NASAも認めた保温性能を備える特許衣類

NASAも認めた保温性能を備える特許衣類


米国シンシナティのLUKLA社は、宇宙服にも採用された保温性能に優れた特殊素材を一般的な衣類に採用する特許を米国特許商標庁(USPTO)に出願し、2020年8月4日に特許が認められた(特許番号:US10729194B2)。
この衣類はすでにOROSというブランド名で一般販売がされており、日本でも輸入販売がスタートしている。断熱効果に優れた素材を採用した衣類は、主として寒い時期のインナーとして活躍が期待できそうだ。
この特殊素材は「ソーラーコア」という商標で提供されており、このソーラーコアを衣類の適切な場所に配置することによって、着心地や防寒性を高めているという。

ソーラーコアとはどのような素材なのか?

従来、宇宙服などの高い断熱性が要求される場所には、優れた断熱性で知られるシリカ系エアロゲルが用いられてきた。エアロゲルとは、50ナノメートル未満の細かな穴(細孔)を有するポリマーのことを意味し、ポリマーのゾル-ゲル重合反応によって製造される。

しかし、このようなシリカ系エアロゲルは、すでにアパレル業界で防寒着等に一部採用されてはいるものの、素材の有する欠点として、通気性がほとんどなく、さらに柔軟性が低いことが挙げられた。そして、シリカ系エアロゲルの最大の欠点は、このエアロゲル自体が、細かなダストを放出する傾向があるということだ。このダストは人体に有害ではないが、きわめて疎水性であり、皮膚に接触すると、皮膚の過度な乾燥を引き起こす可能性があるという。このような問題点を踏まえ、NASAでは新たな形のエアロゲルとして、ポリイミドエアロゲルを開発し、このエアロゲルがダストを放出しないことを確かめ、この素材を「ソーラーコア」と命名した。だが、依然としてこのエアロゲルは通気性がなく、衣類として使うには柔軟性が充分とはいえなかった。

そこで、LUKLA社は、これら従来の問題点を解決するため、新素材であるソーラーコア(ポリイミドエアロゲル)を人体の熱特性に応じて衣類に複数配置して、エアロゲルの密度を調整することとした。

新素材ソーラーコアの長所と短所を活かす

すでに述べたとおり、エアロゲル素材は、衣類とするには通気性や柔軟性が充分とはいえないという欠点を持つ。しかし、ポリイミドエアロゲルであるソーラーコアは、ダストを出さないため、従来ダスト防止のために行われてきた、エアロゲルをウレタンなどでコーティングしたり、ファブリックと結合させる前のカプセル化などの追加的な処理が必要なくなり、衣類の全体的な厚さや重さを軽減させることができるという長所がある。また、ソーラーコアは従来のシリカ系エアロゲルと比べて、500倍もの物理的強度を持つ(逆にいえば、強度が高いためにダスト化しにくいといえる)。ソーラーコアの密度は0.08~0.2g/cm3であり、熱耐性は400℃(連続的には約250℃)にも達する。ソーラーコアは高い多孔度及び小さな孔直径を有するので、優れた断熱性と遮音性も特異な長所といえる。

人体の熱分布を科学的に分析して衣類化した

このようなソーラーコアを、衣服の中で人体から熱が逃げやすい部分に適切に間を空けて配置することで、衣類全体として通気性を確保した上で、適切な断熱性を維持することができた。これにより、高い断熱性によって衣類内に熱がこもることもなく、快適な着心地を提供できるようになった。このような断熱材の配置は、人間の体における位置特異的な熱損失の研究によって、科学的根拠に基づき行われた。例えば、身体のコア(体幹)から離れるほど、体温を維持するために断熱材が必要なこと、すなわち、下腕のほうが上腕よりも熱が逃げやすいこと、また、体幹内でも腹部よりも胸部のほうがより保温が必要なことなど、多くの研究に裏打ちされて製品開発が行われたのである。

現在、ソーラーコアを採用したOROSの衣類は、日本でも輸入代理店による販売がスタートし、また、並行輸入品も見られるようになった。これから寒い季節にモコモコとした動きにくいアウターを着ることは、時代遅れの「オールドファッション」となってしまうかもしれない。


Latest Posts 新着記事

トランスGG、創薬支援で前進 エクソンヒト化マウスの特許が成立

株式会社トランスジェニック(以下、トランスGG)は、2025年6月、日本国内において「エクソンヒト化マウス」に関する特許が正式に成立したと発表した。本特許は、ヒト疾患の分子機構解析や創薬における薬効評価、毒性試験など、幅広い分野で活用が期待される次世代モデル動物に関するものであり、今後の創薬研究において大きなインパクトを与えるものとなる。 ■ エクソンヒト化マウスとは エクソンヒト化マウスは、マウ...

紙も繊維も“東レの特許にぶつかる”──業界を動かす知財の力とは?

繊維、紙、パルプ業界は、古くから日本の基幹産業の一つとして発展してきました。近年では、環境配慮型の製品開発や高機能素材の開発が加速し、技術競争の主戦場となっています。そんな中、特許という形で技術を押さえることの重要性がかつてないほど高まっており、「特許牽制力」すなわち他社の出願・権利化を妨げる力が、企業競争力の鍵を握る要素として注目されています。 2024年の業界分析において、特許牽制力で群を抜く...

万博で出会う、未来のヒント──“知財”がひらく可能性

2025年に開催される大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、世界中から最先端の技術、文化、アイデアが集まる祭典です。その中で、ひときわ注目を集めているのが「知的財産(知財)」をテーマにした展示や体験型イベント。普段は馴染みが薄いと感じがちな“知財”の世界を、子どもから大人まで誰もが楽しく学べる機会が広がっています。 知財とは?難しくない、でもとても大事なこと 「知的財産...

ロボットタクシーの現状|自動運転と特許

「ロボットタクシー」の実用化が世界各地で進んでいます。本コラムでは、その現状とメリット・問題点を簡潔にまとめ、特にロボットタクシーを支える特許に焦点を当てて、日本における実用化の可能性を考察してみます。 世界で進むロボットタクシーの実用化 ロボットタクシーの導入は、主に米国と中国で先行しています。 米国 Google系のWaymo(ウェイモ)は、アリゾナ州フェニックスやカリフォルニア州サンフランシ...

6月に出願公開されたAppleの新技術〜顔料/染料レスのカラーマーキング 〜

はじめに 今回のコラムは、2025年6月19日に出願公開された、Appleの特許出願、「Electronic device with a colored marking(カラーマーキングを備えた電子デバイス)」について紹介します。   発明の名称:Electronic device with a colored marking 出願人名:Apple Inc.  公開日:2025年6月19...

東レ特許訴訟で217億円勝訴 用途特許が生んだ知財判例の転機

2025年5月27日、知的財産高等裁判所は、東レの経口そう痒症改善薬「レミッチOD錠」(一般名:ナルフラフィン塩酸塩)をめぐる特許権侵害訴訟で、後発医薬品メーカーである沢井製薬および扶桑薬品工業に合計約217億6,000万円の損害賠償支払いを命じる判決を下しました 。東レ側は用途特許に関して権利を主張し、一審・東京地裁での棄却判決を不服として控訴。知財高裁は、後発品の製造販売が特許侵害に当たるとの...

Pixel 7が“闇スマホ”に!? 特許訴訟で日本販売ストップの衝撃

2025年6月、日本のスマートフォン市場を揺るがす衝撃的なニュースが駆け巡った。Googleの主力スマートフォン「Pixel 7」が、特許侵害を理由に日本国内で販売差し止めとなったのだ。この決定は、日本の特許庁および裁判所による正式な判断に基づくものであり、Googleにとっては大きな痛手であると同時に、日本のユーザーにとっても深刻な影響を及ぼしている。 中でもSNSを中心に広がったのが、「今使っ...

KB国民銀行が仕掛ける“銀行コイン”の衝撃 韓国金融に何が起きているのか

韓国の大手金融機関がデジタル通貨領域への進出を本格化している。2025年6月、韓国の四大商業銀行の一角を占めるKB国民銀行が、ステーブルコインに関連する複数の商標を出願したことが確認された。これにより、韓国国内における民間主導のデジタル通貨開発競争が新たな局面を迎えつつある。カカオバンクやハナ銀行といった他の主要金融機関もすでに関連動向を見せており、業界全体がブロックチェーンとWeb3技術への対応...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る