技術的な観点から有望銘柄に注目する「工藤特許探偵事務所」。過去2年間におけるYK値の成長率が高い銘柄を業種ごとに紹介してきた本連載だが、今回は「情報・通信業」「サービス業」「小売業」など、これまで取り上げてこなかった全業種を対象に、YK値(下囲み参照)の成長率が高い4銘柄を日本経済新聞は22日6日17日紹介している。
「情報・通信業」「サービス業」「小売業」などの分野で注目されているのは、デジタルコンテンツの提供や、マーケティング、サービスに関する特許だ。
第1位はKADOKAWA。出版・コンテンツ配信の国内大手だ。技術力を伸ばしているのは動画にコメントを表示するシステム。傘下のドワンゴが保有するこのシステムを使ったサービスは、足元、勢いに陰りが見えているものの、コメントを表示する動画サービス自体には競争力があると考える。今後さらなる飛躍を遂げることも十分に可能だろう。
第2位のアスカネットは個人向けフォトブック作成や遺影写真の撮影などを手掛ける会社だ。訃報などを配信するシステムに関する特許でYK値を伸ばしている。これは訃報や弔電の配信、供花の手配などがインターネット上でできるという葬儀社向けのサービス。冠婚葬祭の中でも葬祭事業は今後も市場が拡大すると考えられ、さらなる成長が期待できる。
第3位はコロプラ。スマートフォン向けゲームやVR(仮想現実)ゲームなどを手掛けている。伸びているのは、モーションキャプチャーなどを用いたゲームの操作方法に関する技術。ゲーム内のキャラクターをリアルタイムで自在に動かすことができるというものだ。近年はVtuberの人気が高まるなど、キャラクターを動かす技術が注目されており、デジタルコンテンツの市場で同社は成長を続けると考える。
第4位のゼンショーホールディングスは牛丼チェーン「すき家」やファミレスを傘下に持つ外食大手。YK値が伸びたのは座席を予約し、自動案内する店舗用システムに関する技術だ。この技術は外食産業で問題となっている人手不足への対策になると考えられる。コロナ収束後には、外食のリベンジ消費も期待でき、同社にとっては成長の機会と言えるだろう。
上記4銘柄以外では、段ボールなどの紙素材に強みがある特種東海製紙、ネット広告技術やデジタルマーケティングに取り組む博報堂DYホールディングス、ガソリンスタンドにある大型洗車機、デジタルサイネージなどを手掛けるエムケー精工などが技術優良銘柄として挙げられる。
今回取り上げた企業は、時流を捉えたビジネスモデルに関する技術を持つ企業が多かった。新しいビジネスモデルは企業に大きな利益をもたらすもの。今後も注目していきたい。
YK値とは 技術力(特許価値)で成長株を探す方法
YK値は工藤一郎国際特許事務所が開発した指標で、出願された特許に対する閲覧請求や無効審判など、ライバル企業が特許の内容を調べたり、無効にするために弁理士に支払った費用から算出する。弁理士コストは50万~100万円程度、訴訟を含めた場合は数百万円程度であり、YK値はこの金額を基準として算出する。
なお、実際の手続きには弁理士コスト以外も必要で、全体では弁理士コストの10倍、数千万円程度になることもある。ただし、全体のコストと弁理士コストはおおむね比例するため、弁理士コストから技術の価値は推定できる。YK値は特許価値評価ウェブサービス「PATWARE」で参照可能。
YK値が上昇すると時価総額(株価)の増加も期待できる。図は日東電工の過去30年間の株価とYK値の推移だが、両者には一定の相関が見て取れる。このコラムでは成長株を探すため、過去2年間のYK値上昇率に着目。業種ごとに増加率上位銘柄を成長株として紹介する。特許価値の変化が株価に反映されやすい中小型株が対象だ。なおYK値は株価には着目していない。株価が既に割高になっている場合もあるので、PERやPBRなども合わせて参考にしてほしい。
【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB146SD0U2A610C2000000/