弁理士


弁理士とは

弁理士とは、簡単にいえば「知的財産に関する専門家」です。知的財産というのは、主に「特許」「実用新案」「意匠」「商標」といった工業所有権(産業財産権)が挙げられますが、これだけでなく著作権や種苗(植物の品種)、営業秘密やノウハウなど、とても幅広い分野を指します。

こうした知的財産を権利として扱い、特許庁などの官公庁と、発明者等の権利者との橋渡しをすることを始めとして、知的財産を活用していくサポートをしていくこと、さらには知的財産の創出を行っていくことが、弁理士の責務といえます。

弁理士の仕事は大きく3つの役割に分けられる

1.特許庁への出願手続きの代理及び鑑定等(弁理士法第4条第1項)

新しい発明や考案をした場合には、特許権や実用新案権、デザインの場合には意匠権を取得しておかないと、第三者からマネされたり、最悪のケースでは第三者が先に独占権を取得してしまい、せっかく創作した発明や考案、デザインを、自由に使うことができなくなってしまいます。弁理士は、こうしたことのないように、特許権、実用新案権、意匠権等を取得するサポートを行います。

弁理士は、まずクライアントから提示された技術の内容を把握し、特許権や実用新案権など、どのような権利で権利化すべきかを提案します。さらに必要があれば先行技術を調査し、クライアントの発明や考案を権利化できる可能性、有効性を判断します。発明や考案、デザイン等を権利化することが決まると、弁理士は出願書類を作成し、特許庁に対して出願手続を行います。

https://www.jpaa.or.jp/patent-attorney/role/

また、弁理士は、特許権等の権利の効力範囲がどこまで及ぶかについて、鑑定を行うこともあります。また、効力範囲や権利の有効性について、特許庁に判定(特許庁としての見解)を求めるために、代理人として特許庁に対して判定請求を行います。さらに、無審査で登録される実用新案権については、権利行使を行う前に相手方に提示する必要がある実用新案技術評価書の作成を、特許庁に請求するという仕事があります。

2.知的財産侵害物品の水際取締り(弁理士法第4条第2項第1号)

特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権を侵害する製品(物品)について、関税法に規定された、税関等での認定手続や認定手続を執行してもらうための申立て、その申立てに関する手続において、弁理士は権利者の代理のみならず、輸入者及び輸出者の代理も行うことができます。

日本の税関は、財務省の地方支分部局として、全国を9つの管轄区域に分けて,函館・東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・門司及び長崎の8税関並びに沖縄地区税関が設置されていますが、弁理士は、特許権等の知的財産権又は営業上の利益を侵害すると認める貨物に関し、前記いずれかの税関長に対して、その侵害事実の疎明に必要な証拠を提出し、当該貨物が輸入されようとする場合は当該貨物について税関長(申立て先税関長)又は他の税関長が認定手続を執るべきことを申し立てることができるとされています(関税法第69条の13第1項)。

弁理士は、このような水際取締による知的財産紛争解決の場で活躍しています。

3.知的財産に関する相談、特許戦略等のコンサルティング業務(弁理士法第4条第2項第3号、3項)

知財コンサルティングは、クライアント企業における知財戦略を伴う事業戦略に関わる産業財産権の出願・権利化に対する助言だけでなく、知財制度を仲立ちとする顧客と相手方の関係を調整するための交渉に関する助言や、これらを考慮した契約に関する助言等を行う仕事です。クライアントのニーズを正確に把握しながら、技術内容の独自性や新規性などに誤りのないように適切な助言を行ないつつ、クライアントのパートナーとして大きく貢献していきます。

特許庁への出願手続きの代理及び鑑定の3つの業務

特許等出願手続き

特許権等の知的財産権を取得するためには、特許庁へ特許出願をして、特許庁において方式審査、実体審査等を受けることによって特許要件の有無等が判断され、登録査定を受けることが必要です。

特許出願等の際には、審査に必要な書類や資料として、出願の願書、特許請求の範囲(クレームともいいます)、明細書といった書類を作成して、特許庁に提出します。

出願を受けた特許庁では、提出された出願書類についての手続的・形式的要件を判断する方式審査、特許要件の有無等について判断する実体審査を行い、特許要件が満たされていると判断されると、登録査定がされます。その後、所定の料金を納付すると、特許の設定登録がなされ、特許権が成立することとなります。

弁理士は、出願に必要な書類のすべてを作成し、特許庁へ提出する業務を担います。

拒絶理由対応(中間処理)

特許庁の審査官は、出願された発明が特許要件を満たしているかどうか等、出願を拒絶すべき理由(拒絶理由)があるか否かを審査します(特許法第49条)。審査の結果、拒絶理由に該当しなかった場合は、実体審査の最終決定である「登録査定」がなされます(特許であれば特許査定といいます)。しかし、拒絶理由を発見した場合は、特許出願人や代理人である弁理士に対して、拒絶理由を記載した拒絶理由通知書を送付して、出願人の意見を聞きます(特許法第50条)。

弁理士は、所定期限内(通常は60日以内)に、意見書を提出して出願人の主張を伝えたり、手続補正書を提出して拒絶理由の解消に努める業務を行い、出願を登録査定へ導きます。意匠登録出願や商標登録出願についても同様です。

弁理士鑑定

弁理士が行う鑑定業務とは、権利侵害の成否を検討する『抵触鑑定』、権利内容に無効理由を含有するか否かを検討する『特許性鑑定』、中間処理における補正の適否、分割、変更の適否を検討する『要件鑑定』、その他、先使用権などの抗弁権を有するか否かを検討する鑑定などをいいます。特許権を有しているからといって、その権利が必ずしも訴訟において有利になるとは限りません。弁理士は、中立的な立場から、特許権侵害の成否などを判断し、クライアントの業務の指針を示す鑑定書を作成します。

知的財産侵害物品の水際取締りの2つの業務

輸入差止申立て

税関では、日々様々な輸入品が国内に入ってきます。税関職員が行う検査における着眼点は様々ある上、輸入申告される貨物量は膨大です。多数の貨物の中から、知的財産侵害物品(例えばニセモノ)を発見することは容易なことではありません。そこで、税関職員がより効果的に知的財産侵害物品を発見することを可能とするのが、「輸入差止申立て」です。

権利者は、あらかじめ、自己の権利の内容、侵害事実の疎明等の情報を税関に対して提出することができます。税関は、申立て内容に問題がないか審査を行い、申立てを受理すべきか否かを判断します。この輸入差止申立てについても、弁理士は権利者および輸出者、輸入者の代理人として、税関との間で申立業務等を行います。

受理された申立てに係る情報は、全国9つの税関で共有され、日本全国において水際措置が執られます。

識別ポイントリストの作成

上述した輸入差止申立ての受理要件として、権利者は、「申立人が真正の権利者であること」、「権利内容に根拠があること」、「侵害事実があること」等を疎明する必要があります。一方、取締りの実務上、権利者が提出する情報の中で、重要となるのが、真正品及び侵害品の特徴が一覧となった「識別ポイント」と呼ばれるリストです。当該識別ポイントの提出は、申立ての受理要件とはなっていませんが、実質、侵害品の特徴が税関に提出されなければ、税関においては、何を発見すべきかわからないため、取締りの運用面において、最も重要な情報となっています。

弁理士は、輸入差止申立てに先立って、税関において活用される識別ポイントリストを作成するという業務を行います。

税関では、事前に権利者から侵害品の特徴に関する情報を入手し、税関内において共有することで、効果的な知的財産侵害物品の水際取締りが可能となっています。

知的財産に関する相談、特許戦略等のコンサルティング業務の2個の業務

企業向けの知的財産戦略コンサルティング

コンサルティング業務はクライアント企業によって種々異なりますが、例えば大手企業の知的財産子会社における中期経営計画策定のため、知的財産に関する実務サービスの外販や、知財事務の効率化に関する戦略を提言する、といった業務が民間企業向けのコンサルティングの1つとして挙げられます。

知的財産戦略に関する講演、執筆等

特定の企業をターゲットにするのではなく、広く知的財産戦略に関する問題提起や今後の課題を訴えていき、我が国企業の知的財産戦略の変革をすすめる、というのも、コンサルティング業務の大事な側面です。特に最近ではグローバル知財戦略を策定するにあたっての、情報分析に関するコンサルティング業務が広く求められています。

弁理士報酬の相場について

弁理士に仕事を依頼した際に支払う報酬は、案件の内容や複雑さ、依頼する弁理士事務所の料金設定によって大きく異なります。以下に、弁理士報酬の一般的な相場や費用構成について簡単に紹介します。

参考サイト:https://www.jpaa.or.jp/faq/q6/

弁理士報酬の構成

弁理士報酬は、以下のような費用項目で構成されることが一般的です:
手数料:案件を受任した際に発生する基本的な報酬。
謝金:特許取得や成功した場合に支払う成果報酬。
実費:交通費やコピー代、特許庁への印紙代などの実際にかかった費用。

また、報酬体系としては以下の3つがよく用いられます:
固定報酬制:案件ごとに一定の金額を設定。
従量制:請求項数や図面枚数、案件の難易度に応じて変動。
タイムチャージ制:作業時間に基づいて報酬を計算。

弁理士報酬の相場

以下は、特許出願を中心とした弁理士報酬の目安です:

1. 特許出願にかかる費用

出願書類作成・提出:25万円~50万円程度。
拒絶理由通知への対応:1回あたり約10万円~20万円。
特許取得後の管理費用:年間数万円(特許料の納付を含む)。

2. 特許庁への費用

特許庁に支払う費用は以下の通りです:
出願費用:14,000円。
審査請求費用:約18万円(請求項数10の場合)。
特許料:10年間の維持で約32万円(請求項数10の場合)。

3. その他の知的財産権関連費用

意匠登録出願:約10万円~30万円。
商標登録出願:約10万円~20万円。

弁理士報酬を抑える方法

複数の弁理士事務所に見積もりを依頼:事務所ごとに料金設定が異なるため、比較検討が重要です。
案件の内容を明確化:発明内容や必要な手続きを整理しておくことで、弁理士の作業時間を短縮できます。

弁理士報酬について小括

弁理士報酬の相場は、特許出願から取得までの総額で約40万円~90万円程度が一般的です。ただし、案件の複雑さや弁理士事務所の料金設定によって変動します。依頼前に見積もりを取得し、費用構成を確認することが重要です。また、特許庁への費用も含めた総額を考慮する必要があります。

弁理士の出番(こんなときに弁理士にお願いする!)

弁理士は、発明やデザイン、ブランドを守るための専門家として、特許出願から紛争解決、戦略立案まで幅広い場面で活躍します。特に、知的財産権の取得や管理は専門的な知識が必要であり、弁理士のサポートを受けることで、より確実かつ効率的に権利を守ることが可能です。例えば以下のような場面で弁理士の出番となります。

1. 発明や技術を特許として保護したいとき

弁理士は、発明内容をヒアリングし、特許として適切に権利化できるかを判断します。そして、特許出願書類の作成と特許庁への提出を行います。さらに、特許庁とのやり取り(審査対応や拒絶理由通知への対応)を行います。

2. 製品デザインを意匠権で守りたいとき

弁理士は、意匠登録のための図面や写真の作成の支援を行います。そして、意匠登録出願書類の作成と提出をします。併せて、必要に応じて「新規性」や「創作非容易性」などの要件を満たすためのアドバイスも行います。

3. ブランド名やロゴを商標登録したいとき

弁理士は、商標の事前調査(同一または類似の商標が既に登録されていないか)を行い、商標登録出願書類の作成と提出を行います。そして、商標権取得後の管理や更新手続きのサポートも弁理士の重要な業務です。

4. 知的財産権の侵害や紛争が発生したとき

弁理士は、侵害の有無を調査し、法的なアドバイスを提供します。必要に応じて、弁護士と連携して訴訟や交渉、ライセンス契約や和解案の提案といったサポートを担います。

5. 海外で知的財産権を取得・活用したいとき

弁理士は、各国の特許庁への出願手続き(外国出願)のサポートを行います。国際条約(パリ条約や特許協力条約など)を活用した効率的な出願方法の提案を行い、現地の弁理士や弁護士との連携の際にも有力なサポートをしてくれるでしょう。

6. 知的財産戦略を立てたいとき

弁理士は、知的財産ポートフォリオの構築(特許、意匠、商標のバランスを考慮)を行い、他社の特許や商標の動向を調査し、リスクを回避するための戦略を提案します。

7. 特許や商標の維持・管理が必要なとき

弁理士は、特許料や商標更新料の納付手続きといった権利の有効期限や更新時期の管理も行います。

8. 知的財産に関する相談や教育が必要なとき

弁理士は、知的財産権に関する専門家として、知的財産に関するセミナーや研修といった教育分野でも活躍します。また、企業や個人の相談窓口として、適切なアドバイスを提供してくれることでしょう。

まとめ

弁理士の仕事内容について弁理士法に基づいて紹介をしました。弁理士は、知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命としています(弁理士法1条:使命条項)。弁理士には多くの業務があり、また求められる資質としては非常に高度の能力が期待されます。弁理士試験に合格することは必要なことではありますが、それだけでは弁理士として活躍できるとまではいえません。弁理士は日々の研鑽によって業務を行っていることをご理解いただけたら幸いです。


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