本格的に寒くなってきたこの時期、カキが美味しいですね。筆者もカキに白ワイン、大好きです。しかしながら稀にあたることもあって苦手なひともいます。その冬場のカキ、国内の市場に出回っているほとんどが養殖でマガキ(真牡蠣)と呼ばれるもの。一方、夏場のカキは岩牡蠣でほぼ100%天然もの、出荷量も少なく冬場の真牡蠣より大振りになる。そのカキ、日本の養殖カキの市場規模は約500憶円と言われており、規模は大きくはないが一定の存在感はあり、最近では輸出も伸びている。
カキは生育中ノロウイルスや大腸菌などを飲み込んでしまい、体内に残ったウイルスや細菌を人間が食べることで食あたりが起きると言われている。餌が豊富な海水には人間にとって不純物も多く、一般的な養殖では、海中の籠などで養殖した後に紫外線を当てたり清潔な海水を吸収させたりすることでカキを浄化するが、ノロウイルスなどを確実に除去するのは難しいとされている。
そのカキの養殖で最近ちょっとした話題になったのが、なんと「あたらないカキ」の育成に成功している会社があるというのです。その会社、株式会社ゼネラル・オイスター(本社:東京都中央区 代表:吉田秀則)で、牡蠣好きにはうれしい話だ。もちろんその技術で特許も取得している。
安心・安全なカキの畜養方法特許の概要
【特許番号】特許第6240037号(P6240037)
【登録日】平成29年11月10日
【発明の名称】カキの蓄養方法
【特許権者】 【氏名又は名称】株式会社ゼネラル・オイスター
【発明者】 【氏名】鷲足 恭子
この技術、カキが取り込む海水を紫外線で殺菌して、カキの体内を浄化する紫外線殺菌海水を用いる一般的な方法に対し、より高い安全性を求めて同社では海洋深層水に注目したことが「あたらないカキ」開発の決め手となっている。
海洋深層水とは、太陽光が届かず、表層の海水と混ざらない水深200m以深の海水のことで、極めて清浄性の高い海水で、清浄な海洋深層水を確実にカキの体に廻らせ浄化されることを、陸上での養殖で実現している。
その技術的なことはさておき。農産品においても、魚介類においてもそのほとんどの「ブランド開発」、「商品開発」は地域特性を中心にしながら、そのサイズや美味しさを打ち出した取組みで、それは情緒的かつ、少々あいまいで刺さってこない。たとえ成功しても時間がかかる。カキでは、北海道厚岸町の「カキえもん」、「マルえもん」、三重県志摩町の「的矢かき」、広島県「かき小町」、熊本県八代市「鏡オイスター」などなど。もう少し突き抜けるにはブランド化戦略・戦術にさらなる工夫が欲しいところだ。
それに対して、「あたないカキ」の開発は「安心」をそのまま実現した養殖技術の開発で、その価値はとても分かりやすく伝わりやすい。地域性でもなく、味の特性でもない全く別の価値軸からのアプローチだ。特にカキにおいて、「安心」を担保する切り口は素晴らしい。たとえば、医療関係者などでは職業的にカキの喫食を控えなければならない方には嬉しい開発ではなかろうか。ちなみにこのあたらないカキのブランド名は『エイスシーオイスター2.0』とされている。
食品の「商品開発」において地域特性、その味や姿形だけではないアプローチ。たとえば、種のないぶどうやスイカ、骨を取り除いた焼き魚など、もちろん美味しくて当たり前。ちょっと割高になるが売れている。テクノロジーが急速に進化するなかでは、テクノロジーが活かせる機能価値開発の目線での「商品開発」、それが納得の至れり尽くせりの商品を生むのではなかろうか。あらためてだが、いまや食品においてもは「情緒価値」×「機能価値」の開発が主流になってきている。
ライター
渡部茂夫
SHIGEO WATANABE
マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表
通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。