二段階減圧含浸で、風味豊かな新時代の菓子を実現
今回紹介する特許発明は、明治製菓の人気商品「ガルボ」に採用されていると考えられるものです。この特許は、多孔質の固形原料に液状原料を含浸させる独創的な方法を提供し、多孔質菓子食品の風味と食感を一新しました。この技術により、ガルボはその独特な味わいと質感で消費者に新しい食体験を提供しています。
この革新的な製造法が、どのようにしてガルボの特徴を高めているのか、詳説していきます。
発明の背景
多孔質の固形原料、例えば、焼き菓子や、乾燥食品、肉、野菜、果実等の凍結乾燥食品を減圧処理する前後または減圧状態で液状原料と接触させて食品中に液体原料を含浸させることにより得られる含浸食品やその製造方法は既に広く知られています。
1回の減圧処理を施し、常圧に戻す一連の一次減圧処理で、食品内部にまで液状原料を含浸させることができ、液状原料と含浸された食品の一体感に秀でた複合食品を得ることができることは既に知られた技術ですが、以下のような欠点がありました。
例えば、チョコレートの含浸焼き菓子では、一次減圧処理だけではチョコレートが焼き菓子の表層付近に多く残り、チョコレート味やその食感が強くなってしまい、固形原料である焼き菓子のもつ味と食感が負けてしまいがちでした。それを避けるために減圧度を低くすると、所定量を含浸させることはできても表面付近の浅いところまででチョコレートはそれ以上含浸せず、深部まで均一に含浸することができないという問題がありました。
どんな発明?
発明の目的
本発明は、減圧含浸した食品において、食品の内部深くまで液状原料が十分浸透しているにもかかわらず液状原料の風味が強すぎず、良好な嗜好性を有する含浸食品、及び該含浸食品を製造できる方法を提供することを課題としました。
発明の詳細
本発明者らは、上記の課題解決のために鋭意検討を行い、密閉系内にて液状原料に固形原料を減圧下で埋没し、常圧に戻した後、液状原料から固形原料を取り出し、固形原料を液状原料に埋没させることなく、再度密閉系内にて減圧を行い常圧に戻すことを行うと、固形原料中に含浸された液状原料が内部まで浸透して均一に含浸されるとともに、液状原料の一部が押し出されることで液状原料の含浸量をコントロールすることが可能となり、固形原料の内部深くまで液状原料が十分含浸しているにもかかわらず、液状原料の風味が強すぎず、風味・食感に優れた含浸食品が得られることを見出しました。
具体的にどのような製造方法となるのか、以下詳説していきます。
本発明の基本構成は以下のようになっています。
固形原料に液状原料が含浸した含浸食品の中心部を切断した切断面において、液状原料が浸透していない部分の面積の切断面全体の面積に対する比率が、0〜8%であり、かつ含浸した液状原料の重量が含浸食品全体の重量に占める割合が、40〜75%である含浸食品。
上記食品を製造する方法としての基本構成は以下のようになっています。
密閉系内にて液状原料に固形原料を埋没させた状態で系内を減圧に保持し、しかる後に常圧に戻して液状原料から固形原料を取り出し、その後前記固形原料を液状原料に埋没させない状態で、再度、密閉系内を減圧に保持し、更に常圧に戻すことを特徴とする含浸食品の製造方法。
なお、本発明において、密閉系内にて液状原料に固形原料を埋没させた状態で系内を減圧にし、その後常圧に戻す一連の操作を一次減圧処理といいます。また、密閉系内にて系内を再度減圧にし、その後再度常圧に戻す一連の操作を二次減圧処理といいます。
また、本発明の固形原料は少なくとも一部に多孔質構造の空隙を有するものをいいます。例えば、パイ、ワッフル、食パン、コッペパン、フランスパンなどの含水率30〜40重量%程度の食材;ドーナツなどの含水率20〜30重量%程度の食材;凍り豆腐、ふ、乾燥湯葉、はるさめ、あずき、インゲン豆、えんどう豆、ささげ、大豆、乾麺、そうめん、冷麦、マカロニ、スパゲッティ、パスタ、とうもろこしなどの含水率10〜20重量%程度の食材などが挙げられます。
本発明では、このような固形原料に、液状原料を含浸させます。含浸する液状原料としては、液体、溶液、スラリー液、分散液など形態は問わず、含浸時に液状で取り扱い可能な可食成分を用いることができます。また、マーガリン、バター、チョコレートなど、常温で固体であっても、温度などの含浸条件を調整することにより液体として取り扱いの可能な原料も用いることができます。
本発明においては、圧力あるいは温度などの含浸条件を選択することにより、比較的高粘度の液状原料も含浸に用いることができ、例えばクリーム状あるいはジャム状の成分も含浸可能な流動性を有していれば液状原料として用いることができます。また、オリーブ油、サラダ油、マーガリン、バターなどの食用油または油脂;醤油、みそなどの発酵調味料;コーヒーや茶の抽出物などの食品抽出成分;ブランデー、ラム酒、コニャック、キュラソーなどの酒類、果汁、ジュース、スープ、水飴、牛乳、ココアなどの飲料;コンデンスミルク、ヨーグルト、生クリームなどが液体原料として挙げられます。
本発明において、一次減圧処理は、液状原料に固形原料を埋没させた状態で減圧保持することが重要であり、液状原料に固形原料を埋没させた後に減圧しても、減圧した状態で液状原料に固形原料を埋没させても構いません。一次減圧処理後に、固形原料内部には液状原料が浸透せず、空気が残存している部分が存在することが必要です。
一次減圧処理後の固形原料の内部の模式図を図1に示します。
【図1】一次減圧処理後の含浸食品の切断面の模式図
1 液状原料が染みこんだ部分
2 液状原料が染みこんでいない部分
二次減圧処理は一次減圧処理と同一の密閉容器内で行っても良く、異なる密閉容器内で行っても構いません。
一次減圧処理により、液状原料が固形原料に含浸されます。そして二次減圧処理時、減圧により固形原料内部に残存していた空気が膨張します。これにより液状原料の一部が残存空気とともに固形原料内部より押し出されます。その後常圧に戻すと、固形原料内部に残存する液状原料が一次減圧処理時に空気が残存していた部分にまで浸透します。
二次減圧処理後の固形原料の内部の模式図を図2に示します。
【図2】二次減圧処理後の含浸食品の切断面の模式図
代表的な実施例を以下に示します。
【実施例1】
鶏卵315重量部、砂糖200重量部、薄力粉150重量部、ベーキングパウダー1.5重量部をよく攪拌混合し、これに溶解したバター15重量部、牛乳45重量部を混合して水ダネを得ます。これを金属製のバットに流し込み、オーブンで180℃、30分焼成し、スポンジ生地を得た。スポンジ生地を冷ました後、55mm×15mm×15mmの大きさに切り、これをさらに100℃、30分乾燥して、焼き菓子である乾燥スポンジを得ます。
また、カカオマス200重量部、砂糖380重量部、粉乳150重量部、カカオバター263重量部、乳化剤7重量部にて、定法にてチョコレート生地を作成しました。35℃にて、このチョコレート生地100重量部に対してチョコシードB(不二製油製)を3重量部添加混合し、35℃に保持した状態で該チョコレート生地に前記乾燥スポンジを埋没させ、これらを密閉真空容器に入れ5kPaになるまで減圧処理を施した後、直ちに常圧に戻し、チョコレート生地より取り出しました。一次減圧処理で得られた乾燥スポンジの、表面に付着したチョコレートをエアブローにて除去しました。これを再び密閉真空容器に入れ、5kPaになるまで二次減圧処理を施し、常圧に戻しました。これを15℃で冷却固化させ、チョコレート生地が含浸した含浸食品を得ました。
このような製法で製造した含浸食品は、チョコレート生地もしくはシーズニング液が内部深くまで浸透し、かつ食感、風味の軽いものでした。
ここがポイント!
本発明は、多孔質の固形原料に液状原料を含浸させる食品及びその製造方法に関するものです。この特許が解決しようとする課題は、液状原料が食品の内部深くまで十分に浸透しながらも、その風味が強すぎない、良好な嗜好性を有する含浸食品を提供することです。
この課題の解決策として、液状原料に固形原料を減圧下で埋没させた後、再度減圧を行いながら液状原料の含浸量をコントロールする方法を提案しています。これにより、均一に液状原料が含浸され、風味と食感に優れた含浸食品が得られるとしています
特許の概要
発明の名称 |
含浸食品及びその製造方法 |
出願番号 |
特願2006-178287 |
公開番号 |
特開2008-5745 |
特許番号 |
特許第4673257号 |
出願日 |
平成18年6月28日 |
公開日 |
平成20年1月17日 |
登録日 |
平成23年1月28日 |
審査請求日 |
平成21年4月15日 |
出願人 |
明治製菓株式会社 |
発明者 |
桑野 豊 |
国際特許分類 |
A23G 3/50 |
経過情報 |
存続期間満了日(2026/06/28) |