新規事業の立ち上げ時、大手企業の開放知財を活用するメリット


日本の中小企業は様々な変化に対応するべく、新規事業にチャレンジする事がありますが、新規事業の立ち上げにはかなりの労力がかかります。大手企業のように新規事業コンサルを雇える訳ではないので、自社でのゼロイチにはコストだけでなく、時間やノウハウが必要となります。

今回はそんな時に役立つ、大手企業が開放している知的財産(知財)を活用することで、新規事業の立ち上げをスムーズにする方法、「新規事業時の知財活用」について、メリットをご紹介します。

コスト削減

新規事業を立ち上げる際の大きなハードルの一つは、研究開発(R&D)にかかるコストです。特許技術やノウハウを一から開発するには、多大な資金と時間が必要です。この段階でローンチすることなく散っていくチャレンジャーも多いはず……。

大手企業が開放している知財を利用することで、これらのコストを大幅に削減することが可能です。既存の技術を活用することで、初期投資を抑えながら、スピーディーに市場投入を図ることができます。

イノベーションの促進

他社の知財を活用することで、自社では思いつかない新たなアイデアや技術の融合が促進され、革新的な新規事業案や、新製品、サービスを生み出すチャンスが広がります。異なる分野の技術やノウハウを組み合わせることで、従来にはない価値を提供することが可能になります。例えば、IT技術と製造業の知見を組み合わせることで、スマート工場やIoT製品の開発が進むことが考えられます。

市場競争力の強化

開放知財を新規事業に活用することで、競争力のある製品やサービスを短期間で開発し、市場に投入することができます。これは、中小企業にとって大きなアドバンテージとなります。市場投入のスピード感は、市場シェアの獲得やブランド認知の向上にも繋がります。特に、競争が激しい業界では、スピードが重要な要素となります。

グローバル展開の加速

大手企業の知財を新規事業に活用することで、国際的な競争力を持つ製品やサービスを開発することが可能になります。これにより、海外市場への展開も視野に入れることができ、特許技術やブランド力を活用することで、現地市場での信頼性や競争力を高めることができます。

ネットワーキングと協業の機会

大手企業の知財を活用することで、その企業とのネットワーキングや協業の機会が広がります。これにより、さらなる技術支援や市場開拓のサポートを受けることができる場合もあります。大手企業との関係構築は、中小企業にとって重要な成長戦略となります。

リスクの低減

新規事業には常にリスクが伴いますが、既存の知財を活用することで、技術的リスクを低減することができます。すでに実績のある技術を使用することで、不確実性を減らし、より確実な事業展開が可能となります。

知財教育とスキルアップ

大手企業の開放知財を活用する過程で、中小企業の従業員は最新の技術や知識を学ぶ機会を得ることができます。これにより、企業全体のスキルレベルが向上し、将来的な競争力の強化にもつながります。

具体例とケーススタディ

例えば、北海道で木材の加工・製造・卸業を展開する広葉樹合板株式会社は新規事業の取り組みとして、株式会社イトーキが開放している特許を活用し、立って寝ることができる仮眠用ボックス「giraffenap(ジラフナップ)」を新商品として開発しました。立ったまま快適に眠る技術のアイデアや研究、特許を取得したイトーキと、木材の取り扱い技術と、実装化を得意とする広葉樹合板が出会ったことで、新しいアイデアが実際に実用段階までスピード感を持って進んだ事例です。

「広葉樹合板株式会社×株式会社イトーキ」インタビュー記事はこちら

日本の中小企業が新規事業を立ち上げる際に、大手企業の開放知財を活用することは、コスト削減、イノベーションの促進、市場競争力の強化、グローバル展開の加速、ネットワーキングと協業の機会、リスクの低減、そして知財教育とスキルアップといった多くのメリットがあります。

このような取り組みを積極的に進めることで、日本の中小企業はより差別化・競争力のあるビジネスを展開し、国内外でのプレゼンスを高めることができるでしょう。


ライター

渡部一成

株式会社白紙とロック代表取締役

高校卒業後、20歳で起業しwebマーケティングや商品開発に関するコンサルティング事業を15年間経営。
さらに、バンコクでスタートアップ企業を設立し、海外でIT関連のプロダクト開発を経験。
その後、大手IT企業に特許を売却し、その資金で株式会社白紙とロックを設立。
創業後も複数の特許を取得。 その他にも、新規事業の立ち上げや、医療法人理事、大学で特別講師として授業を行うなど多角的に活動中。




Latest Posts 新着記事

連邦政府が大学の特許収入を狙う トランプ政権の新方針が波紋

はじめに 米国の大学は、研究開発活動を通じて得られる特許収入を重要な財源としてきました。大学の特許収入は、新しい技術の商業化やスタートアップ企業の設立に活用され、イノベーションの促進に直結しています。しかし、トランプ政権下で、連邦政府が大学の特許収入の一部を請求する方針が検討されており、大学の研究活動やベンチャー企業の育成に対する影響が懸念されています。 特に米国は、大学発ベンチャーの育成や産学連...

脱石炭から技術輸出へ:中国が描くクリーンエネルギーの未来

21世紀に入り、世界各国が環境問題やエネルギー安全保障への対応を迫られるなか、中国はクリーンエネルギー分野で急速に存在感を高めてきた。とりわけ再生可能エネルギー技術、電気自動車(EV)、蓄電池、送配電網、そしてグリーン水素などの分野において、中国は「追随者」から「先行するイノベーター」へと変貌を遂げつつある。なぜ中国が短期間でこのような飛躍を実現できたのか。その背景には、国家戦略、産業政策、市場規...

世界のAI特許6割を握る中国 5G・クラウドを基盤に国際競争を主導

近年、中国はデジタル経済の拡大と技術革新を国家戦略の中核に据え、AIや5G、クラウド、データセンターといった基盤技術において世界を牽引する存在となっている。その象徴的な事実として注目されるのが、人工知能(AI)に関する特許出願件数である。国際特許機関の最新統計によれば、中国からのAI関連特許は世界全体の約6割を占め、米国や欧州、日本を大きく上回る圧倒的なシェアを記録している。 本稿では、中国がいか...

AgeTech知財基盤を強化――パテントアンブレラ(TM)が累計41件出願、AI特許も追加

高齢社会の進展に伴い、健康維持、生活支援、介護軽減を目的としたテクノロジー領域「AgeTech(エイジテック)」への注目がかつてないほど高まっている。その中で、知的財産を軸に事業競争力を高める取り組みが活発化しており、今回、独自の「パテントアンブレラ(TM)」戦略を進める企業が、AI関連特許を含む29件の新規出願を追加し、累計41件の特許出願を完了したと発表した。これにより、類型141件の機能をカ...

フォシーガGE、特許の壁を突破 沢井・T’sファーマの挑戦

2025年9月、日本の医薬品市場において大きな話題を呼んでいるのが、SGLT2阻害薬「フォシーガ(一般名:ダパグリフロジン)」の後発医薬品(GE、ジェネリック)の登場である。糖尿病治療薬の中でも売上規模が大きく、近年では慢性腎臓病や心不全の領域にも適応拡大が進んだフォシーガは、アストラゼネカの主力製品のひとつである。その特許の“牙城”を突破し、ジェネリック医薬品の承認を獲得したのが沢井製薬とT&#...

電池特許はCATLだけじゃない――AI冷却から宇宙利用まで、注目5大トピック

近年、知的財産の世界では、特定の企業やテーマに関心が集中しやすい傾向がある。中国・CATLの電池特許戦略や、AIをいかに効率的に冷却するかといったテーマは、テクノロジー産業の今を象徴するキーワードだ。しかし同時に、その裏側には見落とされがちな知財動向や、将来を左右しかねない新しい潮流が潜んでいる。本稿では、「電池特許CATL以外にも」「特集AIを冷やせ」を含め、いま注目すべき5本のトピックを整理し...

バックオフィス改革へ ミライAI、電話取次自動化で特許取得

AI技術の進化が加速するなか、企業のバックオフィスや顧客対応の現場では「省人化」「自動化」をキーワードとした取り組みが急速に広がっている。その中で、AIソリューションを展開するミライAI株式会社は、従来の電話取次業務を人手に頼ることなく「完全無人化」するための技術を開発し、特許を取得したと発表した。この技術は、音声認識・自然言語処理・対話制御を組み合わせ、従来課題とされてきた「誤認識」「取次精度の...

技術から収益化へ――河西長官が訴える“知財活用”の新ステージ

特許庁の河西長官は、来る9月10日に開幕する「知財・情報&コンファレンス」を前に記者団の取材に応じ、日本経済の競争力強化における知的財産の役割を改めて強調した。長官は「日本は技術とアイデアを数多く持ちながら、それを十分に事業化や収益化につなげきれていない。知財で稼ぐ政策を実現することが不可欠だ」と語り、特許庁としても産業界と連携し、知財活用の裾野を広げる方針を示した。 ■ 知財立国から「稼ぐ知財立...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る