代わり映えしない高額の「恵方巻」、策なし縁起物商品のこれから



きょう2月3日は節分です。節分とは、本来は季節の分かれ目である「立春、立夏、立秋、立冬」の前日のことで年に4回ありますが、室町時代あたりから、節分といえば立春の前日を指すようになったそうです。

そして、節分といえばこんにゃく、イワシ、そば、けんちん汁、恵方巻き、くじら、豆(福豆)、落花生、福茶の9つが縁起物として飾ったり食べられたりしていますが、地域によっては他にもあるようで、そのなかで節分と言えば「恵方巻」がここ最近、毎年盛り上がっていますね。

節分にはその年の歳神様がいる恵方を向き、無言で巻き寿司を1本食べて縁起を担ぐという風習で、今年の恵方は北北西。もともと関西発祥の文化といわれるが、今や全国区の一大商戦になっている。

「恵方巻き」は、もともと「節分の巻き寿司」や「幸運巻き寿司」と呼ばれ、その後、丸ごとかじることから「丸かぶり寿司」とも呼ばれるようになり、「恵方巻」という名前は、平成元(1989)年のセブン-イレブンでの発売で初めて登場した。

当時、節分巻き寿司を販売したのは、広島県内のセブン-イレブンで、ある1店舗の個人オーナーが、節分巻き寿司を大阪の「縁起のいい風習」に着眼し、商品名を「恵方巻」としたそうで、ひとつの商標がここまで恵方巻きを全国区にして新たな市場を創ったのは素晴らしいアイデア。

その後、節分巻き寿司は「恵方巻」として定着し、現在ではオーソドックスなものからアレンジ商品まで、多彩な展開を見せるようになっているのはご存知の通りです。

※意匠登録1396390

さてさて、今年のトレンドは海鮮巻と和牛巻が盛り上がっており「恵方巻」商戦は加熱の一途、しかも一本10,800円(税込)の最高級なものが今年も話題だ。写真左が伊勢丹新宿店の金箔を巻いた「特選海鮮十二単巻」、右がイオンの「ずわいがにを使った贅沢太巻」でいずれも10,800円(税込)。

ところで、日本記念日協会のデータによると、節分のような主な祭事(記念日)の、バレンタインデー、ハロウィン、母の日、父の日、クリスマスといった市場規模はそれぞれざっくり1,000憶円~1,500憶円といったところ。そして節分は約600憶円規模まで伸びているそうだ。

だが、毎年毎年、こうした記念日商戦のマーケティング手法・商品企画においてだけれど、アイデアが乏しいと感じているのは私だけだろうか。ただ目先をエスカレートさせて煽るだけだ。簡単にいえば高額に走って刺激しているだけ。年明けの福袋もそうだし、ある意味ふるさと納税の返礼品もそうだ。

金箔を巻いた海鮮恵方巻はまさにそれだ。祭事MD(マーチャンダイジング)とはそのようなものなのかもしれないが、少なくともそれは今までの話で、今年も同じアプローチなのかと思う。新型コロナウイルスのパンデミックのなか、同時に地球環境問題、まさしく時代の大きな節目、いや曲がり角をもう曲がっている。そっちじゃないだろと考えさせられる。悲しいかな従来延長線上の手法を継承した小手先の企画だ。

食品業界の直近のトレンドを見てみても、商品そのものでは目新しいものはなく、「健康」、「プチ贅沢」、「0.7食」、地産地消を含めた「エシカルフード」といったキーワードが主なもの。

個人的には「食料危機を救う」「未来のスーパーフード」「高たんぱく」などの文脈で言われている「昆虫食」に注目しており、昨年あたりから「コオロギパウダー」を使った商品もいろいろ出てきている。もうひとつはビタミンE、食物繊維、マグネシウムがたっぷり、しかもナッツアレルギーの方用におすすめの「ひまわりの種バター」が新規性を感じるところだ。

さすがにこれらを使った恵方巻は考えにくいところだが、従来の厚盛で煽る方向ではなく、こうしたフレッシュで新規性あふれる“御利益”な商品を提案してほしいものだ。いま、日本は10,000円の恵方巻を消費する気分ではないと思うがどうだろうか。

SDGsを行動に移す今年、「食品ロス」の取組みも叫ばれ、少なくとも予約販売には注力してもらいたい。恵方巻を含む節分の寿司の市場規模は約250憶円と言われ、その廃棄額は約10憶超とも言われている。

ところで「恵方巻」の商標について、セブンイレブンは申請してなかったのかと調べてみたところ、実は、1984年1月17日、「恵方巻」(出願番号:商願昭59-003097、32類 巻ずし※)
※調査:J-Plat Patにおける商標検索、株式会社白紙とロック調べ

出願人は岡山市の「株式会社権太寿司」(出願情報)で、その後、「株式会社さんわあるど」という会社に名義変更されているようだ。特許庁の経過情報によると、本商標は、すでに存続期間満了日(1996/11/27) しているようで、意外な結果に終わっている。

なお、類似の名称で、「恵方巻あられ」、「金の恵方巻」、「花恵方巻」、「恵方柿」、「恵方餅」などについてはすでに商標登録が成立している。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。




Latest Posts 新着記事

11月に出願公開されたAppleの新技術〜PCに健康状態センサーをつけるとどうなるのか〜

はじめに もし、あなたが毎日使っているノートパソコンが、仕事や勉強をしながらそっとあなたの健康状態をチェックしてくれるとしたら、どう思いますか? これまで、私たちが使ってきたノートパソコンのような電子機器には、ユーザーの体調をモニターするような高度なセンサーはほとんど搭載されていませんでした。Appleから11月に出願公開された発明は、その常識を覆す画期的なアイデアです。キーボードの横にある、普段...

AI×半導体の知財戦略を加速 アリババが築く世界規模の特許ポートフォリオ

かつてアリババといえば、EC・物流・決済システムを中心とした巨大インターネット企業というイメージが強かった。しかし近年のアリババは、AI・クラウド・半導体・ロボティクスまで領域を拡大し、技術企業としての輪郭を大きく変えつつある。その象徴が、世界最高峰AI学会での論文数と、半導体を含むハードウェア領域の特許出願である。アリババ・ダモアカデミー(Alibaba DAMO Academy)が毎年100本...

翻訳プロセス自体を発明に──Play「XMAT®」の特許が意味する産業インパクト

近年、生成AIの普及によって翻訳の世界は劇的な変化を迎えている。とりわけ、専門文書や産業領域では、単なる機械翻訳ではなく「人間の判断」と「AIの高速処理」を組み合わせた“ハイブリッド翻訳”が注目を集めている。そうした潮流の中で、Play株式会社が開発したAI翻訳ソリューション 「XMAT®(トランスマット)」 が、日本国内で翻訳支援技術として特許を取得した。この特許は、AIを活用して翻訳作業を効率...

特許技術が支える次世代EdTech──未来教育が開発した「AIVICE」の真価

学習の個別最適化は、教育界で長年議論され続けてきたテーマである。生徒一人ひとりに違う教材を提示し、理解度に合わせて学習ルートを変化させ、弱点に寄り添いながら伸ばしていく理想の学習プロセス。しかし、従来の教育現場では、教師の業務負担や教材制作の限界から、それを十分に実現することは難しかった。 この課題に真正面から挑んだのが 未来教育株式会社 だ。同社は独自の AI学習最適化技術 で特許を取得し、その...

抗体医薬×特許の価値を示した免疫生物研究所の株価急伸

東京証券取引所グロース市場に上場する 免疫生物研究所(Immuno-Biological Laboratories:IBL) の株価が連日でストップ高となり、市場の大きな注目を集めている。背景にあるのは、同社が保有する 抗HIV抗体に関する特許 をはじめとしたバイオ医薬分野の独自技術が、国内外で新たな価値を持ち始めているためだ。 バイオ・創薬企業にとって、研究成果そのものだけでなく 知財ポートフォ...

農業自動化のラストピース──トクイテンの青果物収穫技術が特許認定

農業分野では近年、深刻な人手不足と高齢化により「収穫作業の自動化」が急務となっている。特に、いちご・トマト・ブルーベリー・柑橘など、表皮が繊細な青果物は人の手で丁寧に扱う必要があり、ロボットによる自動収穫は難易度が極めて高かった。そうした課題に挑む中で、株式会社トクイテンが開発した “青果物を傷付けにくい収穫装置” が特許を取得し、農業DX領域で大きな注目を集めている。 今回の特許は単なる「収穫機...

<社説>地域ブランドの危機と希望――GI制度を攻めの武器に

国が地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度をスタートしてから10年が経つ。ワインやチーズなど農産物を地域の名前とともに保護する仕組みは、欧米では産地価値を国境を越えて守る知財戦略としてすでに大きな成果を上げてきた。一方、日本でのGI制度は、導入から10年が経った今ようやくその重要性が幅広く認識される段階に差し掛かったと言える。 農林水産省によれば、2024年時点...

保育データの構造化とAI分析を特許化 ルクミー「すくすくレポート」技術の本質

保育業界におけるDXが本格的に進む中、ユニファ株式会社が展開する「ルクミー」は、写真・動画販売や登降園管理、午睡チェックシステムなどを通じて保育の可視化と効率化を支えてきた。その同社が開発した 保育AI™「すくすくレポート」 が特許を取得したことは、保育現場のデジタル化における大きな節目となった。 「すくすくレポート」は、子どもの日々の成長・発達をAIが分析し、保育士の観察記録を補助...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る