Splinkが広げる“ブレインヘルスケア”という概念~知財戦略と経営戦略をリンクさせた企業運営の在り方


脳科学の領域で医療AIソリューションを提供するテック・カンパニー。株式会社plink(本社:東京都千代田区 代表:青山裕紀)は、認知症をはじめとする中枢神経領域の疾患に対して、予防・診断・治療・ケアにおける横断的なソリューション開発を行っている。認知症とは、脳の認知機能が著しく低下している状態を指し、この変化は突然起こるわけではない。認知症といわれる状態に到達するまで少しずつ認知機能の低下は進み、あるポイントまで来て初めて認知症と診断される。

そこで、同社のソリューションでは、認知症と診断される前に認知機能の低下を検知し、進行を抑制することを目指すと同時に、認知症になってしまった際には症状とうまく付き合っていく仕組みづくりをミッションとしている。現代では第5の生活習慣病と呼ばれる認知症だが、同社は自社のサービスでこの病気と共生可能な社会を創造していくことができればと取り組んでいる。

現在展開しているソリューションの一つが「Brain Life Imaging®」だ。これは脳ドックのMRI検査のデータから記憶の中枢をつかさどる海馬の体積を算出し、脳の健康状態を発症前から「見える化」するソリューション。これによって患者さんに脳の状態と認知機能に向き合っていただき、個々人による認知機能のセルフケアに役立ててもらうことを目的としている。

同社が関わっている中枢神経領域においてAI技術の活用は必要不可欠で、今後さらに重要度が増してくるのは確実とされている。高齢化が進み、さらに患者数が増えるであろうこの分野では、医師不足は深刻な問題となっている。そのためAIによる診断支援を推し進めることは避けて通れない。

さらに、AIによる診断支援には技術的な限界がある。この要因となっているのが、複数の病理が絡み合って症状を発現させている「混合病理」という状態だ。中枢神経領域においてこの混合病理の発生はとても多く、診断そのものを難しくしており、AIによる診断支援にも多くの課題がある。

この問題を解決するために、同社ではデータの収集と専門医の臨床的な知見をAIに学習させるための技術開発を行っている。中枢神経領域におけるAI開発は、単にデータ数が多いことが重要ではなく、専門的な知見と共にAIの精度向上を行っていくことが重要であり、そのために国内で多数のアカデミアと共同研究を実施しながら技術を蓄積している。

また、同社は創業間もなく「ブレインヘルスケア」の商標を権利化している。言葉の意味として、その名の通り脳の分野におけるヘルスケアを指し示し、これまで医師の経験と知識によって線引きがなされていた中枢神経領域の疾患に対して、AIなどの新しい技術を用いた質の高い医療や健康管理が普及することを目指している。そのような概念を「ブレインヘルスケア」と定義付け、この言葉が広く使われるようになることで、これからの高齢化社会の新しいライフスタイルの礎を築けると考えている。

代表の青山氏自身の知財戦略への考え方は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルで働いている時に身に付けている。アメリカにおける知財の活用は活発であり、収益化にとどまらず、さまざまな目的での利活用を想定した戦略がとられ、印象的なのは、知財を重要な経営資源と考え、その流通をさせるという意図が存在すること。それに対して日本の知財戦略は特許の取得に偏っているように感じる。結果として起こるのは技術の独占で、これが業界全体の衰退の引き金となり、世界的な競争力で負けてしまうという状況に陥っているのではないだろうかと語る。

同社では知財を重要な経営資源の一つとして位置付け、「その流通スピードを上げるためにはどうしたらいいか」という問いに答えていくために、弁理士資格を持った者を組織の中で重要なポジションに配置し、知財戦略と経営戦略を連動させた運営方針をとっている。また、「ブレインヘルスケア」という概念の“民主化”を行うことも知財戦略の延長線上にあると考えている。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.jpo.go.jp/news/koho/kohoshi/vol55/02_page1.html


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