ドライバーの疲れを軽減。自動運転車両の「自動リクライニング」


年末年始、自家用車で帰省をしました。コロナの影響もあり、数年ぶりの帰省でした。ひさびさに自分で車を長時間運転した結果、体力の衰えを感じつつも、運転中は「もう数年すれば自動運転技術によってもっと簡単に長距離ドライブできるに違いない」などと、未来の技術で楽をすることばかりを考えていました。

ところで、自動運転技術は、既に世界中で実証実験段階に入ってはいますが、少なくともまだ日本では一般化されていません。近い将来実現しそうだとは思いますが、なかなか乗り越えなければならない課題は多そうです。一方で、完全な自動運転とまではいかないものの、車線をキープする機能や、前方の車を追尾する形で自動でアクセル&ブレーキをコントロールしたりといった技術はもう一般的なものとなっていて、実は私の愛車にもその技術は搭載されています。

今回は、自動運転技術自体とは直接関係ないものの、自動運転が一般的なものとして実現される未来を見据えた特許について紹介してみたいと思います。

長距離自動運転時、ドライバーの疲れを軽減

今回紹介する特許は特許6503848号です。
こちらの特許は日産自動車によるもので、出願日は2015年4月3日、登録日は2019年4月5日、発明の名称は「自動運転車両の運転姿勢調整装置」です。

この特許発明の実施は、その前提として、ステアリング操作及びペダル操作を車に代行させることのできる自動運転車両があることが求められますが、このような車両に対して、運転者が「足置き部の荷重、着座するシートの座面の荷重、運転者の背もたれとなるシートバックの荷重」のうちのいずれかを変更したことを検出することで、車が『運転者が姿勢を変えたいのかな?』という意思を検出する「姿勢意思変更判断部」を設けたものです。

長距離運転では同じシートに長時間同じ姿勢で座っているのはなかなか苦痛です。運転を車にまかせて、ドライバーは走行の監視をしているだけ、という状態においては、なるべく快適な姿勢になりたいというのは当然のことですが、それを車側が検知してシート座面の角度や足置き部の角度等を変えられるのだそうです。ちょっと詳しく内容をみてみましょう。

運転者が運転操作に介入しているかをまず判断する

当然のことではありますが、ドライバーが運転操作を行っているときに、急にシートの背もたれが倒れたりしたら、相当危険ですよね。そんなことが起きないように、「操作検出部」はアクセルペダルに生じる圧力データやステアリングに生じるトルクデータ、ペダル撮影カメラで撮影された画像データ等に基づいて、まずはドライバーが運転をしているのかどうかを常に判断し続けます(下図参照。様々な観点から、ドライバーが運転に関与しているかを判断する)。

運転介入の意思がないと判断された場合に姿勢変更意思の確認へ移る

運転介入の意思がなく、完全に車に運転を委ねている状態であると判断された後に、姿勢変更の意思確認に移行します。この姿勢変更のために足置き部の傾斜角度、シートバックの傾斜角度、シート座面の傾斜角度及び高低を変更可能にアンロックさせます。これにより、ドライバーは容易に全身のストレッチを行うことが可能な状態とすることができます。このようなストレッチは長距離運転で硬くなった筋肉をほぐす効果があり、リフレッシュに有用です。

また、姿勢復帰の意思があると判断された場合、つまりステアリングの操作があったりペダルの踏み込みがあったりした場合には、運転に適した姿勢にすぐに戻すことができます(下図のようにペダルを踏み込むとリクライニングがもとに戻る)。

長距離運転ドライバー向けに実用化が待たれる

ちょうど長距離運転での帰省を行ったので実感としてよくわかりますが、やはり2時間に一度くらいはサービスエリアなどに車を駐めて、軽い体操などのストレッチをすることは疲れを溜めないために必要ですね。

今回紹介したような特許技術が搭載された自動運転車が実用化されれば、休憩頻度を少し減らせるかもしれません。自家用車だけでなく、時間に追われる仕事をされている長距離物流ドライバーなどの長距離運転者にも非常に有用と思われます。今後の自動運転車への搭載が楽しみな技術です。




Latest Posts 新着記事

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

「AI×知財が生む国産イノベーション ナレフルチャットの議事録特許が拓く未来」

2025年秋、CLINKS株式会社が提供する法人向け生成AIチャット「ナレフルチャット」が、議事録生成技術に関する特許を取得した。 このニュースは単なる技術発表にとどまらず、「AIが人の仕事の記録と知識をどう扱うか」という大きな変化の象徴でもある。 いま、AIは“人の代わりに考える”段階から、“人の思考を支える”段階へと進化している。 その中で、「会議をどう記録し、どう活かすか」は、企業の知的生産...

「日用品にも知財戦争 クレシア×大王製紙、“3倍巻き”特許訴訟の行方」

はじめに:争点と構図 日本製紙クレシア(以下「クレシア」)は、トイレットペーパーについて、従来品に比して「長さ3倍(長巻き)」としつつ実用性を保つ技術を有する特許を取得しており、これを背景に、同種製品を販売する大王製紙(以下「大王製紙」)に対し、製造・販売の差止めおよび約3,300万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。 第1審(東京地裁)では、クレシアの請求は棄却され、大王製紙の製品がクレシア...

「ナノレベルの精度を支える静電チャック ― ウエハー温度均一化の秘密」

ウエハー温度を均一に保つ静電チャック ― 半導体製造を支える見えない精密技術 半導体製造の現場では、目に見えない高度な工夫が、日々の歩留まりや性能向上に直結しています。その代表例の一つが、静電チャック(Electrostatic Chuck, ESC)です。静電チャックは、半導体ウエハーをチャック面で静電力により吸着保持し、ナノメートル単位の加工を可能にする装置です。表面からはただの「吸着板」のよ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る