PLAY SHIFT:Switch2が変える遊びの常識


大阪・関西万博と輝く日本の特許

2025年4月、大阪・夢洲を舞台に「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとした大阪・関西万博が華々しく開催されました。55年ぶりに日本で開かれる国際博覧会であり、1970年の大阪万博以来となるこのビッグイベントは、日本のみならず世界中の英知と創造性を結集し、次世代の暮らしや社会の在り方を体験できる場として注目を集めています。会期は2025年4月13日から10月13日までの半年間、151を超える国と地域、そして企業・団体が参加し、最新の技術と文化が交差する未来都市が一時的に現出します。

詳しくは、大阪・関西万博の公式ウェブサイト(https://www.expo2025.or.jp/)をご覧ください。

この万博の最大の魅力は、単なる展示ではなく、「体験」そのものにあります。来場者は、未来の医療やモビリティ、教育、エネルギー、都市設計といった幅広い領域で、現実に起こりつつある技術革新を五感で味わうことができます。そしてその体験の裏側では、日本企業の技術力が惜しみなく注がれており、その多くは「特許」という形で技術的な独自性と価値を世界に提示しています。

そこで今回の特許マガジンでは、大阪・関西万博の現場で実際に使われている、あるいは注目されている最新の日本発特許技術に焦点を当て、その仕組みと未来社会における可能性を解説していきます。

たとえば、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが開発した触覚提示システムは、仮想空間と現実を繋ぐ次世代インターフェース技術です。バットのような身近な実物体に装着することで、振動を通じたリアルな触覚フィードバックを実現し、ガンダムパビリオンでは臨場感あふれるVR体験として採用されています。

富士フイルムが開発した構造色インクジェット技術は、顔料や染料を使わずに光の干渉によって鮮やかな色を再現する革新的技術です。これにより、持続可能で重厚感ある印刷表現が実現され、万博のパビリオンを彩る展示物やグラフィックにも採用されています。

Optmass社による赤外線吸収フィルム技術は、透明性を損なわずに赤外線のみを効率的に吸収することで、太陽光発電と建築美観の両立を可能にします。窓ガラスに貼るだけでエネルギー効率を高められるこの技術は、未来のスマートシティに欠かせない要素として脚光を浴びています。

これらの技術はいずれも、単に「新しい」だけでなく、「持続可能性」「没入感」「社会実装性」といった、現代社会が求める多様な価値観に応える力を持っています。そしてその背景には、綿密な研究開発と、それを支える知的財産戦略、すなわち特許の存在があります。

本誌では、読者の皆様にこうした特許技術の魅力をわかりやすく伝えると同時に、「特許とは何か」「なぜ重要なのか」という根本的な問いにも立ち返りながら、未来社会の構築に特許がどのように関与しているのかを紐解いていきます。

大阪・関西万博という「未来のショーケース」の舞台裏に隠された、知られざる技術の物語。さあ、この雑誌を通して、未来を支える特許の世界を一緒にのぞいてみませんか?


リアルタイム高画質化で、ゲームはもっと深くなる

次世代ゲーム機の登場が囁かれるたび、ゲーマーたちが最も心を躍らせるのは、やはりその「グラフィック性能」ではないでしょうか。より美しく、よりリアルに描画されるゲームの世界は、私たちをかつてない没入感へと誘います。しかし、高性能化は常に電力消費の増加やハードウェアコストの上昇という課題を伴い、特に携帯型ゲーム機においては、バッテリー持続時間とパフォーマンスのバランスが極めて重要となります。この技術的なジレンマは、長らくゲーム業界の大きなテーマであり続けてきました。

そのような中、ひときわ注目を集めているのが、任天堂株式会社が取得した「機械学習される画像コンバートのためのシステムおよび方法」に関する特許(特許第7651588号)です。この特許は、来るべき「任天堂Switch2」の性能を飛躍的に向上させる切り札になるのではないかと、大きな期待が寄せられています。低解像度で生成された画像を、まるで魔法のように高精細な映像へと変換するこの技術は、従来の制約を打ち破り、ゲーマーに新たな次元の視覚体験をもたらす可能性を秘めています。

今回は、この特許に秘められた技術の真髄に迫り、それがどのようにして未来のゲーム体験を塗り替える可能性を秘めているのかを深掘りしていきます。従来の課題をどのように克服し、どのようなメカニズムで高画質化を実現するのか、そして、この技術がゲーム業界だけでなく、より広範な映像処理の未来にどのような影響を与えるのかを詳細に分析します。


近年、家庭用ゲーム機の進化は目覚ましく、より没入感のあるゲーム体験を提供するため、グラフィック性能の向上が常に求められています。しかし、高性能なグラフィック処理は、電力消費の増加やハードウェアコストの上昇といった課題を伴います。特に携帯型ゲーム機の場合、バッテリー駆動時間と性能のバランスが重要となります。このような背景のもと、任天堂株式会社が取得した「機械学習される画像コンバートのためのシステムおよび方法」に関する特許(特許第7651588号)は、次世代ゲーム機、特に「任天堂Switch 2」での採用が期待される技術として注目されています。

本技術は、機械学習、特にニューラルネットワークを活用することで、低解像度で生成された画像を高品質かつ効率的に高解像度へ変換することを可能にします。これにより、限られたハードウェアリソースで、高精細な映像出力を実現し、ユーザーに優れた視覚体験を提供できる可能性があります。今回は、この特許に記載された技術の具体的な内容、その原理、そしてゲーム分野における潜在的な影響について分析します。

1.背景と課題

背景技術

本特許に記載された発明は、機械学習、特にニューラルネットワーク、そして任意のデータセットや信号を、別のデータセットや信号へ変換する技術に関するものです。より具体的には、データセットや信号にブロック変換を適用することに焦点を当てています。この技術の応用例としては、ある解像度の画像を別の解像度(例えば、より高い解像度)に変換することが挙げられ、ビデオゲームエンジンによって生成される画像からのリアルタイムアプリケーションに用いられることが想定されています。

従来技術における課題

従来の画像アップコンバート技術には、いくつかの課題が存在します。

1. 演算コストの高さ
機械学習、特に深層学習ニューラルネットワークの一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、特定のタスクを学習する能力をコンピュータに与える強力なツールです。しかし、訓練済みのモデルを用いること(およびモデルを訓練すること)によって生じる処理は、リアルタイム環境で展開される場合、依然として演算コストが高いという課題があります。

2. 速度と品質のトレードオフ
画像アップコンバートは、第1の解像度(例:540p)で生成された画像をより高い解像度(例:1080p)に変換する技術です。このプロセスにより、高解像度のディスプレイ上に第1の解像度の画像を示すことが可能になります。しかし、異なるアップコンバート技術は、速度(所与の画像を変換するのにかかる時間)とアップコンバートされた画像の品質との間でトレードオフの関係になりがちです。例えば、ビデオゲーム中など、リアルタイムで行われる場合、結果として生じるアップコンバート後画像の質が悪くなることがあるという問題がありました。

3. メモリ帯域幅の制約
従来のCNNの実現例では、層データがGPUのレジスタ(または他の「高速」メモリ)に完全に適合しないことが多く、データを異なるメモリ場所間で転送する必要が生じ、DRAMへのアクセスによるパフォーマンスのボトルネックが発生し得るという課題がありました。高速メモリ(レジスタなど)に層の重みをロードし、DRAMから層入力をロードし、GPUで乗算を行い、非線形関数を適用し、層出力をDRAMに記憶するというプロセスは、DRAMへの頻繁なアクセスを伴います。

4. 受容野の伝搬
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は並進不変であるため、より多くの層が融合されるにつれて、単一の出力値を算出するにはより多くの入力が必要とされ、受容野(ニューラルネットワークのエンド値の「見る」能力/広範囲の入力に依存する)が増加することで、演算上のコストが上がってしまうという課題がありました。

どんな発明?

2−1.発明の目的

本特許は、機械学習、特に訓練済みのニューラルネットワークを用いて画像をある解像度から別の解像度に変換するための革新的なシステムと方法を提供します。この技術は、従来の画像アップコンバートにおける課題、特に演算コストと品質のトレードオフ、そしてメモリ帯域幅の制約を克服することを目指しています。

2−2.発明の詳細

1. 基本原理:分離可能なブロック変換 (SBT)
この発明の中核は、「分離可能なブロック変換(Separable Block Transform: SBT)」と呼ばれる技術にあります。SBTは、画像をブロックに分割し、各画素ブロックにコンテキストデータを追加し、これらをチャネルに分けて訓練済みのニューラルネットワークに適用するというものです。従来のCNNが全結合層や畳み込み層でデータの全体的な関連性を考慮するのに対し、SBTはより局所的なブロックレベルでの変換に特化しています。

具体的には、活性化行列に対して2つの別々の学習済み行列 L と R を適用します。

L は活性化行列の左側に乗算され、各データ点(画素)のすべてのチャネル値に線形変換を適用します。これは画素の位置とは独立に行われます。

R は活性化行列の右側に乗算され、各活性化チャネル(行)のすべての画素値に線形変換を適用します。これはチャネルの位置とは独立に行われます。

この変換は、X→LXR と表すことができますが 、実際には複数の LXR 項の総和として表現されます。

ここで、X nは現在の活性化行列、X n+1は変換後の活性化行列、Lin と Rin は学習済みの行列、k は総和の項数を示します。これにより、個別の LXR 項を組み合わせることで、より高い表現力を持ちながらも、重みの数や演算コストを低減できる可能性があります。

2. 処理フロー

この発明の画像コンバートプロセスは、主に以下のステップで構成されます。

2−1.ソース画像のレンダリングと準備 (ステップ200, 210, 300, 310, 320, 330)

まず、ビデオゲームエンジンなどによって、低解像度(例:540p)のソース画像が生成されます。

このソース画像は、4x4画素のブロックに分割されます。

各ブロックには、周囲の画素値に基づいた「コンテキストデータ」が追加され、8x8のコンテキストブロックが作成されます。このコンテキストデータは、変換後の画像の品質向上に寄与します。

コンテキストブロックは、複数の入力チャネルに分けられます。例えば、RGB値ごとに4つのチャネルに分割され、合計12個の入力チャネルが生成されます。

ソース画像205が4x4画素ブロック302に切断され、各ブロックが選択されます (300, 310)。次に、コンテキストデータが追加されて8x8コンテキストブロック322が作成され (320) 、これが複数の入力チャネル(333, 334, 335, 336など)に分割されます (330)。

2−2.行列への再編成 (ステップ220, 410)

準備された入力チャネルは、単一の16x16の活性化行列に再編成されます。この際、単一の画素のデータが複数の行に含まれることがあります。

この16x16というサイズは、GPU(グラフィック処理ユニット)などのハードウェアが持つアトミックな行列乗算の次元(例:NVIDIAのテンソルコアにおける16x16FP16行列乗算)に合わせて最適化されています。これにより、後続の処理において高い効率を実現します。

余分な行(例:12個の入力チャネルを16x16行列に収める場合、残りの4行)はゼロに設定されるか、深度情報や動き情報などの追加データが組み込まれることもあります。

図4には、入力データ215が16x16活性化行列225に再編成される様子が示されています (410)。各入力チャネル(333a, 333b, 333cなど)が活性化行列の特定の行に挿入され、残りの行はゼロに設定されます (420)。

2−3.ニューラルネットワークの実行 (ステップ230, 96)

活性化行列は、訓練済みのニューラルネットワーク(SBTネットワーク)を通じて実行されます。ここで、上述のL行列とR行列が適用され、活性化関数(例:ReLU)が適用されます。

この処理は、所定の回数(層の数、例:4回)繰り返され、活性化の変換後行列が生成されます。

重要なのは、この処理がGPUの内部メモリ(レジスタなど)内で完結し、DRAMへのアクセスを最小限に抑えることで、高速なリアルタイム処理を可能にしている点です。

図5には、活性化行列225がSBTネットワークを通じて実行され、LXR変換と活性化関数420が適用され、変換後の活性化行列235が生成される過程が示されています。

2−4.ブロックへの再編成 (ステップ240, 602)

変換後の活性化行列は、再び複数の出力チャネルの形態に再コンバートされます。例えば、12個の出力チャネルが作成されます。

図6には、活性化行列235の各行が、1080pの出力データ245の対応するブロック(602a, 602bなど)に再編成される様子が示されています。

2−5.コンバート後画像の生成と出力 (ステップ251, 260, 710, 720)

再編成された出力チャネルは、単一の8x8画素ブロックに結合されます。

これらの8x8画素ブロックを組み立てることで、最終的な高解像度(例:1080p)の画像が組み立てられ、ディスプレイに出力されます。

図7には、1080pの出力データ245が8x8画素ブロック712に結合され (710) 、複数の8x8画素ブロックから最終的な1080pの画像255が組み立てられる様子が示されています (720)。

3. 訓練プロセス

SBTネットワークの訓練は、訓練コンピュータシステム(例:図9の900)で行われます。

3−1.訓練データセットの準備 (ステップ1002, 1110, 1120, 1130, 1210, 1220, 1230, 1240)

複数の目標画像(高解像度画像、例:1080p)が準備されます。

これらの目標画像から、SBTネットワークの出力データとなる1080pの出力データと、SBTネットワークの入力データとなる540pの入力データが生成されます。540pの入力データは、1080pの出力データからダウンサンプリング(例:ポイントサンプリング)して作成されます。

図11には、1080pの画像1000が8x8画素ブロックに切断され (1110) 、各ブロックが選択されて (1120) 、複数の入力チャネル(1132, 1134, 1136, 1138など)に分けられることが示されています (1130)。

図12には、1080pの出力データ1006から540pの画像1212が作成され (1210) 、これが4x4画素ブロック1214に選択され (1220) 、コンテキストデータが追加されて8x8コンテキストブロック1232aが作成され (1230) 、これが複数の入力チャネルに分けられることが示されています (1240)。

3−2.ニューラルネットワークの訓練 (ステップ1008)

540pの入力データを用いて、訓練の結果が1080pの出力データに充分近いカバー範囲に収束するまでニューラルネットワークが訓練されます。

収束後、訓練済みのSBTネットワークの重み(L行列とR行列の係数)が記憶され、ゲーム機などに配信されます。

3−3.プルーニング

SBTは、各個別の総和要素(LXR項)をネットワークの残りに干渉することなく除去できるため、プルーニング(不要な重みや接続の削除)に適しています。これにより、モデルの複雑さを低減し、実行時間コストを削減できます。どのLXR項を除去するかは、グローバル損失への影響や勾配の低さに基づいて判断されます。

4. 利点と応用

この発明の主な利点は以下の通りです。

リアルタイム高解像度化
GPUのレジスタ内で主要な処理を完結させることで、DRAMへのアクセスを最小限に抑え、リアルタイム(例:1/60秒未満)での高解像度化を可能にします。

ハードウェア効率の最大化
活性化行列のサイズをGPUのアトミック演算に合わせることで、GPUの処理能力をほぼ100%近く(90%または95%以上)利用し、リソースの無駄をなくします。

メモリ帯域幅の低減
アプリケーション(特にビデオゲーム)に必要なテクスチャデータのサイズを削減できるため、全体のファイルサイズが小さくなり、物理媒体の容量やダウンロードに必要な帯域幅を節約できます。

柔軟なモデル設計
異なるゲームの種類や表示装置の解像度に合わせて、最適なSBTネットワークを訓練・適用できます。

アンチエイリアシングとノイズ除去
解像度変換だけでなく、アンチエイリアシングやレイ トレーシングに伴うノイズ除去、ぼけ除去などの画像処理にも応用可能です。

ダウンサンプリングの最適化
訓練段階でポイントサンプリングを用いたダウンサンプリングを導入することで、従来のサンプリング手法と比較して、同じ記憶空間内により多くの情報を詰め込むことができる可能性があります。

この技術は、ビデオゲームのアップコンバートだけでなく、リアルタイム画像認識、音声認識、時系列での異常検出、映像処理、3Dテクスチャ変換、画像分類、オブジェクト検出など、多岐にわたる応用が考えられます。特に任天堂Switch2のような携帯型ゲーム機では、限られた電力とリソースの中で高精細なグラフィックを実現するための強力な解決策となり得ます。

3.ここがポイント!

この発明のポイントは、画像をブロックに分割し、そのブロックごとにコンテキストデータを付加して活性化行列を構築することにあります。この活性化行列に対し、訓練済みの2つの行列(L行列とR行列)からなる分離可能なブロック変換(SBT)を適用することで、GPUの内部メモリ(レジスタ)内で主要な処理を完結させ、従来のメモリ帯域幅の制約を大幅に軽減しながらリアルタイムで高解像度化を実現する点です。これにより、少ないリソースで高品質な画像を生成し、ハードウェア効率を最大限に引き出すことが可能になります。

4.未来予想

特にゲーム業界において、以下のような発展が予測できます。

この任天堂の特許技術が実用化された場合、特にゲーム業界において、以下のような未来が予測されます。

1. ゲーム体験の飛躍的向上と普及の加速

• グラフィック品質の標準化と向上
限られた処理能力のデバイスでも、より高解像度かつ高フレームレートのゲーム体験が標準となります。例えば、携帯モードのSwitchでも、据え置き機に近い高精細な映像でゲームを楽しめるようになり、場所を問わず妥協のないグラフィックでゲームをプレイできる環境が普及するでしょう。

• 開発コストの最適化
ゲーム開発者は、これまで複数の解像度向けにアセットを準備する必要がありましたが、本技術により、低解像度向けのアセットで高品質な出力を得られるため、開発にかかる時間とコストを削減できるようになります。これにより、より多くの開発リソースをゲームプレイの革新やコンテンツの充実に費やすことが可能になるでしょう。

• クラウドゲーミングの更なる進化
クラウドゲーミングにおいて、低解像度の映像データをクライアント側にストリーミングし、クライアント側で本技術を使って高解像度化することで、データ転送量(帯域幅)を大幅に削減できます。これにより、より安定したクラウドゲーミング体験が提供され、通信環境が必ずしも良くない場所でも高品質なゲームを楽しめるようになるでしょう。これは、クラウドゲーミングの普及を加速させる重要な要素となる可能性があります。

2. ハードウェア設計と市場戦略への影響

• バッテリー寿命と携帯性の両立
従来の高性能グラフィックチップは電力消費が大きく、携帯型デバイスのバッテリー寿命を犠牲にしていました。本技術により、より効率的なアップスケーリングが可能になることで、バッテリー寿命を維持しつつ、高性能なグラフィックを実現できるようになり、携帯型ゲーム機のデザインと機能性の両立がさらに進むでしょう。

• 製品ラインナップの多様化
低価格帯のデバイスでも高画質なゲーム体験を提供できるようになるため、より幅広い価格帯の製品を市場に投入できるようになります。これは、新たな顧客層の獲得や、新興市場への参入を容易にする可能性があります。

• サードパーティ製ゲームの充実
開発コストの最適化は、特に中小規模のゲーム開発会社にとって大きなメリットとなります。これにより、より多くのサードパーティ製ゲームが任天堂プラットフォームに投入され、コンテンツの多様性が増すことが期待されます。

3. 他分野への応用と社会への波及

• リアルタイム映像処理の革新
ゲーム以外の分野でも、本技術の応用は広がるでしょう。例えば、監視カメラの低解像度映像を高精細化して人物や物体の識別精度を向上させたり、医療画像診断において低解像度データからより詳細な情報を引き出したりするのに役立つ可能性があります。

• ストリーミングサービスの高画質化
既存の動画ストリーミングサービスにおいても、帯域幅を抑えつつ高品質な映像を配信する技術として活用される可能性があります。これにより、特にモバイル環境での高画質コンテンツの視聴体験が向上するでしょう。

• VR/AR体験の向上
仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の分野では、限られた計算リソースの中で、よりリアルで没入感のある映像を提供することが求められます。本技術は、VR/ARデバイスの性能向上に貢献し、新たなインタラクティブ体験の創出を加速させるでしょう。

このように、本技術はゲーム業界に留まらず、広範な映像処理技術の進化を促し、私たちの日常生活における視覚体験を大きく向上させる可能性を秘めています。

権利概要

発明の名称機械学習される画像コンバートのためのシステムおよび方法
出願番号PCT/US2021/023939
出願日2020年3月25日
公開番号WO2021195251A1
公開日2021年9月30日
特許番号特許7651558号
出願人任天堂株式会社
発明者アレクサンドル デラットレ
テオ シャルベ
ラファエル ポンセ
国際特許分類(IPC) G06T 3/40
G06N 3/045
G06T 15/00
経過情報米国特許商標庁を受理官庁として国際出願された後、日本へ国内移行。

マウスとコントローラが融合。かつてない自由な操作感。

ゲーム業界は、多様なプレイスタイルに対応する入力装置の進化を常に模索しています。家庭用ゲーム機市場において確固たる地位を築いている任天堂は、革新的なゲーム体験の提供を追求し、その中心となる入力装置の開発に注力してきました。

今回紹介する特許「入力装置およびシステム」は、任天堂が開発した新型の入力装置に関するものであり、その機能と汎用性から、次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」への採用が期待される技術です。

この発明は、従来のゲームコントローラの操作性と、マウスのような精密なポインティング操作を両立させることを可能にする、画期的なハイブリッド型入力装置のコンセプトを提示しています。これにより、ゲームプレイの多様性が飛躍的に向上し、ユーザーはゲームタイトルや個人の好みに応じて最適な操作方法を選択できるようになるでしょう。

今回は、この技術に関する国際公開公報WO2025/027803A1の記載を掘り下げ考察します。

1.背景と課題

背景技術

本特許の背景には、ゲーム入力装置の進化と、それに伴う新たなゲーム体験の追求があります。特許公報では、背景技術として「特開2002-157085号公報」に開示されたワイヤレスマウスが挙げられています 。

従来技術における課題

「特開2002-157085号公報」に開示されているワイヤレスマウスは、その名の通り「マウスとしての使用しか想定されていない」という課題が指摘されています 。これは、従来の入力装置が特定の操作形態に特化しているため、多様なゲームプレイスタイルやアプリケーションへの対応に限界があることを示唆しています。

ゲームコントローラは通常、ボタン操作やスティック操作に最適化されており、精密なポインティング操作やデスクトップ環境での利用には適していません。一方で、マウスは精密なカーソル操作に優れているものの、ゲームコントローラが提供する多様な入力(例えば、複数のボタン、方向入力、ショルダーボタンなど)を網羅することは困難です。

このように、従来の技術では、マウスとしての使用とマウス以外の使用(例えば、ゲームコントローラとしての使用)を両立できる入力装置は提供されていませんでした。本特許は、この課題を解決し、一つの入力装置で両方の操作形態をシームレスに切り替えられる新規な入力装置を提供することを目的としています 。この汎用性の高さは、特に任天堂Switch 2のようなハイブリッド型ゲーム機において、ユーザー体験を大きく向上させる可能性を秘めています。

どんな発明?

2−1.発明の目的

この発明の目的は、「マウスとしての使用とマウス以外の使用が可能な新規な入力装置を提供すること」です。具体的には、従来のワイヤレスマウスがマウスとしての使用しか想定されていなかったという課題を解決し、一つの入力装置でゲームコントローラとしての操作と、マウスとしての精密な操作の両方を実現することを目指しています。

2−2.発明の詳細

1. 入力装置の全体構成

この発明の入力装置は、主に以下の要素で構成されます。入力装置(1)は、前面(15)、後面(16)、第1側面(11)、上面(12)、第2側面(13)、下面(14)を有します。前面(15)は、ユーザーに対向する面であり、後面(16)はその反対側にあります。第1側面(11)は左右方向の一方側(例: 左側)に位置し、第2側面(13)は左右方向の他方側(例: 右側)に位置します。上面(12)は第1側面(11)の上端に連なり、下面(14)は第1側面(11)の下端に連なります。

前面(15)には、方向入力部(31)が設けられます。方向入力部(31)は、例えばジョイスティック(31)であり、360度の方向に傾倒可能で押し込みも可能です。また、前面(15)には、4つボタン(32)(1組の4つボタン)、+ボタン(33)(1)、ホームボタン(33)(2)などの直線方向に押下可能な前面ボタンも設けられています。

上面(12)には、第1上面ボタン(140)が設けられます。この第1上面ボタン(140)は、左右方向の成分を含む方向に延びる第1回転軸(515)を中心として押下可能です。また、第1上面ボタン(140)の前方には、第2上面ボタン(130)が設けられることもあります。

さらに、本入力装置はマウス操作用センサ(174)を備えます。このセンサは、第1側面(11)および第2側面(13)のうちの一方の側面が被検出面(F)に載置された状態で当該被検出面(F)上を移動することにより変化する被検出面(F)からの反射光を検出します。

この入力装置は、例えばゲームコントローラとして使用される「第1入力装置(1)」として記述され(図1参照)、左右対称の「第2入力装置(2)」も存在し(図6参照)、これらが組み合わされて情報処理装置(1000)を構成します(図7参照)。本体装置(3)に着脱可能であり、単体での使用や、本体装置に装着した「一体把持状態」での使用が可能です(図30参照)。

2. 主要な特徴と機能

2.1 ハイブリッドな使用形態

この発明の最も重要な特徴は、一つの入力装置で「ゲームコントローラ」と「マウス」という二つの異なる使用形態を両立できる点です。

A. ゲームコントローラとして使用
前面(15)を前方に、上面(12)を上方にした「第1使用状態」において、方向入力部(31)や各種ボタンを操作してゲームコントローラとして使用できます(図24参照)。

B. マウスとして使用
第1側面(11)を下方にして被検出面(F)に載置する「第2使用状態」において、マウス操作用センサ(174)により移動を検出し、マウスとして使用できます(図25、図26参照)。この際、凸部(100)の天面(106)が被検出面(F)に対向するように載置され、第1マウスソール(191)などが被検出面(F)に接することで、マウスとしての安定した操作が可能です(図5参照)。

2.2 第1上面ボタン(140)のユニークな機構

第1上面ボタン(140)は、上面(12)に配置され、左右方向の成分を含む第1回転軸(515)を中心として押下可能です。

傾斜した回転軸
第1回転軸(515)は、第1側面(11)が被検出面(F)に載置された際に、被検出面(F)に垂直な方向に対して入力装置(1)の下方側に傾いた方向となるように構成されてもよいです(図16参照)。この傾斜角度(第1角θ1)は、被検出面(F)と第1回転軸(515)とが成す角に対応し、例えば45°であるか、または45°より大きくてもよいとされます。これにより、マウス操作時には被検出面(F)に向かって押し下げやすくなり、コントローラとして使用する際には人差し指や中指で操作しやすくなります。

前面に平行な平面: 第1回転軸(515)は、前面(15)に平行な平面方向に沿って延びてもよいですが、本実施形態では、前後方向に垂直な平面方向に沿って延びています。

押下検出
第1上面ボタン(140)は、押し部(507)が第1スイッチ(581)を押下することで操作が検出されます(図17A、図17B参照)。押下方向(S1)は、上面(12)から下面(14)に向かう方向の成分を含みます(図18、図19参照)。

2.3 第2上面ボタン(130)の機構
第1上面ボタン(140)の前方(前面(15)側)に設けられる第2上面ボタン(130)は、直線方向に押し込み可能であるか(図20参照)、または前後方向の成分を含む第2回転軸(81)を中心として回動可能であることが特徴です(図21参照)。

複合的な動作
第2上面ボタン(130)は、直線的な押し込みと回動の両方が可能なように設計されています。第1軸穴(138)と第2軸穴(137)にそれぞれ第1軸(81)と第2軸(82)が配置され、これにより直線移動と回動が実現されます(図21参照)。特に、第2軸穴(137)は第1軸穴(138)よりも左右方向に長く設けられることで、第2上面ボタン(130)の左右方向の移動がある程度画定されます。

支持面の傾斜
第2上面ボタン(130)が押下されることにより作動する第2スイッチ(143)の支持面(149)は、第1側面(11)が被検出面(F)に載置された際に、被検出面(F)に垂直な方向に対して入力装置(1)の下方側に傾いた方向となるように構成されてもよいです(図20参照)。この角度(第2角θ2)は、被検出面(F)と支持面(149)とが成す角に対応し、例えば45°より大きく、60°以上であってもよいとされます。これにより、マウス操作時やコントローラ操作時において、ボタンの横滑りを抑制しつつ操作性を維持します。

2.4 マウス操作用センサ(174)の配置とマウス操作時の利点

マウス操作用センサ(174)は、凸部(100)の天面(106)に設けられた第1開口(170)を通じて被検出面(F)からの反射光を検出します。この第1開口(170)は、上下方向において方向入力部であるスティック(31)と4つボタン(32)の間に位置してもよいとされます。これにより、マウス操作時に親指でスティックやボタンを操作しつつ、手の中央に近い位置でカーソルを動かすことができ、ユーザーの意図に沿ったマウス操作が容易になります。

3. 各部の詳細および他の特徴

凸部(100)と本体装置への装着: 入力装置(1)は、本体装置(3)の凹み(310)に嵌合する形状の凸部(100)を有しています(図1、図10参照)。第1開口(170)は、この凸部(100)の天面(106)に設けられています。本体装置(3)に装着された際には、第1開口(170)が凹み(310)の内部に配置されることで、外部に露出しないようにすることも可能です。これにより、マウスとして使用しない場合にセンサ部を保護できます。

4. 任天堂Switch 2への技術採用について

この特許に示される技術は、以下のような点から、「Switch2」のような次世代ゲーム機にとって非常に有効であると考えられます。

多様なプレイスタイルへの対応
Nintendo Switchはその名の通り、携帯モード、テーブルモード、TVモードと多様なプレイスタイルを提供しています。本特許の入力装置は、コントローラとしての操作性とマウスとしての精密な操作をシームレスに切り替えることができるため、これらのモードにおけるゲーム体験をさらに深化させることができます。例えば、携帯モードではコントローラとして、テーブルモードで外部モニターに接続した際にはマウスとして、といった使い分けが可能です。さらに、第1入力装置と第2入力装置を左右の手に持って、それぞれマウスとして使用する、あるいは一方をマウス、他方を縦持ちのコントローラとして使用するといった多様な使用形態も想定されています。

UI/UXの向上
ゲーム内のメニュー操作やWebブラウジング、あるいは特定のゲームジャンル(例えば、マウス操作を前提とするPCゲーム)において、精密なポインティング操作が求められる場面において、マウス機能はユーザーインターフェース(UI)およびユーザーエクスペリエンス(UX)を大幅に向上させます。

新たなゲームジャンルの可能性
マウス操作が可能になることで、PCゲームで主流となっているRTS(リアルタイムストラテジー)やFPS(ファーストパーソンシューター)などのジャンルにおいて、より快適な操作が実現し、新たなゲームタイトルの開発や既存タイトルの移植が促進される可能性があります。

携帯性と機能性の両立: 入力装置自体がコンパクトでありながら、コントローラとマウスの両方の機能を内包することで、ユーザーは外出先でも多様な操作を行うことができ、デバイスの携帯性を損なうことなく機能性を高めることができます。

独自性の強化
任天堂は常に革新的な入力デバイスでゲーム業界をリードしてきました。このハイブリッド型入力装置は、他社のゲーム機にはない独自性を提供し、Switch2の競争力をさらに高める要素となり得るでしょう。

この発明は、単なるゲームコントローラやマウスの改良にとどまらず、ユーザーがデバイスとインタラクトする方法に新たな選択肢をもたらし、より柔軟で豊かなデジタル体験を提供することを目指しています。

3.ここがポイント!

この発明は、ゲームコントローラとしての操作性とマウスとしての精密な操作を兼ね備えた、一台二役のハイブリッド型入力装置にあります。特に、左右方向の成分を含む傾斜した回転軸を持つ第1上面ボタンと、直線的な押し込みまたは前後方向の成分を含む回転軸での回動が可能な第2上面ボタンの採用により、ゲームコントローラ使用時の操作性とマウス使用時のクリック操作性の両立を図っています。また、マウス操作用センサを本体装置の装着部分である凸部に配置し、本体装置に装着時にはセンサが露出しないようにできる点も特徴です。これにより、多様なゲームプレイスタイルやアプリケーションに対応し、任天堂Switch 2のような次世代ゲーム機において、UI/UXの大幅な向上と新たなゲーム体験の創出が期待されます。

4.未来予想

この発明が実用化された場合、特に「Nintendo Switch 2」のようなハイブリッド型ゲーム機に採用されれば、ゲーム体験は飛躍的に多様化し、エンターテインメントの新たな地平を切り拓くでしょう。

まず、ゲームプレイの柔軟性が劇的に向上します。従来のゲームは、コントローラ操作に最適化されたものと、マウス操作に最適化されたものとで、プレイ可能なジャンルが明確に分かれていました。しかし、この入力装置が普及すれば、ユーザーはゲームのジャンルや個人の好みに応じて、ゲームコントローラとして直感的に操作したり、あるいはマウスとして精密なカーソル操作を行ったりと、シームレスに切り替えられるようになります。例えば、RPGの探索パートではコントローラで没入感を高め、メニュー操作やアイテム管理ではマウスに切り替えて効率的に操作する、といったことが当たり前になるかもしれません。PCで主流のRTSやFPSといったジャンルも、より快適にコンソールで楽しめるようになり、新たな層のゲーマーを取り込む可能性を秘めています。

次に、ゲーム機が提供する体験がゲームに留まらなくなります。高機能なマウス機能を持つ入力装置は、ゲーム機を「リビングのPC」へと進化させるでしょう。Webブラウジング、動画視聴アプリの操作、SNSの利用、さらには簡単な文書作成や表計算といったライトな作業まで、ゲーム機一台で完結できるシーンが増えるはずです。特に、任天堂Switchのドック機能のように、テレビに接続して大画面でこれらの操作をマウスで行えるようになれば、リビングのエンターテインメントハブとしての役割が強化されます。教育コンテンツやクリエイティブツールなども、マウス操作によってより使いやすくなり、ゲーム機の活用の幅が大きく広がるでしょう。

さらに、アクセシビリティの向上にも貢献する可能性があります。従来のコントローラ操作が難しいと感じるユーザーでも、マウス操作に切り替えることで、より多くのゲームやアプリケーションを楽しめるようになるかもしれません。また、左右のコントローラがそれぞれマウスとして機能する可能性も示唆されており(図27参照)、これは多様な身体的ニーズを持つユーザーにとって、新たな操作の可能性を提示します。

総じて、この発明は、ゲーム機の機能性を単一のゲームプレイ体験から、より包括的なデジタルライフスタイルツールへと拡張する重要な一歩となるでしょう。ユーザーは、これまで以上に自由で快適なインタラクションを通じて、エンターテインメントだけでなく、学習や日常の作業においても、ゲーム機を積極的に活用する未来が訪れると予想されます。

権利概要

発明の名称入力装置およびシステム
出願番号PCT/JP2023/028165
出願日2023年8月1日
公開番号WO2025/027803A1
公開日2025年2月6日
出願人任天堂株式会社
発明者武井 誠也
郡山 和彦
国際特許分類(IPC) G06F 3/0354
A63F 13/213
経過情報

かつてない「感触」が、遊びを革新する

ゲームコントローラは、プレイヤーがゲーム世界と繋がるための最も直接的なインターフェースです。その進化は、ボタンの数や配置、スティックの操作性など、多岐にわたってきましたが、近年、特に注目されているのが「触覚フィードバック」の進化です。単なる振動に留まらない、よりリッチで情報量の多い触覚体験が、プレイヤーの没入感を決定づける重要な要素となりつつあります。

このような背景の中、任天堂株式会社が、革新的な技術を提示しました。2024年12月24日に登録された特許7610618、「情報処理システム、コントローラ、情報処理方法、情報処理プログラム」は、アナログスティックの操作感度を、ゲーム内の状況に応じて動的に変化させるという、画期的なメカニズムが開示されています。

今回は、この任天堂の最新特許がどのような技術であり、いかにして私たちのゲーム体験を変える可能性を秘めているのかを深掘りしていきます。特に、次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」への搭載が期待されるこの技術が、私たちにどのような「新たな境地」をもたらすのか、その未来を展望します。


ゲーム体験の向上は、エンターテインメント産業において最も重要な課題の一つです。特に、コントローラーを通じた触覚フィードバックは、プレイヤーの没入感を高め、操作の精度を向上させる上で極めて重要な要素です。このような背景の中、任天堂株式会社によって取得された本特許は、アナログスティックの操作感度を動的に変化させる革新的な技術を提案しており、次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」への採用が期待されています。

今回は、この任天堂の新規特許に焦点を当て、その核心技術である磁気粘性流体(MRF)を用いた粘性制御メカニズム、およびそのゲームプレイへの応用可能性について詳細に分析します。特に、本特許がユーザーに提供する新しい操作感覚や情報量の向上という観点から、その技術的意義と将来性について考察します。

1.背景と課題

背景技術

従来から、ボタンやスティックなどの操作子を備えたコントローラは広く知られていました。これらのコントローラは、ゲームをプレイする上で不可欠な入力装置として進化してきました。

従来技術における課題

従来のコントローラでは、操作子を操作する際にユーザーが受け取る情報量や感覚の向上という点において、改善の余地があることが課題として認識されていました。具体的には、単なる物理的なボタンの押下やスティックの傾倒による入力だけでなく、ゲーム内の状況やオブジェクトの状態に応じて、よりリッチな触覚フィードバックを提供することで、ユーザー体験をさらに高める必要がありました。

どんな発明?

2−1.発明の目的

本特許「情報処理システム、コントローラ、情報処理方法、情報処理プログラム」(特許7610618)は、ゲームコントローラにおける操作子の触覚フィードバックを革新する技術です。特に、磁気粘性流体(MRF)を用いることで、アナログスティックの操作感をゲームの状況に応じて動的に変化させ、より豊かなユーザー体験を提供することを目的としています。

2−2.発明の詳細

1. 発明のコア技術と構成

本発明の核心は、操作子(スティック)の動きに対する抵抗を、磁気粘性流体(MRF)の粘性変化によって制御する点にあります。MRFは、磁場を印加することで粘性が変化する特性を持つ流体です。磁場を印加しないときは液体に近い状態ですが、磁場を印加すると半固体化し、粘性が増大します。この変化が非常に高速(数ミリ秒)で起こるため、リアルタイムでの触覚フィードバック制御が可能です。

情報処理システム全体の構成(図1参照)

情報処理システム1は、情報処理装置本体2、モニタ3、およびコントローラ4で構成されます。コントローラ4は無線で情報処理装置本体2と接続され、ユーザーの操作データを本体に送信し、本体からはコントローラ4の動作を制御するためのデータを受信します。

情報処理装置本体2の内部構成(図2参照)

情報処理装置本体2は、プロセッサ11(CPU、GPU、SoCなど)、記憶部12(フラッシュメモリ、DRAMなど)、コントローラ通信部13、映像音声出力部14を備えます。プロセッサ11は、記憶部12に保存されたアプリケーションプログラムを実行し、コントローラ4のMRF粘性制御を含む各種情報処理を行います。

コントローラ4の内部構成(図3参照)

コントローラ4は、コントローラ制御部41、アナログスティック42、デジタルボタン部44を含みます。コントローラ制御部41はコントローラ全体の制御を担い、情報処理装置本体2からのデータに基づいてアナログスティック42の粘性制御などを行います。

アナログスティック42の詳細構成(図4〜8参照)

アナログスティック42は、全体としてスティックデバイス400をなし、スティック部401、外郭部404、X軸用可変抵抗器405、Y軸用可変抵抗器407、X軸用MRFユニット406、Y軸用MRFユニット408などで構成されます。

可変抵抗器(405, 407)は、スティック部401の傾き具合や変位方向を検出します。

MRFユニット(406, 408)は、MRF容器421に充填されたMRFと、それを覆う磁場発生部422(コイルなど)で構成されます。コントローラ制御部41からの電圧電流変換回路部431を介した電流供給により磁場が発生し、MRFの粘性が変化します。この粘性変化によって、スティック部401の動きやすさに抵抗を与え、操作感を動的に制御します。X軸とY軸で個別に粘性制御が可能であり、例えばX軸方向にだけ動きやすくすることもできます。

2. MRFによる粘性制御(第1の実施例)

本発明の第1の実施例では、アナログスティック42の現在位置に応じてMRFの粘性を制御します。

【第1の状態と第2の状態】

システムは「第1の状態」と「第2の状態」を切り替え可能です。

第1の状態
操作子の可動域は、物理的な規制部材によって「基本可動域」(例えば、円形の開口部)に制限されます。

第2の状態
粘性制御が行われる状態です。

【第1の粘性 vs. 第2の粘性】

第1の粘性
アナログスティック42が抵抗感なく自由に動かせる程度の低い粘性です。

第2の粘性
通常の力加減ではアナログスティック42を動かせない程度の高い粘性です。ただし、かなりの力を加えれば動かすことも可能です。

【領域パターン】(図10, 図11参照)

基本可動域は「第1領域」と「第2領域」に分けられます。

第1領域
初期位置を含む領域で、第1の粘性が割り当てられます。

第2領域
第1領域とは異なる領域で、第2の粘性が割り当てられます。

図10: 基本可動域の中央に四角形の第1領域があり、その周囲が第2領域として定義されています。

図11: 略三角形状の領域が第2領域、それ以外が第1領域として定義された例です。これにより、操作子が特定の箇所で「ひっかかる」ような感覚をユーザーに提供できます。

【制御の仕組み】

アナログスティック42が第1領域内にあれば第1の粘性に、第2領域内にあれば第2の粘性にMRFが制御されます。これにより、ユーザーはあたかも可動域が物理的に変化したかのように体感できます。

アプリケーションにおける適用例

領域パターンは、実行中のアプリケーションの状況や場面に応じて使い分けられます。

場面に応じた切り替え
メニュー画面操作時は基本可動域全体が第1の粘性となるパターンを適用し、特定のオブジェクト操作時はその特性に合わせた領域パターンを用いることができます。

キャラクターの状態表現
例えば、キャラクターの体力値が低下すると、操作感が重くなる(可動域が第1領域に限定されるように感じさせる)ことで、「体力低下による動きにくさ」を触覚で表現できます。

仮想空間の地形表現
仮想空間内の地形や環境に応じて、第1領域と第2領域の内容を設定できます。例えば、移動しやすい場所では自由に操作でき、移動しにくい場所(沼地など)では粘性制御によって操作が重くなるように設定できます。また、壁などの障害物に応じて特定の方向への動きを制限する触覚を提示することも可能です。

見えないオブジェクトの表現
第2領域を画面上では表示せず、触覚のみでその存在をユーザーに感じさせることで、隠れたオブジェクトや障害物を探索させるゲーム体験も提供できます。

複数オブジェクトの操作感
複数の操作対象オブジェクトがある場合、選択されたオブジェクトに応じて異なる領域パターンを設定し、それぞれに合わせた操作感を提供できます。

処理の流れ(図12, 図13参照)

情報処理装置本体2の記憶部12には、アプリケーションプログラム511、領域定義データ512(領域パターン情報513を含む)、使用領域データ514、粘性定義データ515、操作データ516などが記憶されます。

1. プロセッサ11がアプリケーションの状況に応じて使用する領域パターンを決定します(S1)。
2. アナログスティック42の現在位置を算出します(S2)。
3. 現在の領域パターンとスティック位置に基づき、粘性パラメータ(第1または第2の粘性)を決定します(S3)。
4. 決定された粘性パラメータに基づいてMRFの粘性制御を行います(S4)。これはプロセッサ11からコントローラ制御部41へパラメータを出力し、コントローラ側でMRFユニットの磁場強度を制御することで行われます。
5. その他のアプリケーション処理(例: 操作オブジェクトの移動)を実行します(S5)。
6. 処理結果を反映した画像を生成し、モニタ3に出力します(S6)。
7. アプリケーション終了条件を判定し、終了しない場合はS1に戻り処理を繰り返します(S7)。

3. 変位方向に基づいた粘性制御(第2の実施例)

本発明の第2の実施例では、アナログスティック42が第2領域に位置する場合に、その変位方向に基づいた粘性制御を追加します。これにより、第1領域と第2領域の境界付近での操作感をより繊細に調整できます。

制御の仕組み(図14, 図15参照)

アナログスティック42が第2領域にある場合(図14のような状態)、以下の処理が行われます。

1. アナログスティック42の変位方向を算出または検出します(S21)。検出方法としては、移動前後の相対位置から移動ベクトルを算出する方法や、力センサなどの高精度センサを用いる方法が挙げられます。
2. 変位方向が第1領域に近づく方向であるか、離れる方向であるかを判定します(S22)。
3. 第1領域に近づく方向の場合(S22: YES): MRFの粘性を現在の粘性よりも小さく制御します(S23)。これにより、スティックが第1領域へ戻りやすくなります。
4. 第1領域から離れる方向の場合(S22: NO): MRFの粘性を現在の粘性よりも大きく制御するか、現在の粘性を維持します(S24)。これにより、スティックが第1領域から離れる動きを抑制できます。

4. その他の変形例

ユーザーへの通知
領域パターンを切り替える際に、ユーザーに操作子を初期位置に戻すよう促したり、可動範囲が変更されたことを通知したりすることができます。

ユーザー設定
ユーザーの好みや個人差に合わせて、領域パターンの定義(例: 第1領域の大きさ)を任意に設定できるようにすることも可能です。設定された可動範囲に応じて入力値の補正も行われます。

複数のアナログスティック
左右のスティックを持つコントローラの場合、それぞれに異なる領域パターンを設定することで、多様な操作感を提供できます。

MRFユニットの配置
MRFユニットの具体的な配置は、操作子の動きやすさに影響を与えられる限り、他の位置でも可能です。

この発明は、磁気粘性流体を用いた精密な触覚フィードバック制御により、従来のコントローラでは得られなかった、ゲーム内の状況と連動した多様で直感的な操作感をユーザーに提供することを可能にします。

3.ここがポイント!

本発明のポイントは、磁気粘性流体(MRF)を用いてアナログスティックの操作感をゲームの状況に応じて動的に変化させることで、ユーザーに新たな触覚フィードバックと情報量を提供し、没入感と操作性の向上を図る点にあります。具体的には、アナログスティックの位置や変位方向に応じてMRFの粘性を「第1の粘性(低抵抗)」と「第2の粘性(高抵抗)」の間で制御し、可動範囲や操作感に擬似的な制限や多様な変化をもたらすことで、アプリケーションの状況に合わせた多彩な操作感を実現します。これにより、例えばキャラクターの体力低下や仮想空間の地形変化といったゲーム内の状態を触覚で表現し、これまでにないゲーム体験を提供することが可能となります。

4.未来予想

この発明による最も大きな変化は、コントローラを介した触覚フィードバックの質的な向上です。従来の振動機能に加えて、アナログスティックの抵抗感がゲーム内の状況に応じて細やかに変化することで、プレイヤーはよりリアルで没入感のある体験を得られるでしょう。例えば、ゲーム内のキャラクターが沼地を歩く際にはスティックが重く感じられたり、氷の上を滑る際には抵抗がなくなったり、風の抵抗を感じるような繊細な操作感も表現可能になります。

さらに、ゲームプレイにおける情報伝達の手段が増えることも予想されます。画面上の情報だけでなく、触覚を通じて隠されたオブジェクトの存在や、キャラクターの体力低下などの状態がプレイヤーに直感的に伝えられるようになるでしょう。これにより、視覚情報に頼りきりだったゲームプレイが、より多感覚的になり、新しいプレイスタイルや謎解き要素が生まれる可能性を秘めています。

操作性の面では、特定のアクションに応じてスティックの可動域が擬似的に制限されることで、誤操作を防ぎ、より正確な操作を促すことができます。また、ユーザーの好みに合わせてスティックの操作感をカスタマイズできる機能も実現し、個々のプレイヤーに最適な操作環境を提供できるでしょう。

この技術は、特に「Nintendo Switch 2」のような次世代ゲーム機での採用が期待されており、任天堂が追求する「触感を介した遊び」の新たな可能性を切り開くことになるでしょう。将来的には、ゲームだけでなく、VR/ARデバイスのインターフェースや、医療トレーニング、遠隔操作ロボットの制御など、より広範な分野での応用も期待されます。

権利概要

発明の名称情報処理システム、コントローラ、情報処理方法、情報処理プログラム
出願番号PCT/JP2020/046104
出願日2020年12月10日
公開番号WO2022/123737A1
公開日2022年6月16日
特許番号特許7610618号
出願人任天堂株式会社
発明者坂本雅典
往安健一青木 孝文
岡村 考師
谷口 祐規
生田 紘樹
武井 誠也
国際特許分類(IPC) G06F 3/01
G06F 3/0338
経過情報

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