Apple、2月に特許出願公開された新技術:ラップアラウンドディスプレイ再び

曲面ディスプレイの自由度を高める

ここ数年の間、スマートフォンをはじめとする携帯型電子機器の機能性は指数関数的に増加しています。様々なガジェットについて未使用部分に機能を付与するなどして、その機能性を向上させることは、全ての機器に常に内在する課題ですし、そのような新しい機能性を持たせることによってさらに新たな改善の糸口が見つかったりするものです。

ところで、スマホなどの携帯型電子機器の標準的な形状は、板状のものが多く、デバイスの側面や背面については未使用だったり、固定ボタンやスイッチなどで構成されているものがほとんどです。このようなデバイスの機能性を、複数の表面に拡張することを目的とした「ラップアラウンドディスプレイ」に関するAppleの特許出願が、2月9日に公開されましたので紹介します。

本出願は、公開番号:US2023/0044402A1、出願日:2022/10/21、公開日:2023/2/9、発明の名称は「Electric Device With Wrap Around Display」です。Wrap Around、直訳すれば「取り巻く、周囲を取り囲む」ですが、画像のような曲面ディスプレイのことです。

実は繰り返し出願されたもの

Appleの特許出願に詳しい方であれば、本出願の図面を見た途端に「またか」と思うかもしれません。実はラップアラウンドディスプレイに関する特許出願は、2015年に行われています。当時、「iPhone360」なんていう新しいモデルが出るのでは?などと話題になったものです。

参考:US2015/0212784A1、https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3641274/Forget-iPhone-7-ready-iPhone-360-Apple-patents-wrap-screen-takes-entire-handset.html

今回も、図面としてはほぼ同じものが使われています。もちろん発明の内容としては全然違うのですが(そうでなければ権利化できない)、2015年の段階では商品化までは至らなかったものの、また同じものを出願してきたということは、Appleはついにやる気になったのかも?と、本気度が伺える状況ではないでしょうか。

柔軟な有機ELディスプレイをエンクロージャ内に収める

主としてガラスでできた円筒形のエンクロージャ102を押出成形などの成形方法で形成し、そのガラスチューブの中に柔軟性の高いフレキシブルディスプレイアセンブリ104を装着します。装着にあたっては、ディスプレイアセンブリ104を丸めてエンクロージャに入れて、そのあと広げることで実現できます(下図参照)。

このディスプレイアセンブリは、ポリイミド基板の上に作成されたアクティブマトリクス型発行ダイオード(AMOLED)です、。これは柔軟であることに加えて、ピクセルが個々に点灯可能であることが特徴です。従来のLCD技術におけるディスプレイは、バックライトによって画面全体をオン状態またはオフ状態にするものでしたが、AMOLEDはLCDとは対照的です。このような特性により、AMOLEDは極めて控えめな電力レベルでテキストを表示することが可能です。

このようなAMOLEDディスプレイをガラスエンクロージャである透明筐体にしっかりと取り付けた後、他の電子部品を挿入していきます。

形状はスマホ型に限らない

Appleの出願であることから、iPhoneのようなスマホに使われるディスプレイと思いがちですが、公開公報の内容としてはそこにこだわってはいません。もっと円筒に近い形状512としたり、さらに外部フレーム504を設けて強度を増したりということも想定しています。

2015年の出願との違い

以上説明してきたことは、実は2015年の時点でもほぼ同様の内容が明細書に記載されています。特許制度では、権利化において、新規性と進歩性が求められますから、2015年に出願した内容を、そのまま出願しても、すでに公知になっている技術ということで新規性なしで拒絶されてしまいます。よって、2023年版として何が新しいのか、ということを確認しておきましょう。

2015年出願の請求項1はこのような内容でした。

1. An electronic device, comprising:
a housing comprising a transparent housing component having a curved interior surface;
a flexible display assembly coupled to the curved interior surface of the transparent housing component, the flexible display assembly being arranged to present visual content through the transparent housing component; and
a processor configured to direct the flexible display assembly to present a first user interface through a first portion of the transparent housing component and a second user interface through a second portion of the transparent housing component that is oriented in a different direction than the first portion.

(カーブした内部表面を持つ透明な筐体部品と、その内部表面に取り付けられたフレキシブルディスプレイアセンブリが含まれる電子デバイスを提供する。プロセッサは、フレキシブルディスプレイアセンブリを制御して、透明な筐体部品の1つの部分から最初のユーザーインターフェースを提供し、2つ目の部分からは異なる方向に向けた2番目のユーザーインターフェースを提供する)

これに対して、今回の2023年版はこのような請求項です。明らかに「取ろうとしている権利」が異なるのがわかります。

1. An electronic device having front and rear surfaces, the electronic device comprising:
a housing;
a display in the housing that wraps from the front surface to the rear surface;
a camera on the front surface configured to capture an image; and
control circuitry configured to process the captured image using facial recognition software and to adjust visual content on the display based on the captured image.

(前面および背面の表面を有する電子機器であって、以下を含む: 筐体; 前面から背面にわたって延びる筐体内のディスプレイ; 画像を撮影するために前面に配置されたカメラ;および キャプチャされた画像を顔認識ソフトウェアで処理し、キャプチャされた画像に基づいてディスプレイ上の視覚コンテンツを調整するための制御回路)

2015年当時に実装できていなかった構成、つまり顔認識技術をもったカメラを有するという点を、今回新たに権利取得しようとしているのかもしれません(もしくは他社に独占権を取られないように公知にしておく)。

いずれにせよ、今回の出願で、Appleが継続してラップアラウンドディスプレイを手がけようとしていることがわかりましたので、今後の新製品に搭載されるかどうか、楽しみですね。