チョコで包む、アイスの魔法

ROUND.3森永ピノ VS 森永チョコモナカ

チョコで包む、アイスの魔法

森永乳業の「ピノ」は、日本で愛され続ける一口サイズのアイスクリームです。このアイスの特徴は、その独特の製法にあります。まず油脂原料(主にチョコレート)をモールドに注入します。この油脂原料が固化する前に、冷菓ミックス(アイスクリームの原料)をモールド内に注入します。注入される冷菓ミックスの圧力により、油脂原料がモールドの内壁に沿って均等に広がり、外殻を形成します。

この工程により、チョコレートの外殻を持つアイスクリームが製造されます。このチョコレート層は、アイスクリームを包み込むように均一に延び、一口サイズの完璧なバランスを実現しています。この独自技術により、ピノは常に最高の品質と味を保ち、小さな幸せを提供し続けています。

アイスミルクやアイスクリーム等をチョコレート等の油脂原料でコーティングした、油脂原料からなる外殻を有する冷菓が知られています。 通常、このような冷菓は、以下のような工程を経て製造されます。

【従来技術】
  • アイスミルクやアイスクリームの原料である冷菓ミックスをモールド(型)に充填し、冷却固化させる
  • 固化した冷菓をモールドから取り出す
  • 温調して液状としたチョコレート等の油脂原料に固化した冷菓を浸漬して、冷菓の周りに油脂原料をまとわせる

また、従来、冷菓を製造する際のモールドは、金属製のものが多く採用されていました。

冷菓のような嗜好品の開発において、味や食感のみならず見た目にもきれいな商品を提供することは、重要な課題の一つです。

更に、このような商品の製造コストを低減し、より求めやすい価格の商品を市場に提供することも重要な課題の一つです。

従来の、アイスクリーム等をチョコレートでコーティングした冷菓の製造方法は、上述したようにモールド内で凍結したアイスクリーム等を一旦取り出し、液状のチョコレートに浸漬するという工程が必須で、浸漬のための装置及び当該装置への搬送手段が必要でした。また、浸漬を効率よく行うために、コーティング量以上の大量のチョコレートを液状で保持する必要があるので、その管理コストについても見直しの余地がありました。

発明の目的

本発明は、アイスクリーム、アイスミルク等をチョコレート等の油脂原料でコーティングした冷菓の製造方法において、従来の製造方法に比べて、より簡便な製造方法を提供することを目的としています。特に、工場での大量生産に適した製造方法を提供することを目的とします。

更に、本発明は、冷菓の製造に用いられるモールドをそのまま冷菓を収容する容器として利用することを前提とし、きれいな形状を保持したまま消費者が容器(モールド)から冷菓を簡単に取り出せるような製品を提供することを目的としています。

発明の詳細

それでは、図面も参照しながら、本発明の詳細について見ていきます。

<本発明の原理と特徴>
本発明は、次の工程を経て冷菓を製造することが特徴です。

  • モールド内に油脂原料を注入する油脂原料注入工程
  • 前記油脂原料を注入したモールド内に、前記油脂原料が固化する前に冷菓ミックスを注入する冷菓ミックス注入工程
  • 前記油脂原料と冷菓ミックスを固化させる固化工程

ここで、前記冷菓ミックス注入工程では、冷菓ミックスの注入圧力を利用して、前記モールド内の油脂原料をモールド内壁に沿って延伸させることが最大の特徴となります。

このような冷菓の製造方法によれば、モールド内で凍結したアイスクリーム等の冷菓を一旦モールドから取り出し、液状のチョコレートに浸漬するという工程を行うことなく、チョコレートの外殻を有する冷菓を製造することが可能であり、冷菓の製造ラインを簡素化することができます。また、少なくとも、注入と固化という工程で冷菓を製造することができるため、その観点からも製造ラインを簡素化することが可能となります。

また、次のような特徴を付加してもよいとされます。

前記冷菓ミックスの注入時における、前記冷菓ミックスの粘度を、前記油脂原料の粘度より大きくすること。

このように、冷菓ミックスの粘度を、外殻の原料である油脂原料の粘度より大きくすることにより、冷菓ミックスを注入した際に、冷菓ミックスが油脂原料と混ざることを極力抑制し、油脂原料と冷菓ミックスの界面をきれいに作ることができます。その結果、油脂原料からなる外殻をきれいに形成することが可能となります。

さらに、前記モールドは、前記冷菓の収容部を有する容器を兼ねています。

このような形態とすることで、製造ラインにおいて、モールドから冷菓を取り出す工程を経ずに、流通又は保管可能な製品とすることが可能となります。

包装工程においては、前記固化工程後に、前記冷菓を前記容器に収容した状態で包装します。

このような包装工程を行うことで、冷菓を容器(モールド)に収容した状態で流通、保管することができ、製造ラインを簡素化することができます。また、このようにして包装された製品は、消費者が購入して家庭でそのまま保管することができ、好きな時に簡単に容器(モールド)から冷菓を取り出すことができるのです。

では、各製造工程について、詳しく見ていきましょう。

<油脂原料注入工程>
本発明では、図1に示すように、まず、モールド1内に油脂原料2を注入する油脂原料注入工程を行います。

【図1】

本発明において、油脂原料とは、油脂を主要な原料として含む冷菓原料のことをいいます。具体的には、油脂原料全体に対して、油脂を20質量%以上、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上含む原料です。油脂原料に含まれる油脂としては、パーム油やヤシ油等の植物油等、通常冷菓において使用されているものであれば特に制限されません。

油脂原料としては、通常冷菓において使用されるものであって、冷却により固化し外殻を形成し得るものであれば特に制限されません。このような油脂原料として、カカオバターを含むチョコレート、バター加工品、植物油脂加工品等が挙げられます。なお、チョコレートには、ホワイトチョコレート等、カカオパウダーを含有しないものも含まれます。油脂原料は、好ましくは25〜35℃の何れかの範囲において流体です。

また、本発明の油脂原料は、油脂原料全体に対して、ヤシ油を、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上含みます。ヤシ油を上記の範囲で含有することにより、後述する固化工程において、油脂原料からなる外殻が適度に収縮し、モールドからの取り出しがより容易になります。

モールド内へ注入された油脂原料2は、図2に示すような状態となります。このような油脂原料2は、少なくとも後述する冷菓ミックス4(図3参照)を注入する際には、それを延伸させることができるよう流体である必要があります。

【図2】

<冷菓ミックス注入工程>
油脂原料注入工程の後、図3に示すように、前記油脂原料2を含むモールド内に冷菓ミックス4を注入する、冷菓ミックス注入工程を行います。

【図3】

この前記冷菓ミックス注入工程では、図4に示すように冷菓ミックス4の注入圧力を利用して、前記モールド1内の油脂原料2をモールド1の内壁に沿って延伸させます。すなわち、この冷菓ミックス注入工程を行う際、前記モールド1内に注入された油脂原料2は流体の状態であり、冷菓ミックス4の注入圧力によって容易に変形し得る状態となっています。

このような状態の油脂原料2の上から、冷菓ミックス4を注入することで、油脂原料2が冷菓ミックス4によりモールドの周方向に押し退けられ、油脂原料2がモールド1の内壁の側面上方へとせりあがります。

【図4】

冷菓ミックス4は、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスの製造に用いられるものを特に制限なく用いることができます。

ここで、前記冷菓ミックス4の粘度は、前記油脂原料2の粘度より大きくします。冷菓ミックス4の粘度を、外殻21の原料である油脂原料2の粘度より大きくすることにより、冷菓ミックスを注入した際に、油脂原料と冷菓ミックスの界面をきれいに作ることができます。また、モールド底面11側の外殻21に厚みを持たせることができ、流通や保管時の油脂原料2の表面への浸み出しを防ぐことができます。これにより、モールド1の内壁に冷菓5の表面が付着することを防ぎ、冷菓5のモールド1からの取り出しが容易となります。

<固化工程>
モールド1内へ注入された油脂原料2と冷菓ミックス4は、図5に示すような状態で凍結され固化します。前記冷菓ミックス注入工程終了後、固化工程を開始するまでの時間は、好ましくは3分以内、より好ましくは1分以内、さらに好ましくは45秒以内です。

このように、冷菓ミックス注入工程終了から固化工程開始までの時間を短くすることにより、冷菓ミックス注入工程時の油脂原料の外殻の形状を極力維持することができます。凍結は、−20℃以下で行います。このような凍結によって、上述した油脂原料2は、固化することにより、油脂結晶が整列しその体積が小さくなります。それにより、モールド1の内壁表面と油脂原料2からなる外殻21の表面との間に、わずかな隙間が形成されます。このような隙間が形成されることで、固化した冷菓5をモールドから取り出しやすくなります。

【図5】

ここで、モールドの材質としてプラスチックを用いることにより、冷菓5のモールド1からの剥離性が特に良好となり、取り出しやすくなる。

<トッピング工程>
上述した各工程を経て、目的とする製品を得ることができますが、例えば、固化工程の前又は後に、図6に示すように、冷菓にトッピング6を施すトッピング工程を設けても良いでしょう。

トッピングは、特に制限なく用いることができ、例えば、ナッツ類やチョコチップ類、ジャム等が挙げられます。また、上記油脂原料と同様の原料を用いることもできます。トッピング6は、図示しないさらに別の充填機のノズル33を利用して行うこともできます。ノズル33は、食品分野において、固体原料を容器に充填する際等に用いられる通常の形態のものを用いることができます。

トッピング工程を、前記固化工程の前に行った場合には、トッピング工程終了後、図6に示すような状態で速やかに凍結固化されます。

【図6】

<包装工程>
上記のようにして得られた冷菓5は、モールド1から取り出して、必要に応じて容器に収容した後、包装しても良いし、モールド1が冷菓5を収容する容器を兼ねる場合には、この容器ごと冷菓5を包装しても良いでしょう。包装は、プラスチックフィルムや紙を用いたピロー包装のほか、紙箱での包装等任意の形態をとることができます。

モールドが冷菓を収容する容器を兼ねる場合に、容器ごと冷菓を包装した場合には、そのまま流通させることができます。容器から冷菓を取り出すには、例えば、冷菓にピックを刺して持ち上げる要領で行えばよいのです。

本発明の冷菓の製造方法は、ひと口で食することができる程度の大きさの、いわゆるひと口タイプの冷菓の製造に特に好適ですが、このような大きさの冷菓の製造に限定されるわけではなく、モールドの大きさや注入の条件を適宜調節することにより、より大きい冷菓に適用できることは言うまでもありません。

本発明の冷菓の製造方法によれば、モールド内で凍結したアイスクリーム等の冷菓を一旦モールドから取り出し、液状のチョコレート等に浸漬するという工程を行うことなく、チョコレート等からなる外殻を有する冷菓を製造することが可能となります。また、少なくとも、注入と固化という工程で冷菓を製造することができるため、製造ラインを簡素化することが可能となり、コスト低減に大きく寄与します。

また、本発明の冷菓の製造方法では、製造に用いたモールドを、冷菓を収容する容器として利用することで、製造ラインを簡素化できます。そして、このような製品を購入した消費者は、家庭で製品を食する際には、きれいな外観を保持した状態で冷菓を容器(モールド)から簡単に取り出すことができるという利点を得ることができます。

発明の名称

冷菓の製造方法

出願番号

特願2011-222715

公開番号

特開2013-81408

特許番号

特許第5898450号

出願日

平成23年10月7日

公開日

平成25年5月9日

登録日

平成28年3月11日

審査請求日

平成26年9月26日

出願人

森永製菓株式会社

発明者

松田 尚樹 他
国際特許分類

A23G 9/04