ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)は、2032年までに売上を倍増させるという強気の目標を掲げている。特許切れが迫る主力品による売上減少を予測しながら、同社がこのような高い成長目標を設定する背景には、強力な新製品パイプラインと戦略的なM&A(合併・買収)戦略がある。本稿では、ブリストルの戦略を主力製品の特許切れ、業界動向、新薬開発の進展と絡めて分析し、同社がどのようにして成長を維持しようとしているのかを考察する。
1. 主力製品の特許切れとその影響
BMSは、抗がん剤「オプジーボ(Opdivo)」や抗凝固剤「エリキュース(Eliquis)」といった医薬品で圧倒的な売上を誇る。しかし、これらの主力製品の特許は間もなく切れ、後発品(ジェネリック医薬品)やバイオシミラー(生物学的製剤の後発品)の登場が避けられない。この特許切れは、BMSにとって売上減少を意味し、企業戦略の再構築を迫られる。
まず、「エリキュース」の特許は2028年に切れる予定であり、2023年には約130億ドルという売上規模を誇った。特許切れ後には後発品が市場に投入され、価格競争が激化することが予想される。特に、エリキュースはBMSの売上の中でも中心的な存在であり、その影響は甚大である。
また、「オプジーボ」の特許は2031年に切れる。オプジーボは免疫チェックポイント阻害剤としてがん治療に革新をもたらした一方、特許が切れた後の市場では、ジェネリック版やバイオシミラーが登場することで、売上に大きな影響が出るだろう。
これらの製品が特許切れ後に売上減少を招くことは避けられないが、BMSはその影響を軽減し、さらなる成長を実現するための戦略を描いている。
2. BMSの新薬開発戦略
特許切れの影響を補うため、BMSは新薬開発に注力している。特に、がん治療、免疫疾患、心血管疾患の分野で革新的な治療法を提供するために、20以上の新薬候補を進行中だ。この新薬パイプラインこそが、同社が2032年に売上倍増という目標を達成できるかどうかのカギとなる。
特に注目すべきは、CAR-T細胞療法の分野だ。BMSは、複数のCAR-T療法の開発を進めており、これらが市場に登場すれば、同社はがん治療分野で新たな収益源を確保できる。CAR-T療法は、患者自身の免疫細胞を活性化させてがん細胞を攻撃するという先端技術で、非常に高価ではあるが、効果が高いとされる。
そのため、高額な治療費が市場で受け入れられ、急速に普及する可能性がある。
また、BMSは、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」と同様に、標的治療薬との組み合わせに注力している。オプジーボの特許切れ後も、新しい抗がん剤の組み合わせ療法が市場に投入されることで、同社は引き続きがん治療分野での競争力を維持できると考えられる。
3. M&A戦略による成長加速
BMSは、単に新薬開発だけでなく、M&A(合併・買収)を積極的に活用して成長を加速している。2019年には、セルジーン(Celgene)を740億ドルで買収し、CAR-T療法や免疫療法に関する技術を獲得した。このような大型買収により、BMSは急速に新しい技術を手に入れることができ、競争優位性を確立した。
また、2023年には、神経疾患やがんの治療薬を開発するバイオ企業の買収を検討しているとの報道もあった。これにより、BMSは新規市場の開拓と収益基盤の強化を進めることができる。製薬業界では、バイオテクノロジー企業との提携や買収が今後の成長に欠かせない戦略となっており、BMSもこの流れに乗っている。
4. 競争環境と市場の反応
BMSの成長戦略が成功するかどうかは、競争環境による影響を受ける。メルク、ファイザー、ロシュなど、他のグローバル製薬企業も同様に新薬開発やM&Aを進めており、免疫療法や細胞治療の分野では競争が激化している。この中で、BMSがどの程度市場シェアを確保できるかが、成長のカギを握る。
さらに、投資家の視点では、BMSが掲げる強気の目標に対して懐疑的な意見も存在する。特許切れによる売上減少のリスクが大きい一方で、新薬開発には長い時間がかかる。そのため、短期的には収益が減少する可能性が高いと予測される。しかし、パイプラインが進展し、新薬が市場に登場すれば、長期的には収益が増加し、企業価値が向上することが期待される。
5. まとめ
BMSが2032年に売上倍増を目指す背後には、新薬開発の強化とM&A戦略の推進がある。特許切れによる売上減少は確実だが、CAR-T細胞療法や新しい抗がん剤の開発、さらにM&A戦略により、同社は長期的な成長を確保しようとしている。
今後の課題として、新薬の承認取得や市場浸透のスピードが重要となる。競争が激化する中で、技術革新や提携戦略への柔軟な対応が求められる。BMSが掲げる目標が達成されるかどうかは、これらの要因にどれだけ迅速かつ効果的に対応できるかにかかっている。