Apple 5月に出願公開された新技術 電子デバイスでの触覚出力(継続出願)


電子デバイスに触覚出力を付与する圧電構造

Appleが2021年に仮出願(Provisional Application)を行った(US63/227484)電子デバイスに触覚出力を付与する発明の出願公開が2023年5月11日にありました。
公開番号はUS2023/0142264A1、上記仮出願の優先権を主張した出願です。

ファミリー出願として中国、韓国にも出願が行われており(CN202211389138.A、KR20220143643.A)、Appleが当該技術について中国、韓国においても独占権を得ようとしていることが伺えます。

今回出願公開された内容についてみてみると、最近のAppleの特許出願でよく採用されている「ハプティック技術(触覚出力)」についてのもので、簡単にいえば、人間の指などによる圧力を検出してその圧力(入力)をセンサーで検知して、そのセンサーに応答して圧電素子にカバーを撓ませるように構成した処理ユニット全般についての出願となっています(つまり、現在Macbookのトラックパッドに採用されているようなハプティック回路を、あらゆる電子デバイスに対して拡張して権利をとろうとしているということです)。

発明の背景としては、ラップトップやタブレット、スマートフォンなどの電子デバイスについて、発生する様々なイベントをユーザーに通知する手段はいろいろあるわけですが(音を出したり振動させたり、ビジュアル通知を表示したり等)、その中で触覚出力は振動モーターや振動モーターを駆動させるためのアクチュエータによって提供されます。このような振動モーターは通常、電子デバイス全体を振動させるもので、局所的な触覚出力を提供することはあまり行われていません。

そこで、本発明では、電子デバイスに複数のハプティックデバイスを配置し、例えばラップトップコンピュータであればトラックパッドのみならず、タッチディスプレイ部分にもハプティックデバイスを配置することを提案しています(下図では点線で囲まれた部分が全て個別のハプティックデバイスです)。

特許請求の範囲はかなり広く出願されている

前述のとおり、本出願は特に電子デバイスの具体的な種類などは特定していません。つまり、あらゆる電子デバイスに対してハプティック素子をつける、というものです。

例として、出願されている特許請求の範囲の請求項1だけを見てみます。今回の特許出願は内容的にはそれほど難解ではありませんが、かなり広範な権利をとろうとしていることがわかると思います。

この特許が認められると、Appleは触覚出力に関してかなり範囲の広い、強力な独占権を持つことになります。したがって、各国の特許庁がこれを認めるかはかなり興味深いものといえます。

【特許請求の範囲】

1. An electronic device comprising:
a cover;
a haptic module positioned below the cover and comprising:
a substrate positioned below the cover;
a spacer positioned between the substrate and the cover and coupling the substrate to the cover; and
a piezoelectric element positioned on the substrate and offset from the cover to define a gap between the piezoelectric element and the cover;
a sensor coupled to the cover and configured to detect an input; and
a processing unit operably coupled to the piezoelectric element and configured to cause the piezoelectric element to deflect the cover in response to the sensor detecting the input.

(和訳)
1.電子デバイスであって以下を含むもの
カバー
カバーの下に配置された触覚モジュール
カバーの下に配置された基板
基板とカバーを結合するスペーサー
基板の表面に配置されカバーからオフセットされた圧電素子
カバーに接続され入力を検出するよう構成されたセンサー
圧電素子に接続され、センサーが入力を検出した場合に圧電素子がカバーを撓ませるように構成された処理ユニット

最近のAppleの特許出願には触覚出力を活用したハプティックデバイスが数多くありますから、触覚出力に関する技術をごっそり権利化しようとしているのかもしれません。今後の審査経過についても要注意の特許出願といえるでしょう。


ライター

+VISION編集部

普段からメディアを運営する上で、特許活用やマーケティング、商品開発に関する情報に触れる機会が多い編集スタッフが順に気になったテーマで執筆しています。

好きなテーマは、#特許 #IT #AIなど新しいもが多めです。




Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る