焼きの魔法で、味わい深化


ROUND.2森永ベイク VS 明治ガルボ

焼きの魔法で、味わい深化

洋菓子「クレームブリュレ」は、フランスのデザートで、その特徴はカスタードクリームの表層を焦がし、カリっとした食感と香ばしいカラメル層で覆われた独特の外観で世界中で愛されています。このクレームブリュレに似た独特の食感と外観を、焼きチョコで再現しようという試みが森永製菓「BAKE(ベイク)」の開発の基盤となりました。

しかし、従来の焼成チョコレートでは表面に糖成分のガラス化した透明な皮膜が形成されるだけで、クレームブリュレのような焦げた外観や香ばしい風味を再現することが難しかったのです。この課題をどのように解決したのか、詳説していきます。

洋菓子のクレームブリュレは、フランス語で焦げたクリームを意味し、カスタードクリームの表層を焦がして、そのカラメル層で覆われた独特の外観を有すると共に、表層のカリっとした食感と、内部の軟らかく滑らかなクリームの食感、カラメル化した香ばしい風味などを楽しむことができるデザート菓子として広く親しまれています。

本発明者らは、洋菓子のクレームブリュレに似た独特の食感と外観を呈する菓子製品を、焼成チョコレートによって実現できないか試行を繰り返しました。

しかしながら、従来知られているような焼成チョコレートでは、表面に糖成分のガラス化した透明な皮膜が形成されるだけであり、焦げた外観を呈するものではなく、カラメル化した香ばしい風味も十分に付与されませんでした。また、従来の手法において焼成の程度を調節しても、特定の箇所だけが焦げてしまい、程よい外観や食感、カラメル化した香ばしい風味を付与することができませんでした。

発明の目的

本発明の目的は、洋菓子のクレームブリュレのように、表面が程よく焦げた外観であり、表層がカリッとしていて、内部が軟らかく滑らかな食感であり、カラメル化した香ばしい風味を味わうことができる焼成チョコレート、及びその製造方法を提供することにあります。

発明の詳細

上記目的を達成するため、本発明の焼成チョコレートは、二糖以下の糖を含有する第1チョコレート層と、二糖以下の糖の含有量が前記第1チョコレート層よりも少ない第2チョコレート層とが接合された焼成チョコレートであって、前記第1チョコレート層は前記第2チョコレート層よりも薄い厚さで前記焼成チョコレートの外周面のうちの少なくとも1つの所定領域を覆うように接合されており、前記第1チョコレート層で覆われた所定領域には、その中央部から周縁部に亘って焦げ目が発生していることを特徴とします。

本発明の焼成チョコレートは、第1チョコレート層が第2チョコレート層よりも薄い厚さで焼成チョコレートの外周面のうちの少なくとも1つの所定領域を覆うように接合されているので、焼成の際には、その第1チョコレート層が第2チョコレート層によって裏打ちされ、支持されて、形状を保ちつつ、十分に焼成されます。そして、二糖以下の糖を含有する第1チョコレート層で覆われた所定領域には、その中央部から周縁部に亘って焦げ目が発生しているので、カリッとした食感と共に、カラメル化した香ばしい風味が付与されます。

それでは、図面を参照しながら、本発明の詳細をみていきましょう。

【図1】

図1は、試験例1における調製例1〜7の焼成チョコレートに関し、焼成前の成形物の断面形状を示す図であり、それぞれ図1aは調製例1に関し、図1bは調製例2に関し、図1cは調製例3に関し、図1dは調製例4に関し、図1eは調製例5に関し、図1fは調製例6に関し、図1gは調製例7に関します。

なお、本発明において「二糖以下の糖」は、炭素数が3〜12の単糖類もしくは二糖類の意味であり、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類や、スクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース等の二糖類などが挙げられます。

これらは、2種以上のものがチョコレート原料に配合された場合や、無水あるいは含水の結晶の形態のものがチョコレート原料に配合された場合も含み、それらの合計の含有量として、第2チョコレート層における含有量が第1チョコレート層における含有量よりも少なくなるようにします。

また、第2チョコレート層の二糖以下の糖の含有量は第1チョコレート層の二糖以下の糖の含有量より5質量%以上少ないことが好ましく、10質量%以上少ないことがより好ましいでしょう。これによれば、第1チョコレート層による焦げ目を発生し易くすることができると共に、第2チョコレート層による甘味を調整し易くすることができます。

本発明の焼成チョコレートの製造方法においては、上記第1チョコレート層と上記第2チョコレート層とを、第1チョコレート層が第2チョコレート層よりも薄い厚さで外周面のうちの少なくとも1つの所定領域を覆うように接合します。その接合の方法に特に制限はありません。上記第1チョコレート層と上記第2チョコレート層とを、第1チョコレート層が第2チョコレート層よりも薄い厚さで外周面のうちの少なくとも1つの所定領域を覆うように接合した後、第1チョコレート層で覆われた所定領域を焼成することにより、第1チョコレート層で覆われた所定領域の中央部から周縁部に亘って焦げ目を発生させます。

上記第1チョコレート層によって構成される、焦げ目を発生させようとする表面に対し、適当な焼成の処理を施すことにより、少なくともその第1チョコレート層の表面に偏りなく焦げ目を発生させることができると共に、他の部分を焼成し過ぎてチョコレートの保形性が損なわれてダレてしまったり、食感や風味が劣化してしまったりすることがありません。焼成は、オーブン、シュバンクバーナー、ガスバーナー、電気ヒーター、電子レンジなどを用いて行うことができます。

本発明の評価においては、トンネル型オーブンに通して焼成雰囲気温度220℃、焼成時間300秒の条件で焼成するという条件を採用しました。

図1で示したような層状のチョコレートをそれぞれ焼成し、食感及び外観の評価を行いました。結果を表にまとめて示します。

【表1】

上層の厚さが下層の厚さより薄い調製例2〜5の焼成チョコレートでは、上層の厚さが下層の厚さに比べて薄くなるのにつれて、良好な結果が得られました。また、上層の、焦げ目を付けようとする所定領域の中央部分の厚さを側縁部分の厚さよりも薄くすると、更により良好な結果が得られました(調製例6、7)。

本発明によれば、洋菓子のクレームブリュレのように、表面が程よく焦げた外観であり、表層がカリッとしていて、内部が軟らかく滑らかな食感であり、カラメル化した香ばし い風味を味わうことができる焼成チョコレートを提供することができます。

このような特徴を出すため、製造方法において、第1チョコレート層を第2チョコレート層よりも薄い厚さで焼成チョコレートの外周面のうちの少なくとも1つの所定領域を覆うように接合するので、焼成する際には、その第1チョコレート層が第2チョコレート層によって裏打ちされ、支持されて、形状を保ちつつ、十分に焼成されます。そして、二糖以下の糖を含有する第1チョコレート層で覆われた所定領域を焼成することにより、その所定領域の中央部から周縁部に亘って焦げ目を発生させることができます。これにより、カリッとした食感と共に、カラメル化した香ばしい風味を付与することができたのです。

発明の名称

焼成チョコレート及び焼成チョコレートの製造方法

出願番号

特願2015-223375

公開番号

特開2017-086024

特許番号

特許第5997825号

出願日

平成27年11月13日

公開日

平成29年5月25日

登録日

平成28年9月2日

審査請求日

平成27年12月9日

出願人

森永製菓株式会社

発明者

信田 直毅 他
国際特許分類

A23G 1/00 (2006.01)
A23G 1/30 (2006.01)

経過情報

早期審査に付され、一旦拒絶査定となったものの、拒絶査定不服審判における前置審査で特許査定。



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