「企業に特許を取られると困る…」京都大学が特許取得に動く背景とは?公益を守る特許戦略の真実


「iPS細胞技術の最前線では何が起きているのか?」その答えは、特許取得に込められた深い理由にあります。生命科学の発展において、特許は研究者にとって重要なツールである一方で、時に技術の独占を生む「特許の暴力」として問題になることもあります。京都大学の山中伸弥教授は、公益性を守るため、大学が特許を取得する意義について語りました。

企業の特許独占を防ぐ「防御的特許戦略」

山中教授によれば、iPS細胞は基盤技術として、多様なアプリケーション開発に応用可能です。しかし、営利企業が部分的な特許を取得すると、その技術が自由に使えなくなるリスクがあります。これを防ぐため、京都大学のような公的機関が特許を取得し、ライセンス料を合理的な水準に設定することで、研究者たちが広く技術を活用できる環境を作ることが目指されています。

「特許は本来、企業が技術を独占して利益を得るためのものですが、私たちはまったく逆の考え方です」と山中教授は述べ、特許取得が公益のための手段であると強調しました。

公益を守るための具体的な行動

2017年、京都大学は富士フィルムに対し、細胞の開発・製造に関する特許料の引き下げを要請しました。この行動は、特許による技術独占を防ぎ、iPS細胞技術をより多くの研究機関が活用できるようにするための取り組みの一環です。

羽生善治九段との対談では、山中教授は「大学が特許を持つことが公益に資する」との見解を示しました。企業は株主に利益を求められるため、技術の収益化が優先されますが、大学が特許を持つことで、研究の進展に必要な技術が広く共有されやすくなります。

生命科学における「特許の新たな役割」

山中教授は、生命科学分野の基盤技術は「OSのようなもの」であり、できるだけオープンにすることが研究の発展につながると指摘しました。かつて、マイクロソフトがOSを公開して成功した事例のように、基盤技術を囲い込まない姿勢が生命科学分野でも求められています。

生命科学の未来を見据え、特許を公益のためのツールとして活用する京都大学の取り組みは、特許の本来の意義を問い直す重要な示唆を与えています。技術の独占を防ぎ、研究者たちが自由に技術を使える世界を目指すこの戦略は、今後の科学の進展において重要な役割を果たしていくでしょう。


Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る