起業家として「非常識」に生きる、高精度交通事故鑑定の産みの親

交通社会の安全を守るためのテクノロジー開発を担うジェネクスト株式会社。

本インタビューではその創業社長である笠原一氏に技術開発のきっかけから特許取得に至るまでの試行の数々を語っていただきました。

エンジニアとしてシステムを構築するというあり方だけではない、真の意味での「発明家」として、開発職出身ではない笠原氏の課題解決や事業への考え方が詰め込まれた起業家向けのブラックボックスをぜひのぞき込んでみてください。

PROFILE

笠原

HAJIME KASAHARA

ジェネクスト株式会社 代表取締役

交通事故鑑定が守る社会の安全

今回ご紹介する笠原代表率いるジェネクスト株式会社は、人々が安全に過ごせる事故のない社会を目指すため、情報解析や事故鑑定のテクノロジー開発を通して交通社会の課題解決の第一線を開拓している企業である。

同社が開発・提供する「交通事故鑑定システム」は、ドライブレコーダーの映像情報から車両の位置や速度を解析し、既存の推定によるものとは一線を画する精度の高い裁判用資料作成を提供するサービスだ。

交通事故の現場で起こったことを精密に鑑定することで、理不尽な被害・加害判決を食い止める、過失割合を軽減することが可能になるといった本サービスは、多くの車両保険会社等とも提携し、交通事故が生む悲劇を最小限におさえるべく運用されている。

本技術が生まれた経緯を聞く前に、まず、笠原氏は研究・開発職の出身ではないということを読者の皆様にはお知り置きいただきたい。会計事務所での経験から特許や資格運用についての見識はあったものの、初めから特許取得を目指してシステムの開発を進めたわけではなかったとのことだ。

そんな氏がこの技術開発に着手したきっかけは、父親が車同士の交通事故に遭ったことにある。身内に対して実状に沿わない不利な鑑定が行われたことと、その鑑定の手間と不正確性に問題を感じて事故鑑定事業を開始したのだ。

というのも、当時の鑑定方法はドライブレコーダーの情報を論理的に解析し、映像のコマごとの時間と位置情報とをつきあわせて対向車の状況やスピードを求めてといような膨大な作業の連続だったのだそうだ。

また、画角の外側に行くほどレンズの影響を受け景色や距離感は歪むが、その画像を補正(キャリブレーション)することは、当時の交通事故裁判においては偽造にあたるとされ、ご法度でもあった。

「自らの会社」で戦う、更なる開発の日々

法令と戦うためには、その法令を遵守することが大前提だ。だからこそ笠原氏は法令の壁を迂回するべく、「編集しない方向で考えよう」と別ベクトルにハンドルを切った。

まず試したのは、ドライブレコーダーから1メートルごとの距離に基準となる目印を設置・撮影し、その画像と前を走る車のナンバープレートをと比較して距離を計測するという手法だった。

プレートは車種を問わずサイズ規格が決まっているため基準になると判断しての検討だったが、これは実測値と準備した画像に微妙なずれが発生してしまって立ち止まった。

「じゃあ何ができるかって次に考えて、同型のドライブレコーダーを一つ用意の上、同じ方眼紙を距離をずらして撮影、比較することを考えました。基準を2点にすることで、これがうまくいった。これまでちまちまと景観情報を元に分析していたものを、道路上の規格物を基準に距離を算出できるようにしたこの技術が特許になりました。」そう語る笠原氏は、この開発を単独で行ったそうだ。

「身内の件はドライブレコーダーでしたが、それに限らずスマホの画像や道路設置の監視カメラの画像でも同じ仕組みで距離が測れるので、かなり広がりのある特許となりました。当時はこの内容ならもうすでに誰か考えているだろうなと思いつつ、たまたま近くの弁理士さんに聞きにいってみたところ、あれよあれよと説明・申請を進めるうちに結果原始特許として取得することができました。」

開発者目線とはまた違う柔軟な発想と創意工夫の積み重ねが、世の開発者たちの盲点をずばりと射抜いたのだ。

そんな笠原氏の閃きのコツはふと降りてくるものなのだろうかと伺ったところ、閃きに至る経緯を語ってくれた。

「私は開発者ではないけれど、ビジネスやシステムの企画でも通ずるところがあると思います。まず解決すべき要素がそこにある。そして、結論にたどり着くまでにはネガティブな要素がある。例えば、今回であれば画像補正が裁判上許されない点などですね。そうしたらそこを通らないでゴールに行くためにはどうしたらいいのか考える。そういう作業や思考ををしていると自分では思っています。」

固定観念にとらわれないがゆえに生まれる発想に、同社COOである山地氏もこのような笠原氏の発案に至る姿を評価する。

「春から、無料の運行管理システムもリリースしたのですが、業界としては『そんなの無料でできるはずはない』という先入観があるところを、常識にとらわれず出してくれた。その発想は技術者からは逆になかなか出てこないと思います」

創業ベンチャーが10年継続する確率を取り上げて、「10年生存率が1割弱ということは、9割のなくなる側が(なくなるということが)『常識』。だから、なくならない1割になるためには『非常識』になる必要がある。それが厳しい社会で残っていく秘訣だと思って頑張っています」と代表としての決意を語る瞳に、職種の垣根を超える力強さを感じた。

これからの発展、そして次なる1手を聞く

ジェネクスト株式会社は、そんな創業期を乗り越え、今は闇雲に特許を出す時期ではなくなったので、出願については吟味している時期であるとのこと。

「当初は業界の中でひとつくらい参入されがたい特許を取って大手を焦らせる意図がありました。でも今は会社のステージが変わってきているから精査して、判断しています。システムやアプリケーション周りの特許は押さえるようにしていますね。」

特許を取って収益化するというモデルを推進するわけではなく、あくまでアイデアを作るだけではなくそこから商品化することで事業を成長させているのが今の会社のフェーズのようだ。

特許の海外展開構想について尋ねると、「交通事故判定システムについては、アメリカ・中国でも国際特許を取得しています。ドラレコというメディアのみに縛られない汎用性の高い技術なので、他国でもいつかどこかで活用したいと考える人が出るかもしれないと思い、ひとまずそこを押さえました。基本的には国内で、自社の事業に他社が介入しにくい状況を作る目的が大きいです。」

そういった戦略の元で運用される特許業務について、知財担当者などは据えず、現在は社外の弁理士に委任しており、管理や出願方針の決定を笠原氏が行なっているそうだ。

社内での職務発明の規約も現在制作中とのことで、今後より活発な事業展開・改良が期待されるが、やはりそれを牽引していくのは代表である笠原氏の思考力によるところが大きいと、インタビューを通して確信した。

ベンチャーで戦う最大のポイントとは

これからの起業家、開発者の皆様に一番のポイントをお伝えするとしたらとの問いに、「軸をぶらさないことです」と笠原氏は即答してくれた。

「物事を進めていくうちで、目的を見失ってしまうことってありますよね?本来の目的、うちであれば位置情報と法令で商売をするんだというのが会社の目的です。そこから軸をぶらしてはいけない。社員から『運転を点数化して運転診断をしたい』という案が上がってきたとしても、『点数をどうこう策定するのではなく、道路交通法違反が何件あって、何%遵守されている、みたいな出し方をしよう』と伝えています。」

もう一つはメンタルが異常に強いこと、とこちらは少し冗談ぽく、しかし山地氏も深く同意した。

「閃きは一瞬のことに見えるけれど、そこに至るまでに試行錯誤があります。今回のシステムであればキャリブレーションの問題など。そうやってダメなことが2~3回続いたら、あきらめる人の方が多いんですよ。それを解が出るまで向き合えるメンタルの強さが必要ってことです。」

起業し、スタートアップ、特許申請と会社を展開してもその大半は10年の壁を越えられない。だからこそ、そもそも事業を起こす覚悟とタフネス、そして軸が大事だとのエールは心強く、ゆえにこれからスタートアップする皆様の中には重い覚悟に不安を覚える方もいるかもしれない。

笠原氏は最後にこうも言ってくれた。「私たちも、実質つぶれかけるところまで行ったこともある。でも、やまない雨はない。ずっと堪えていると、必ず晴れ間が差してきます」と。


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