7月に公開されたAppleの新技術:拡張現実(AR)によるユーザー支援の進化


近年、拡張現実(AR)技術はエンターテイメントや教育、医療などの分野で急速に普及しています。この技術は、現実世界とデジタルコンテンツを融合させることで、ユーザーに新たな体験を提供します。
しかし、現行のXRシステムには限界があります。特に、ユーザーが新しい環境に直面した際に十分な支援を提供することができない場合が多いのです。障害者や高齢者など、特定の支援を必要とするユーザーにとって、このような制限は大きな障害となり得ます。

発明の概要

このような課題に対処するために、2024年7月4日に公開されたAppleの特許出願では、「Extended Reality Assistance Based on User Understanding(ユーザーの状況に基づく拡張現実支援)」と題した発明が開示されました。

出願日:2023年12月28日
公開番号:US2024/0221301A1
https://patents.google.com/patent/US20240221301A1/

この発明は、ユーザーが装着するヘッドセットデバイス等から取得されるセンサーデータを活用し、ユーザーの状態をリアルタイムで判断するシステムです。このシステムは、ユーザーの外見や行動、環境に対する理解を基に、ユーザーの支援が必要かどうかを判断します。例えば、ユーザーが初めて訪れる場所で不安や混乱を示す場合、システムはそれを感知し、適切なガイダンスを提供します。

具体的には、このシステムはユーザーの視線、姿勢、表情、音声などのデータを収集し、ユーザーの状態を総合的に評価します。この情報に基づいて、ユーザーが必要とする支援内容を決定し、デジタルガイドやオーディオメッセージなどの形で提供します。視覚障害者に対しては、音声によるナビゲーションや環境の説明を行い、聴覚障害者にはビジュアルガイドやテキスト情報を提供することが可能です。

図1は、この発明の基本的なシステム構成を示す図です。図には、ユーザーが装着するヘッドマウントデバイス(HMD)などのデバイスが描かれています。このデバイスには、外向きおよび内向きのセンサーが搭載されており、これらのセンサーはユーザーの身体部分(目、眉、口、手など)の動作や表情を捉えることができます。図1では、例えばユーザーが新しい環境に入り、ナビゲーションガイダンスを必要とする場面が示されています。HMDは、ユーザーの視線の方向や表情などのデータを取得し、これに基づいてユーザーの状態を判断します。



図2は、ユーザーの目と口の領域のセンサーデータを解釈して、ユーザーが支援を必要としているかどうかを識別する例を示しています。具体的には、ユーザーの目の向き、瞳孔の大きさ、唇の位置や形状などを分析し、ユーザーが困惑しているか、何かを思い出そうとしているかを判断します。このような情報は、ユーザーが環境に不慣れである場合や、支援を求めている場合に有用です。

図3は、別のセンサーデータの例を示しており、ユーザーの姿勢や行動から支援が必要かどうかを判断する方法を示しています。例えば、ユーザーが特定の方向に頻繁に向きを変えている場合、それはユーザーが道に迷っていることを示すかもしれません。このような場合、システムはユーザーに正しい方向を案内する指示を提供します。これには、ユーザーの胴体の向きや現在のタスク(例:特定の人物に会う、展示物を見るなど)に基づく指示が含まれます。

解決される課題

この発明の最大の利点は、ユーザーの状態に応じた個別化された支援を提供できる点にあります。従来のXRシステムは、全てのユーザーに対して同じ情報や指示を提供することが一般的でしたが、この技術では、ユーザーごとに異なるニーズに応じた情報提供が可能となります。これにより、特に視覚や聴覚に障害のあるユーザーや、新しい環境に不慣れなユーザーが、より安心してXR体験を楽しむことができるようになります。

また、このシステムはユーザーのプライバシー保護にも配慮しています。センサーデータの使用に際してはユーザーの許可が求められ、データの取り扱いについても透明性が保たれます。これにより、ユーザーは自分のデータがどのように使用されるかを理解し、安心してシステムを利用することができます。

まとめ

Appleが今回特許出願した発明は、XR技術におけるユーザー支援の新たな方向性を示しています。センサーデータを活用したユーザー状態のリアルタイム判断と個別化された支援の提供により、従来の課題を克服し、より多くのユーザーに優れた体験を提供することが期待されます。今後、この技術がどのように発展し、様々な分野で応用されるかが非常に楽しみです。


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

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