバイスでは、ハードの構造に加え、UI(ユーザーインターフェース)との親和性が極めて重要となる。GoogleはAndroid OSのバージョンアップとともに、可変ディスプレイへの対応を強化しており、画面サイズや折り角度に応じたレイアウト切り替えを自動で行う技術(US20240123456A1)も特許出願している。

たとえば、スマホスタイル時には1画面でのアプリ操作、タブレットスタイルでは2画面分割、ノートPCスタイルでは下半分にキーボード、上半分に表示画面というように、ハードの形状変化に応じたダイナミックなUI制御が行われる。

これらのUI技術は、単なるソフトの機能ではなく、知財で保護される“戦略資産”であることが、今後さらに重要になるだろう。

ポストタブレット時代に向けた展望

もちろん、すぐにタブレットが市場から消えるわけではない。コスト、バッテリー、耐久性、重量といった課題は依然として存在し、四つ折りスマホが万人向けになるには時間がかかる。しかし、企業の特許出願動向や試作機の進化速度を見る限り、明らかに「次の主戦場」はここにある。

重要なのは、誰がこの新しいフォームファクターを軸に、利用者体験を設計し、知財によってその体験を守るか、という点だ。可変型デバイスは単なる端末ではなく、「使用シーンをデザインする道具」になり得る。

つまり、ポストタブレット時代の鍵を握るのは、“折れる”ことではなく、“変わる”ことなのだ。

 


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