Apple、ユーザとの「ファーストコンタクト」に手抜きなし

包装フィルムは「製品と顧客との最初の相互作用」である

Youtubeなどの動作サイトで人気のコンテンツの一つに、新商品の開封動画、いわゆる「アンボックス動画」がありますよね。皆さんも一度は観たことがあるのではないでしょうか。新しい製品が出たときは、インフルエンサーは誰よりも早くその製品を手にしてアンボックス動画を公開し、また、当該製品に興味のあるユーザーは、そういった情報も参考にしつつ、実際の製品購入を検討したりするわけですよね。

このような、製品アンボックスの際、もしかしたら誰も気に留めていないかもしれませんが、外箱は樹脂フィルム(収縮性のシュリンクフィルムなど)で覆われていますよね。そして、そのフィルムを破って、それから箱を開けるのが電化製品でよくある包装形態です。

さて、このフィルムを破るという動作、なにげなく素通りしてしまいそうな行為ですが、Appleは「この薄膜は、製品と顧客との最初の相互作用である The thin film may be the customer’s first interaction with the product.」と考えて、開封時にストレスがかからないよう検討を重ねた、妥協のない外装フィルムを特許化していることはあまり知られていません。

今回のコラムでは、Appleの製品に関する考え方も垣間見える、製品包装フィルムについての特許を紹介したいと思います。

この特許は、特許番号:US11014706B2、登録日:2021.5.25、発明の名称は「Opening Configuration for Shrink-Wrapped Package(収縮包装されたパッケージのための開裂構造」です。

包装フィルムの素材からこだわっていた

上述したように、多くの製品は販売前の流通時における損傷からの保護や、製品の入れ替え(改竄)を防止する目的で、薄い、透明なシュリンクフィルムで包装されることが一般的です。Appleは、製品と顧客との最初の経験は、このフィルムを破ることである、という考えを持っています。

通常よく用いられているフィルムは、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)が使われていますが、この素材は端部が波打って固くなってしまいます。PETよりも柔らかい素材としてはOPP(延伸ポリプロピレン)などがありますが、非常に高価であることが問題でした。また、これらのフィルムを除去するためには、多くの場合、工具を用いたり、ユーザーの爪を使ったりします。なるべく工具を使わなくていいように、ミシン目が設けられている包装フィルムもありますが、ミシン目を破断する破断経路はミシン目からずれてしまうことが多々あり(意図しない、斜めにフィルムが切れていってしまう)、また、ミシン目に沿って切断できたとしても、ブツブツと不快なノイズ音が発生してしまうことが問題でした(発明者としてはもっと「スーッ」と切れてほしいようです)。

製品の外装フィルムを除去するときのユーザーの体験を向上させるために、本発明では、まず使用するフィルムとして、非架橋ポリオレフィン(POF)または配向添加剤を含む架橋されたPOFを用いることとしました。なお、架橋されたPOF自体は従来から包装フィルムとして用いられることはよくあったものですが、今回Appleは、架橋されたPOFを用いる場合にはそこに配向添加剤を含めるようにしたところがポイントです。これらの素材は、一旦引き裂きが開始されると曲がらずにまっすぐ切れていく、という特性を持つものです。以下の図でその様子がよくわかります。

加熱収縮させ、シュリンクフィルムとして包装する

上述した「非架橋POF」または「配向添加剤を含む架橋POF」をフィルム化すると、およそ120℃~150℃の温度下、10~35秒間加熱することで収縮する、熱収縮フィルム(シュリンクフィルム)とすることができます。

このようなシュリンクフィルムとすることで、製品ボックスに密着させてボックスを保護するとともに、ボックスの角部分においてフィルムの高歪領域を形成することができます。これにより、フィルムは常に引っ張られた状態となっていて、一旦引き裂きが始まると、ボックスの長辺方向へ切れていきやすくなります。なお、加熱は主としてホットドライヤで行うことができ、特に架橋なしPOFフィルムにおいては角部を強めに熱することで、歪みを強く形成させてより開裂しやすくすることが可能です。以下の図で斜線で示されている部分が高歪領域です。この領域で引き裂きが始まると、他の領域よりも引き裂きが起こりやすくなっています。

最初の開裂のきっかけとなる切れ込みをつけておく

フィルムをボックスの周囲に加熱シュリンクさせて包装を行った後、ホットナイフによってフィルムに切断部となる切れ込みを形成させておきます。以下の図で参照番号400で示されるのが切れ込みです。

 切断工程を終えると、切断部を覆うように図に示すようなタブ500を貼り付けます。このように切断部をタブで覆うようにセットすると、切れ込みを保護することができ、製品の出荷ができるようになります。

製品購入者はタブをひっぱる

製品を購入したユーザーは、包装フィルムについているタブを引っ張ることでフィルムの切断を開始することになります。フィルムは加熱収縮時に付与された歪みを解消するように、ボックスのエッジに沿って引き裂かれていきます。そして、引き裂き開始部から平行に開裂していきます。シュリンクフィルムの端部が固くなることもなく、また、ミシン目もなく、フィルムが半ば自発的に切れていく状態にあるのです。

Appleの製品に対する姿勢が伺える特許

このような構成とすることで、Apple製品を購入したユーザーは、製品をアンボックスする際に、ストレスを感じることなく、穏やかな状態で(またはワクワクした状態でしょうか)製品にアクセスすることができるのです。冒頭に述べた「この薄膜は、製品と顧客との最初の相互作用である The thin film may be the customer’s first interaction with the product.」という理念に基づいた、Appleの顧客に対する製品提供の姿勢が伺える特許ではないでしょうか。

* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。

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