任天堂が提供する「amiibo(アミーボ)」は、キャラクター等のフィギアやカードにNFCチップ(近距離無線通信チップ)を搭載し、3DSやWii、Switchなどのゲーム機が有するリーダライタにチップの情報を読み取らせることによって、ゲーム内に当該キャラクターを登場させたり、キャラクターが成長するなど、様々な形でゲームとのつながりを持たせる遊びとして、すでに広く普及している。
amiiboに用いられるようなNFCチップは、パッシブ型RFIDタグと呼ばれる電源不要型の情報記憶チップが採用される。これは自らは電源を持たず、電磁誘導によって情報の書き換えなどの動作をするもので、SuicaやPASMO、おサイフケータイなど、多くの媒体に用いられ、もはや我々の生活になくてはならない技術となっている。
しかし、このようなパッシブ型RFIDタグ(以下、単にICタグという)は、amiiboのフィギア等を見ればわかる通り、プラスチックで形成された台座部分のような、変形し難く、外部からの力によってICタグが変形するおそれがほとんどない場所に埋め込まれている。これは即ち、ICタグが外部からの物理的変形に弱いということを意味している。このような特性から、比較的柔らかい材料で形成されたものにICタグを埋め込むことはこれまで考慮されてこなかった。
そこで、任天堂は、少なくとも外被が比較的柔らかい素材で形成されていても、ICタグの破損を防止できる玩具を提供することを目的とした特許出願を行い、その特許出願公開が2020年5月28日になされた(公開番号:特開2020-78592号)。
曲がってしまうなら、補強すればいい
この発明の目的は、上述のとおりICタグの破損防止である。ぬいぐるみのような外被が柔らかい玩具であっても、ICタグをつけるにはどうしたらよいか。この問題解決として、大変単純なことではあるが、ICタグを折れ曲がり難い硬さを有する補強部材に貼り付け、その折れ曲がりにくくなったICタグを、玩具を平面に置いた場合の当該玩具の設置面の裏側に固定することとした。
ぬいぐるみのような玩具のうち、例えば座っている象のぬいぐるみであれば、象の尻部に上述のように補強されたICタグを設けた場合、玩具のユーザは直感的に当該象の玩具の設置面(尻部)をリーダライタに翳すように操作するから、リーダライタとの間でICタグの情報を送受信することができるというわけだ。
単純な方法でも、従来技術がなければ特許取得できる可能性はある
この発明は非常に単純にみえる。このようなアイデアは誰でも思いつくと感じるかもしれない。なにしろ、本発明は、『ぬいぐるみは柔らかいから、一部に硬いところを設けてそこにICタグを付けよう』という発明なのだから、技術的になんら難しいことはないし、これが特許になるのかと疑問に感じる人も多いだろう。
しかし、特許とは主として「新規性」「進歩性」を満たせば、その他の記載不備などがなければ特許発明として成立し、所定の独占排他権が与えられる。つまり、「コロンブスの卵」の例のように、どんなに簡単な発明であっても「いままでに同様のものはなく」「誰もそうしようとしなかった」ならば、特許性があり、非常に強力な権利である特許権を獲得できる可能性があるのだ。
本発明は、これまでの「硬い玩具」や「硬いカード」に対してICタグを搭載したものに対し、全体として柔らかい玩具であっても、設置面に一部硬いところを設けることによりICタグが付けられることを実際に「発明」として特許出願したところに価値があるといえよう。特許庁の審査官は同様の技術がすでにあるかどうか、また、同様の技術はなくとも、本願発明の態様に至るような「動機づけ」が生じる理由があるかどうかを慎重に審査することになる。
審査中であり、特許権が発生するかは現状不明
本稿執筆現在(2020年10月28日)、この発明の特許出願は審査中であり、一回目の拒絶理由通知が特許庁審査官から通知されたところである。拒絶理由通知とは、特許要件を満たしていないという通知であり、新規性や進歩性が認められない、という理由等が考えられる。この通知を受けた特許出願人は、通常、出願内容を補正するなどして、特許可能となるように再審査を依頼するため、一度拒絶理由通知が通知されたからといって当該出願が特許にならないということにはならない。今後、どのような補正がされ、特許性を争っていくのかが興味深い。
なお、拒絶理由の内容は、登録実用新案第3123364号公報に記載の「クマが座った形状のぬいぐるみ」の尻部にICカードチップが縫い付けられたものを引用し、この考案を基にして本願発明は容易に考えつくことができる、という進歩性違反の通知がされている。
* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。
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