銀ナノ電子インクを発熱させる、厚さ1mmのUSBヒーター

銀ナノ電子インクを発熱させる、厚さ1mmのUSBヒーター


韓国の温熱機器メーカー、PARU社とZIVON社は、発熱可能な銀ナノインクを印刷した発熱体を薄型温熱治療器とする発明について、共同での特許出願(PCT条約に基づく国際特許出願)を韓国特許庁を受理官庁として行い、2017年10月20日に日本でも特許が認められた(特許番号:6228348号)。

この特許技術を用いて、『INKO Heating Mat HEAL(インコ ヒーティングマット ヒール)』という商品名で厚さ1mmのUSBヒーターを上梓し、すでに日本国内でも販売が開始されている。非常に薄く軽いため、くるくると丸めて収納することができ、外出時でも気軽に持ち運ぶことが可能であり、また、銀ナノインク自体が発熱するという性質上、有害なガスや電磁波などが発生することがなく、極めて安全かつ安心な暖房グッズとなっている。

銀ナノインクを用いることの革新的効果

従来から、薄型かつ軽量の暖房器具を製造するために、いわゆる暖房フィルムと呼ばれる製品が存在しており、その製造工程はスクリーン印刷とエッチング工程を基盤としたものであった。 しかし、これらの工程はどれも複雑で製造コストが高価である。例えば一つの基盤に発熱回路を精密印刷技術で印刷し、その上に絶縁薄膜を印刷して絶縁させ、絶縁薄膜上にさらにセンサー回路を印刷して基盤の厚さを最小化させ、その上にカバー基盤を結合させる、といった、多工程かつ複雑な高コスト工程となっていた。 そこで、このような問題を解決するために、本発明では銀ナノインク発熱体を採用し、(1)2つ以上の銀ナノインク印刷発熱体をグラビア印刷技術を用いて一つの基板上に形成する工程、(2)銀ナノインクが構成された基盤の裏面に断熱材及び外皮を積層する工程、(3)銀ナノインク印刷発熱体の上に遮蔽生地を接着する工程、(4)遮蔽生地上に外皮を積層する工程によって、工程の単純化を図り、製造コストを低減させるとともにヒーター自体の薄さを実現させた。 このようにして得られた薄型ヒーターは、銀ナノインクにが持つ高い電気的電流変化特性により、低温領域では瞬間発熱温度が高く、高温領域では低い電流を維持するようにでき、火災の危険性を低減することができるうえ、低電力で高い熱効率を持つことができるという。

銀ナノインクとはどのようなものか

本発明の最大の特徴は銀ナノインクを発熱体として用いることにあるが、この銀ナノインクとは、具体的にどのようなものであろうか。簡単に説明すると、以下のような工程で製造される銀ナノゲルが、従来のグラビア印刷機で使用可能なインクとして用いられている。 まず、ナノ粒子サイズに粉砕された銀粒子(Ag)を硝酸塩(NO3)とすることにより、硝酸銀(AgNO3)を合成し、この硝酸銀0.3gを蒸留水10mlに溶かして銀イオン水溶液を製造する。この銀イオン水溶液に数平均分子量5万の高分子ピロリドン0.02gを添加し、均一に分散するようにホモジナイザーで撹拌する。ここに10%ヒドラジン水溶液0.5gを添加し、3時間撹拌して暗緑色の溶液を製造する。ここにアセトン20mlを加えて1分間撹拌し、遠心分離機を用いて6000rpmで30分間分離して得た銀沈殿物に0.1gのジエタノール2,2アゾビスを添加して、導電性ペーストである銀ナノゲル0.2gが製造される。 こうして得られた銀ナノゲルに、エチレングリコールを溶媒としてエポキシと銀粒子、硬化剤が添加されて、最終的に銀ナノゲルの含まれた導電性インクである銀ナノインクが完成する。 ただし、この段階では単に電気を通すだけのインクであり、発熱体として使用することはできない。銀ナノインクと併せて、発熱抵抗として高分子、カーボン及び黒鉛を含む導電性PTCカーボンインクを、適宜の配合比で併用することで、温度調整が可能な発熱体として使用することができるようになるのである。

得られたインクをグラビア印刷することで安定生産が可能

銀ナノインクと導電性PTCカーボンインクを、製版ローラーと圧胴ローラー間にフィルムを通す従来のグラビア印刷装置で印刷することにより、Roll to Rollで安定して大量に面状発熱体を製造することができることとなった。面状発熱体のインクによる抵抗は、銀ナノインクと導電性PTCカーボンインクのライン数で調整することができる。また、グラビア印刷機による製版深度でも、深度が深くなるとインクの転移量が多くなって同じパターンでの抵抗が低くなり、深度が浅くなると抵抗が高くなるという調整が容易にできる。こうして、同一面内でも自由に発熱抵抗を変えた設計ができ、得られる製品の自由度が高まる効果が得られた。

このようにして得られた薄型の発熱体を得る技術は、電気マット、電気毛布、電気座布団、温水マット、電気カーペットなど、一体型発熱部を2つ以上の部分に分割して使用することができる温熱マットに広く利用が可能であり、今般発売が開始された『INKO Heating Mat HEAL(インコ ヒーティングマット ヒール)』のみならず、多くの温熱製品に応用が可能な技術といえるだろう。


Latest Posts 新着記事

「AFURI」vs「雨降」—ブランドと地域性が交差する商標攻防戦の結末

はじめに 2025年4月、人気ラーメンチェーン「AFURI」を展開するAFURI株式会社と、日本酒「雨降(あふり)」を展開する吉川醸造株式会社との間で繰り広げられていた商標権を巡る争いに、知的財産高等裁判所が一つの決着をもたらした。AFURI社が主張していた吉川醸造の「雨降」商標に対する無効審判請求が棄却されたことで、両者のブランドの共存可能性が示唆された形だ。 本稿では、この裁判の経緯と背景、そ...

BYD・HUAWEI・XIAOMIが描くEVの未来図:特許情報から探る勝者の条件

中国の電気自動車(BEV)産業は、急速な技術革新と政府支援を背景に、世界市場を席巻しつつある。その最前線に立つのが、BYD(比亜迪)、HUAWEI(華為)、XIAOPENG(小鵬)、NIO(蔚来)、ZEEKR(極氪)、そしてXIAOMI(小米)といった企業群である。彼らの競争力の源泉には、特許戦略に基づいた技術開発と事業戦略がある。本稿では、各社の特許情報と独自の取り組みから、その強みと潮流を読み...

ブリングアウト、複数面談のビッグデータを効率解析する技術の特許取得

人材採用における「面談」の在り方が、今、大きな転換期を迎えている。履歴書や職務経歴書といった定型情報では読み取れない人物像を、企業はより深く、多面的に把握しようとしている。そのため、1回の面談で即決するのではなく、複数の担当者による複数回の面談を通じて候補者を評価するケースが増加している。 こうした「複数面談」時代の課題は、面談記録の管理と評価の一貫性だ。面談官が異なれば、見る視点や質問の切り口、...

Samsungの特許が描く未来のXR体験:Galaxy RingとWatchで広がる操作の可能性

XR(Extended Reality)の進化は、ハードウェアの小型化や表示性能の向上だけでなく、ユーザーインターフェース(UI)の革新にこそ真価が問われている。どれほど高精細な映像を表示できたとしても、その世界を直感的に操作できなければ、ユーザー体験は限定的なものにとどまってしまう。AppleのVision Proが「視線とジェスチャー」を組み合わせた操作体系で話題を集めたのも、この直感性に焦点...

DeepSeekの衝撃、その先にある“中国のAI戦略”とは

2024年、中国発の大規模言語モデル「DeepSeek」が登場し、AI業界に衝撃を与えた。ChatGPT-4と比較しても遜色ない性能を持ちながら、オープンソースとして公開され、誰もが利用・改良できるというその姿勢は、クローズド戦略をとる米国の主要AI企業とはまったく異なる方向性を示していた。 2025年現在、中国発AIモデルの躍進は一過性のものではなかったことが証明されつつある。DeepSeekの...

「錆びない未来建築」大阪・関西万博に採用された沖縄発コンクリート技術とは?

2025年4月、大阪・夢洲において開幕する大阪・関西万博。その会場には、世界中から訪れる来場者の目を引く斬新なパビリオン群が並ぶ。だが、注目すべきはその「デザイン」だけではない。建築資材として使われている“ある特殊なコンクリート”が、業界関係者や専門家の間で静かな話題を呼んでいる。 それが、沖縄県内の建材系企業によって開発された「炭素繊維強化コンクリート(Carbon Fiber Reinforc...

ペロブスカイト・タンデム太陽電池が切り開く世界―中国が示した現実解

2025年春、中国の大手太陽光発電メーカー「トリナ・ソーラー」が発表したニュースが、エネルギー業界を大きく揺るがせた。それは、ペロブスカイト・シリコンタンデム構造を持つ太陽電池モジュールにおいて、実用サイズで世界初となる最大出力808Wを達成したという報道だ。この成果は単なる性能の誇示ではなく、世界中の研究者・企業が長年追い求めてきた「次世代太陽電池の商業化」という夢を現実に近づけるものとして、極...

Google、スマホの“側面&背面タッチ”操作に新提案─片手操作の未来を変える特許技術

2025年3月、Googleが出願した新たな特許が注目を集めている。この特許は、スマートフォンの側面および背面にタッチセンサーを搭載し、ユーザーがタップやスワイプといったジェスチャーで各種操作を行えるというもの。既存のタッチスクリーン中心の操作体系に、新たな入力インターフェースを加えることで、より直感的で負担の少ないUX(ユーザーエクスペリエンス)を実現する狙いがあると見られる。 この特許は、将来...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

大学発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る