復刻版アナログレコードプレーヤーの完売は単なるレトロブームではなく人間の感性による「アナログ」観では―


特にオーディオマニアではないわたしの部屋にも、昔懐かしいジャケットのアナログレコードが50枚ほどあるが、いつの時かプレーヤーは手放してしまっている。忘れられていた若かりし頃のアナログレコード。これが復活してると聞いていたので、いちどほこりを払ってあの「音」を聴いてみたい気分にしてくれた商品がある。

その前に、今や音楽の楽しみ方といえばデジタルの配信サービスが主流だが、2010年頃よりじわじわとアナログレコードが人気なのはご存知の通り。買取専門業者のチラシ広告でもレコード高額買い取り!のコピーが大きく。アメリカでは2020年にアナログ盤の売上が34年ぶりにCDを超え、日本でも同様の人気ぶりのようだ。

そんな中、レコード盤を挟み込むとてもユニークで魅力的なデザインでのポータブル・アナログレコードプレーヤー「サウンドバーガー(AT-SB2022)」にひとめぼれだ。またあのアナログレコードの音を聞いてみたいと思い起させられたのがこのプレーヤーでとにかく見た目が気に入った!実は、この商品、MM型ステレオカートリッジメーカーとして昨年4月に創業60年を迎えた、東京都町田市に本社を構える株式会社オーディオテクニカの周年記念の復刻製品で、昨年11月に世界で7,000台の限定販売。当然、即日完売だったそうだ。

この会社、同社のホームページによると、1962年フォノ・カートリッジの製造・販売からスタートし、その後、振動を電気信号に変えるトランスデューサー(変換器)メーカーとして、ヘッドホンやマイクロホンなど様々な音響製品へとカテゴリーを広げて世界市場で成長。中でも1967年のVM型カートリッジ開発は、その後世界最大のピックアップメーカーに成長するバックボーンとなった特許戦略による独自製品だ。これが各国へつぎつぎと本格輸出が開始され、同時にスイス、カナダ、英国、米国、西ドイツ、そして日本と、多くの国際特許取得し世界市場での展開が同社の成長の基礎となっている。

世界の多くのエンジニアやアーティスト、またオーディオファンの絶大なる信頼を獲得しているオーディオテクニカブランド。その「サウンドバーガー」が40年の時を経て復活。それは、見た目はレトロだが機能はレトロではなく、Bluetooth対応の最新アナログプレーヤー。従来のオーディオファンのみならず、ポップカルチャーやファッションとしてレコードに興味を持つZ世代の支持も得て、意外と言っては失礼だが隠れヒット商品になっている。

それにしても、レコードで音楽を楽しむことは今となっては面倒で手がかかるもの。プレーヤーを準備して、ジャケットからレコード出しほこりを確認し、などなど、これらの一連の動作が必要だ。おまけに、プレーヤーは早送りも曲飛ばしもできない。両面聴く場合は裏返ししなければならない。要は聴くことに対してはネットからの配信される音楽やCDプレーヤーから聴けばとにかく簡単だ。

それなのにやはりレコードが好きだ。好きなことには手間暇も楽しい。また、わたしもそうだが、「レコードの音は温かみがある」とはよく聞く。この感想は人間、誰もが持っているようだ。それに対し「CDの音は冷たい」とも多くのひとの感じるところではなかろうか。まして、デジタルではレコード針とレコードが擦れる音が混じることもある。これがアナログ音源とデジタル音源の違いで多くのひとの感じ方の違いを生む。それぞれのいわば個性のようなもので、良い悪い、古い新しい、といったことではない。それぞれ聴くひとの感性のおもむくままでよいのだ。

アナログレコードについては「昭和レトロ」と言えるが、同時にいまは「平成レトロ」もブームでもある。この懐かしさを呼び起こすレトロマーケティングとか、ノスタジーマーケティングだが、それはアンティークとかビンテージとは区別され単なる懐古趣味ではなく、本来は「愛着」、「馴染み深い」、「親しみやすさ」といった感性を刺激するマーケティング手法で、コミュニケーション開発や商品開発ではひとつの軸となる。

たとえば、レコードプレーヤーだけど、レコードで音楽を聴くことではレトロな懐かしいだけではつかみきれない。またアナログ観とデジタル観どちらか一方ではなくの双方曖昧に含まれた、つまりアナログの音をワイアレスで聴くといった曖昧さがいいのではないか。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。




Latest Posts 新着記事

GE薬促進の陰で失われる特許の信頼性―PhRMAが警告する日本の制度的リスク

2025年4月、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が日本政府に提出した意見書が、医薬業界および知財実務者の間で波紋を呼んでいる。矛先が向けられたのは、ジェネリック医薬品(GE薬)に関する特許抵触の有無を判断する「専門委員制度」だ。PhRMAはこの制度の有用性に疑問を呈し、「構造的な問題がある」と批判した。 一見すれば、専門家による中立的判断制度は知財紛争の合理的解決に寄与するようにも思える。だが、...

破産からの逆襲―“夢の電池”開発者が挑む、特許逆転劇と再出発

2025年春、かつて“夢の電池”とまで称された次世代蓄電技術を開発していたベンチャー企業が、ついに再建を断念し、破産に至ったというニュースが駆け巡った。だが、そのニュースの“続報”が業界に波紋を呼んでいる。かつて同社を率いた元CEOが、新会社を設立し、破産企業が保有していた中核特許の“取り戻し”に動き出しているのだ。 この物語は、単なる一企業の興亡を超え、日本のスタートアップエコシステムにおける知...

サンダル革命!ワークマン〈アシトレ〉が“履くだけ足トレ”でコンディションまで整うワケ

「サンダルなのに快適」「履いた瞬間にわかる」「この値段でこれは反則級」――こうした驚きと称賛の声が続出しているのが、ワークマンの〈アシトレサンダル〉だ。シンプルな見た目に反して、履き心地・健康効果・歩行補助といった多面的な機能を備える同製品は、単なる夏の室内履き・外出用サンダルという枠を超えて「履くことで整う道具」として注目されつつある。 このコラムでは、アシトレサンダルの具体的な機能や構造だけで...

斬新すぎる中国製“センチュリーMPV”登場!アルファード超えのサイズと特許で快適空間を実現

中国の高級ミニバン市場に、新たな主役が登場した。GM(ゼネラルモーターズ)の中国ブランド「ビュイック(Buick)」が展開するフラッグシップMPV「世紀(センチュリー/CENTURY)」は、その名の通り“100年の誇り”を体現する存在だ。日本の高級ミニバンの代名詞・トヨタ「アルファード」をも超えるボディサイズに、贅沢を極めた2列4人乗りの内装、そして快適性を徹底追求した独自の“特許技術”が組み込ま...

実用のドイツ、感性のフランス──ティグアン vs アルカナ、欧州SUVの進化論

かつてSUVといえば、悪路走破性を第一義に掲げた無骨な4WDが主役だった。しかし今、欧州を中心にSUVの在り方が劇的に変化している。洗練されたデザイン、都市部での快適性、電動化への対応、そしてブランドの哲学を反映した個性の競演。そんな潮流を牽引するのが、フォルクスワーゲン「ティグアン」とルノー「アルカナ」だ。 この2台は単なる競合ではない。それぞれ異なる立ち位置とブランド戦略を背景に、「欧州SUV...

戦略コンサルはもういらない?OpenAI『Deep Research』の衝撃と業界の終焉

OpenAI「Deep Research」のヤバい背景 2025年春、OpenAIがひっそりと発表した新プロジェクト「Deep Research」。このプロジェクトの正体が徐々に明らかになるにつれ、コンサルティング業界に戦慄が走っている。「AIは単なるツールではない」「これは人間の知的職業に対する“本丸攻撃”だ」とする声もある。中でも、戦略コンサル、リサーチアナリスト、政策提言機関など、いわゆる“...

老化研究に新展開——Glicoが発見、ネムノキのセノリティクス作用を特許取得

はじめに:老化研究の新潮流「セノリティクス」 近年、老化そのものを「病態」と捉え、その制御や治療を目指す研究が進んでいる。中でも注目されるのが「セノリティクス(Senolytics)」と呼ばれるアプローチで、老化細胞を選択的に除去することで、慢性炎症の抑制や組織の若返りを促すというものだ。加齢とともに蓄積する老化細胞は、がんや糖尿病、心血管疾患、認知症といった加齢関連疾患の引き金になるとされ、これ...

EXPO2025に見る「知と美」の融合──イタリア館が描く未来の肖像

2025年大阪・関西万博(EXPO2025)が近づくなか、多くの国が自国の強みをテーマにパビリオンを構築している。イタリアといえば、多くの人が思い浮かべるのは、パスタやピザ、ワインといった「食」、アルマーニやプラダ、グッチなどの「ファッション」だろう。しかし、イタリアの真の魅力はそれだけではない。今回の万博では「もうひとつのイタリア」、すなわち高度な技術力と伝統文化、そして未来志向の融合が強く打ち...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

大学発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る