国際特許


国際特許とは?

国際特許とは、複数の国で特許権を取得するための制度です。

特許権は、各国で独立して発生する権利であり、日本で特許を取得しても、その効力は日本国内にしか及びません(属地主義の原則といいます)。したがって、他国で特許を取得したい場合は、それぞれ各国で特許を取得する必要があります。しかし、すべての国で個別に特許を取得するのは非常に煩雑です。

そこで、国際的な特許取得を容易にするための制度がいくつか存在します。それが、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願とパリ条約に基づく優先権主張です。

国際特許出願の種類

特許協力条約(PCT)に基づく国際出願

特許協力条約(PCT)に基づく国際出願とは、1つの出願書類を特許庁に提出することで、PCT加盟国(2024年1月現在157カ国)に同時に出願したのと同じ効果が得られる制度です。

PCT国際出願は、以下の2つの段階に分かれています。

国際段階

◯特許庁を受理官庁として国際出願

◯国際調査機関による先行技術調査

◯希望に応じて国際予備審査機関による特許性に関する見解の取得

 国内段階

◯各国の特許庁への移行

◯各国の特許法に基づいた審査

PCT国際出願のメリットは、以下の通りです。

•複数の国に同時に出願したのと同じ効果が得られる

• 外国語で作成した出願書類を翻訳する期間に猶予がある

•国際調査報告や国際予備審査報告を参考に、各国への移行の要否を判断できる

パリ条約に基づく優先権主張

パリ条約に基づく優先権主張とは、パリ条約同盟国(2024年1月現在177カ国)のいずれかの国に特許出願した場合、その出願日から12ヶ月以内に他のパリ条約同盟国に出願する際に、

先の出願日に出願したものとして扱われる制度です。

例えば、日本で2023年4月1日に特許出願した場合、2024年3月31日までに他のパリ条約同盟

国に出願すれば、2023年4月1日に出願したものとして扱われます。

パリ条約に基づく優先権主張のメリットは、以下の通りです。

•優先権期間内に、発明をさらに改良したり、市場性を評価したりする時間的余裕が得られる

•優先権期間内に、外国語で作成した出願書類の翻訳や、外国における代理人の選任などの準備ができる

国際特許出願の費用国際特許出願には、国内出願に加えて、以下の費用がかかります。

•国際出願手数料

•調査手数料

•予備審査手数料

• 各国における国内移行手数料

•翻訳費用

• 外国における代理人費用

これらの費用は、出願する国や代理人によって大きく異なります。

国際特許出願の注意点

• PCT国際出願とパリ条約に基づく優先権主張は、どちらか一方のみを利用することも、両方を組み合わせて利用することも可能です。

•各国の特許法は異なるため、PCT国際出願やパリ条約に基づく優先権主張を利用しても、各国で特許を取得できるとは限りません。

•国際特許出願は、国内出願よりも費用と時間がかかります。

まとめ

国際特許とは、複数の国で特許権を取得するための制度であり、PCT国際出願とパリ条約に基づく優先権主張があります。

国際特許出願は、国内出願よりも費用と時間がかかりますが、海外で特許を取得したい場合には有効な手段となります。


Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る