「世界初の3輪電動バイク」を開発した 国際レーサー兼CEOの企業ストーリーに迫る。


レンタサイクルやカーシェアなど、スマホアプリとの連携によるサービスによって、ますます多様化する現代の移動手段。

なかでも今回は、気軽で扱いやすいことから特に人気を博している「電動バイク」にフォーカスし、国際レーサーとしての経験を元に多分野で活躍する女性実業家・井原慶子氏にインタビュー。自身が手がけた世界初の電動バイクをめぐる企業ストーリーをお伺いする。

PROFILE

井原 慶子

IHARA KEIKO

次世代モビリティおよび移動サービスの開発・製造・販売事業を展開する「Future 株式会社」の代表取締役CEO。

国際レーサーとして世界70か国を転戦し、カーレースの世界最高峰・WEC世界耐久選手権では女性で初めて表彰台に。

ほか、日産自動車の独立取締役、慶應義塾大学大学院の特任准教授、電気自動車普及協会アドバイザーなど多岐にわたって活躍。

世界初「フルカーボン3輪電動バイク」とは!?

一流カーレーサーである井原慶子氏らが開発

世界初となる次世代の電動バイクを開発し、その製造・販売、サービス事業も展開するFuture株式会社。その代表取締役CEOを務める井原氏は、女性カーレーサーとして世界最高位を獲得した人物だ。

井原氏は、世界中で転戦した国際レーサーとしての経験や知見を軸に、大企業や経産省、大学院など活躍の場を広げ、様々なことに挑戦しており、そのチャレンジのひとつが、今回お話をお伺いした次世代モビリティ「フルカーボン3輪電動バイク」の開発である。

フルカーボン=超軽量!

開発のきっかけとなったのは「誰でも気軽に楽しく乗れるパーソナル・モビリティがあればいいのになぁ」という想い。「じゃあ、作ってみよう!」と即座に動き始めたわけだが、そのスピード感はさすが世界の一流レーサー、走り出すと止まらない。

「誰でも乗れる」というコンセプトを実現するために、まず取り組んだのは、車体を「超軽量」にすること。軽さと剛性を併せ持つカーボンに目をつけ、誰でもひょいと車体の向きを変え、気軽に取り回しができるフルカーボンの電動バイクが誕生した。

特許取得サスペンションで軽快なコーナリングを実現

次に考えたのは、運転のしやすさ。実は、これまでの3輪の電動バイクには、コーナリングが難しく、カーブを曲がりきれなくて事故になることが多いという課題があった。

この課題をクリアするためにFuture株式会社CTOで工場長の藤井氏と共に開発したのが、「左右の向きを変えるステアー」と「タイヤを倒し込むリーン」を両立することで特許を取得した「3輪マルチリーンステアサスペンション」だ。この新開発の機構を搭載することで、簡単なハンドリングで軽快にコーナーを走行することが可能になった。

井原氏は多様化する現代の移動ニーズにも目を向け、開発を軸に、製造・販売する会社「Future株式会社」を立ち上げて、地域や大型施設にアプリと連動したシェアリング・サービスを提供する事業も展開している。

レーシングマシン開発のノウハウと人脈を結集

次世代バイクを生み出したのはコロナ!?

実は、3輪電動バイクの着想を得たのはコロナ禍の真っ只中。井原氏は近所の商店街でこんな話を耳にする。「人が集まると密になって良くないよね。もっといろんな人が気軽に乗りこなせるバイクみたいなものがあったら、密にならずに楽しくお出かけしたりできるのに…」。

ただのつぶやきのようなこの一言、その小さな一瞬の火花が井原氏のエンジンに火をつけた。特許をめぐって色々な人にお話を伺うが、この最初の灯火に着目し、大きな炎に変えていける力がいかに大切かを改めて感じさせる。

レーサーとしての経験、知見、人脈をフル活用

もともとレーシングカーの開発に携わっていたり、設計者や技術者、開発チームや工場などのつながりも多かった井原氏は、レーサーとして築き上げたノウハウや人脈を結集。

聞けば、プロトタイプの開発に3ヶ月、そこから製品化までのブラッシュアップに3ヶ月、という脅威のスピードでプロジェクトは疾走。よく、レーシングカー開発の世界は、設計したらすぐカタチにしていくスピード勝負という話を聞くが、さすが一流レーサー・井原氏が率いる開発チームだ。

一番苦労したのは、軽量化と耐久性のバランス。軽くて扱いやすい&壊れない、という両極の要素を両立させるために、タイヤの傾斜具合やハンドリングに関わるフレームの太さを、それこそ藤井CTOが作っては井原氏が乗ってを繰り返して仕上げていった、という。

会社が走り続ける証としての「特許取得」

特許取得のキーワード「時代性×汎用性」

開発のきっかけこそ「誰でも乗れるバイクを」という想いだったが、それは発想の種でしかない。プロジェクトの本質は、その種をどのように育て、どうやって大きな木にしていくか、にある。

井原氏が「電動バイク」に着目した理由は「カーボンニュートラル社会」への対応のため。移動モビリティの小型化やE V化の向上、新しい生活様式に寄り添う移動スタイルなど、これからの時代が求めているものを外していないことがポイントだ。

もう一つ、井原氏が重要視したと語るのは「汎用性」。今回、特許を取得した「3輪マルチリーンステアサスペンション」は、バイクだけではなく、3輪の自動車など様々なモビリティに活用していける可能性があるもの。だからこそ、特許取得しておこうという発想になったという。

つまり、特許取得を考える際の指標としては、「時代性×汎用性」を考えることが大事だということだ。なるほど確かに、特許が未来へ向けての知的資産となり得るには、どちらも欠かせない重要なファクターである。

井原氏の考える「特許とビジネスの関係」とは

最後に「特許を取得する最大のメリットは?」という質問を投げかけると、瞬時に返ってきたのは「企業価値の向上です」という答えだった。

「特許取得の目的はもちろん、独占的にビジネスを進めることやライセンス事業の展開という面もあります。でも、それは目先のお金だけのことではなく、弊社が企業価値を上げることも重要視しているからです。出資者や協力者をはじめ、会社は本当に色々な人が携わってくれているからこそ成り立つもの。特許取得は、社会課題を解決する技術や特許サービスを利益化していく信頼の証になるということが一番のメリットだと思っています」と井原氏は語る。

ビジネスを起こすものとしての責任をしっかりと背負い、会社が走り続けていくための意思証明としての特許取得という発想には、思想として美しさすら感じる。

目の前に見えている道だけではなく、これから迎える道、その先の未知なる可能性を秘めた道まで、遠く見定めながら、これからも様々なことに挑戦する井原氏のレースは続いていくのだろう。


Latest Posts 新着記事

“検索するAI”ではなく“見抜くAI”へ――Aconnect進化の本質

欧州特許対応は、単なる検索対象の追加ではない ストックマークの製造業向けAIエージェント「Aconnect」は、2026年4月30日、特許調査エージェントの調査対象に新たに欧州特許(EPO)を追加したと発表した。これまで対象だったのは日本特許庁(JPO)、米国特許商標庁(USPTO)、世界知的所有権機関(WIPO)の公報で、今回の対応によって、欧州企業の特許を含むより広範な先行技術調査やクリアラン...

“銀行を壊さないブロックチェーン”は広がるか――Swift連携特許を読む

今回の特許は、単なるブロックチェーン活用ニュースでは終わらない 株式会社Datachainは2026年5月1日、Swiftと連携したステーブルコインを用いた送金システムに関する特許登録が完了したと発表した。特許名は「ステーブルコインを用いた送金システム」、特許番号は第7850327号、登録日は2026年4月14日で、特許権者は株式会社Progmatと株式会社Datachainであると公表されている...

ティルトシフトは次の主役になれるか――キヤノン特許が示す野心

今回の特許が面白いのは、単焦点1本の話では終わらないことだ キヤノンのティルトシフト関連特許として、24mm F3.5、17-24mm F4、100-400mm F4.5-5.6といった光学系が話題になっている。公開情報ベースでは、2026年2月に「TS 17mm F4」相当と思われるミラーレス向けティルトシフト光学系の特許出願が紹介されており、既存の一眼レフ用TS-E系とは違う方向性が見えている...

“作れるだけのノーコード”では勝てない――SmartDBが示した次の一手

今回の特許は、単なる機能追加の話ではない ドリーム・アーツが、SmartDBの「ダイナミック・ブランチ機能」で特許を取得した。発表によれば、対象は特許第7809268号で、SmartDBに搭載される同機能は、大企業の複雑な業務構造を「業務のデジタルツイン」として完全ノーコードで実現するものだという。会社側は、この機能がすでにSmartDBの標準機能として提供され、多くの大企業で活用されているとも説...

4月に出願公開されたAppleの新技術〜吸着力を劇的に高め、ひねって外せる次世代MagSafeの磁気構造〜

4月に出願公開されたAppleの新技術〜吸着力を劇的に高め、ひねって外せる次世代MagSafeの磁気構造〜   はじめに ワイヤレス充電器にスマートフォンを置いたとき、少しずれていて充電されていなかったり、逆にスタンドから外そうとしたら本体ごと持ち上がってしまったりした経験はありませんか? これまでのMagSafeも非常に便利でしたが、保持力と使い勝手のバランスにはまだ改善の余地がありました。 A...

“AIで判定する”だけでは勝てない――特許検討で差がつくインフラ点検の未来

インフラ点検ロボットの本当の課題は、移動より“判定”にある インフラ点検ロボットというと、多くの人はまず「人が行きにくい場所へ行ける機械」を思い浮かべる。 橋梁、トンネル、配管、法面、設備機器。 危険な場所や広い範囲を、人の代わりに見に行く。 確かにそれは大きな価値だ。実際、国土交通省も、ロボットによる点検DXについて、施設管理の省人化・効率化・迅速化につながると説明している。 だが、現場で本当に...

企業向けAIの信頼性は検索で決まる――chai+特許のインパクト

企業向け生成AIがつまずくのは、会話の上手さではなく「根拠の弱さ」だ 生成AIを企業で使おうとすると、多くの現場で最初にぶつかる壁は同じである。 文章は自然だ。受け答えも速い。だが、その答えが本当に自社文書に基づいているのか分からない。あるいは、社内規程や製品マニュアルのような“正確さが命”の情報になるほど、答えがあいまいになったり、もっともらしい誤答が混ざったりする。つまり、企業向けAIで本当に...

レアアースはあっても勝てない――南鳥島沖開発が抱える技術敗戦リスク

南鳥島沖レアアースは「希望」だが、それだけでは足りない 南鳥島沖のレアアース泥は、日本の資源安全保障を一変させる切り札として語られてきた。 東京大学の研究チームは、南鳥島EEZ南部の海底に膨大なレアアース資源が眠っている可能性を示し、それは世界需要の長期的な供給源になり得るとされた。こうした発見は、日本が「資源の乏しい国」というイメージを揺さぶるには十分なインパクトを持っていた。 だが、ここで冷静...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

大学発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る