知的財産とサステナビリティ


近年の気候変動と環境問題の認識増大は、持続可能な開発と緑のイノベーションの必要性を明確に示しています。これに伴い、知的財産権(IPR)は、これらのイノベーションを保護し、その普及を促進する上で重要な役割を果たします。

持続可能な技術は、エネルギー、輸送、製造など、社会全体の多くのセクターに影響を与えます。これらのイノベーションを保護するために、特許制度は一般的に用いられます。特許は、新規性、進歩性、産業上の有用性の3つの要件を満たす発明に対して独占的な権利を提供します。

さらに、環境に優しい製品やサービスのデザインは、その市場価値を高めるために商標や意匠権を活用することがあります。これらの知的財産権は、消費者がサステナビリティを重視する製品を認識し選択することを容易にします。

しかし、持続可能な技術と知的財産権の間には、緊張関係も存在します。環境に配慮した製品や技術の普及を促進するためには、これらの技術を広範に利用できるようにする必要があります。特許制度は一方で、独占的な権利を持つ者が他者の利用を制限することが可能であり、これが普及の障害になることがあります。

このような課題を克服するためには、知的財産法の柔軟性を活用したり、特許のライセンスモデルを工夫するなどの取り組みが必要となります。さらに、政府や企業が共同でイノベーションの普及を推進するための施策を講じることも求められます。
これらの取り組みは、サステナビリティと知的財産権の間のバランスを保つために重要です。そして、これは結果的に、私たちの社会が緑の革新を促進し、持続可能な未来に向けて進むための道筋を作ることにつながります。

具体的には、オープンイノベーションやパブリックドメインへのアクセスを推進する政策が考えられます。例えば、一部の企業や政府は、クリーンテクノロジーの特許をパブリックドメインに放出し、広く利用可能にすることで、緑のイノベーションの普及を促進しています。これは「パテントプール」または「オープンソースライセンス」の形をとることが多く、これにより特許技術がより広範にアクセス可能になり、新たな革新を刺激します。

また、サステナビリティ指向の企業は、製品やサービスのブランディングにおいて、商標と意匠登録を活用することで差別化を図ることができます。エコフレンドリーな製品やパッケージのデザインは、消費者に対して環境への配慮を訴え、ブランドの価値を高めることができます。
しかし、これらの取り組みが十分に機能するためには、知的財産権の法的枠組みと環境規制の適切な調和が必要です。これは、知的財産法の専門家だけでなく、政策立案者、企業、科学者、そして消費者自身が協力して取り組むべき課題です。

結論として、知的財産権は、持続可能な未来を追求する上での重要なツールであり、その効果的な利用と管理は、我々が直面する環境問題に対するソリューションを推進する上で不可欠です。今日の課題は明日のイノベーションの機会に変わります。知的財産権は、その機会を捉え、緑の未来を創造するための鍵となります。


ライター

杉浦 健文

パテ兄

特許事務所経営とスタートアップ企業経営の二刀流。

2018年に自らが権利取得に携わった特許技術を、日本の大手IT企業に数千万円で売却するプロジェクトに関わり、その経験をもとに起業。 株式会社白紙とロックの取締役としては、独自のプロダクト開発とそのコア技術の特許取得までを担当し、その特許は国際申請にて米国でも権利を取得、米国にて先行してローンチを果たす。 その後、複数の日本メディアでも取り上げられる。

弁理士としてはスタートアップから大手企業はもちろん、民間企業だけではなく、主婦や個人発明家、大学、公的機関など『発明者の気持ち、事業家の立場』になり、自らの起業経験を生かした「単なる申請業務だけでない、オリジナル性の高い知財コンサル」まで行っている。

■日本弁理士会所属(2018年特許庁審判実務者研究会メンバー)
■株式会社白紙とロック取締役
■知的財産事務所エボリクス代表
■パテント系Youtuber 




Latest Posts 新着記事

ロボットの動きをAIが特許化する時代に──MyTokkyo.Aiの最新発明抽出事例

家庭内ロボット市場が急速に進化している。掃除ロボットや見守りロボットだけでなく、洗濯物の片付けや調理補助など、従来は人が行ってきた細やかな日常作業を担う“家庭アシスタントロボット”が次のトレンドとして期待されている。しかし、家庭内という複雑な環境で、人に近いレベルの判断と動作を瞬時に行うためには、膨大なセンサー情報を統合し、高度なモーションプランニング(動作計画)を行う技術が不可欠だ。 このモーシ...

アップルはなぜ負けた? 医療特許の壁に直面したApple Watch

米国の特許訴訟市場が久々に世界の注目を集めている。発端は、Apple Watchシリーズに搭載されてきた「血中酸素濃度測定(SpO₂)機能」をめぐる特許訴訟で、米国ITC(International Trade Commission)がアップルに対し“侵害あり”の判断を下したことだ。米国では特許侵害が認められると、対象製品の輸入禁止措置という強力な制裁が発動される可能性がある。今回の判断は、App...

デフリンピック開催に寄せて:「聞こえ」を支えるテクノロジー、人工内耳の「中核特許」

2025年11月、日本では初めてのデフリンピックが開催されています。これは、手話をはじめとする、ろう者の文化(デフ・カルチャー)が持つ独自の力強さに光が当たる、歴史的なイベントです。 https://deaflympics2025-games.jp/   デフリンピックの開催は、スポーツイベントであると同時に「聞こえ」の多様性について考える絶好の機会でもあります。聴覚障害を持つ人々にとっ...

10月に出願公開されたAppleの新技術〜Vision Proの「ペルソナ」を支える虹彩検出技術〜

はじめに 今回は、Apple Inc.によって出願され、2025年10月2日に公開された特許公開公報 US 2025/0308145 A1に記載されている、「リアルタイム虹彩検出と拡張」(REAL TIME IRIS DETECTION AND AUGMENTATION)の技術内容、そしてこの技術が搭載されている「Apple Vision Pro」のペルソナ(Persona)機能について詳説してい...

工場を持たずにOEMができる──化粧品DXの答え『OEMDX』誕生

2025年10月31日、化粧品OEM/ODM事業を展開する株式会社プルソワン(大阪府大阪市)は、新サービス「OEMDX(オーイーエムディーエックス)」を正式にリリースした。今回発表されたこのサービスは、化粧品OEM事業を“受託型”から“構築型”へと転換させるためのプラットフォームであり、現在「特許出願中(出願番号:特願2025-095796)」であることも明記されている。 これまでの化粧品OEM業...

特許で動くAI──Anthropicが仕掛けた“知財戦争の号砲”

AI開発ベンチャーのAnthropic(アンソロピック)が、200ページ以上(報道では234〜245ページ)にわたる特許出願(または登録)が明らかになった。その出願・登録文書には、少なくとも「8つ以上の発明(distinct inventions)」が含まれていると言われており、単一の用途やアルゴリズムにとどまらない広範な知財戦略が透けて見える。 本コラムでは、この特許出願の概要と意図、そしてAI...

SoC時代の知財戦争──ホンダと吉利が仕掛ける“車載半導体覇権競争”

自動車産業が「電動化」「自動運転」「ソフトウェア定義車(SDV)」へと急速にシフトするなか、車載半導体・システム・チップ(SoC:System­on­Chip)を巡る知財・開発競争が激化している。特に、ホンダが「車載半導体関連特許を8割増加」させているとの情報が注目されており、同時に中国自動車メーカーが特許活動を爆発的に拡大しているとされる。なかでもジーリー(Geely)が“18倍”という成長率を...

試験から設計へ──鳥大が築くコンクリート凍害評価の新パラダイム

はじめに:なぜ“凍害”がコンクリート耐久性の大きな壁なのか コンクリート構造物が寒冷地・凍結融解環境(凍害)にさらされると、ひび割れ・剥離・かさ上がり・耐荷力低下といった劣化が進行しやすい。例えば水が凍って膨張し、内部ひびを広げる作用や、塩分や融雪剤の影響などが知られている。一方、これらの劣化挙動を実験室で迅速に・かつ実サービスに近づけて評価する試験方法の開発は、長寿命化・メンテナンス軽減の観点か...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る