特許庁、初めての特許権を取得 特許文献検索システムで


特許庁は、独自に開発した特許文献検索システムおよび管理システムに関する特許権を取得した(特許第6691280号)。特許庁が自ら特許権を取得したのはこれが初めてのことだ。

特許権者は「特許庁長官」となっており、現長官の個人名(松永明氏)ではないことから、特許庁組織としての永続的な権利取得を目指したものと推測される。なお、発明者としては、開発を行った7名の特許庁職員の個人名が列記されている。

ところで、出願にあたっては、民間の弁理士が代理人として専任されている。非常に複雑な出願書類等の作成や出願手続きにあたり、専門家である弁理士に依頼をしたことは推察できるが、特許庁がどのような経緯で弁理士を選定したのかは興味深いところだ。

発明の名称は「管理システム及び管理方法」となっており、発明の目的は「特許文献に関する情報を効率良く管理すること」とされている。特許情報のデータ形式の違いを考慮して、世界中の特許情報を効率よく管理するもののようだ。

膨大な特許データベース管理の問題点

従来から、特許庁では、特許出願の審査において先行技術を調査し、出願された発明の新規性や進歩性(発明が真に新しいものか否か、一定の非自明性があるか否か)を審査するために、過去に出願された特許文献の検索用データベースが利用されている。この検索用データベースには、世界各国で出願された特許文献に関する情報が記憶されており、管理システムにより、最新の特許文献に関する情報が適宜登録されるように更新されている。

特許情報の管理システムとして、一般的に用いられているものとしては、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat:登録商標)、外国特許情報サービス(FOPISER)、Espacenet(登録商標)、PATENTSCOPE(登録商標)等が挙げられる。

J-PlatPatは、日本、米国、欧州特許庁(EPO)、イギリス、ドイツ、フランス、スイス、世界知的所有権機関(WIPO)、カナダ、韓国、中国等の特許・実用新案の各種公報及びCSDB(Computer Software Data Base)の各種文献を記憶するデータベースを有しており、FOPISERは、ロシア、台湾、オーストラリア、シンガポール、ベトナム、タイ等の特許・実用新案の各種公報を記憶するデータベースを有している。

Espacenetは、欧州特許庁が提供する100か国以上の特許公報等を記憶するデータベースを有しており、PATENTSCOPEは、公開済みのPCT国際出願343万件を含む、7196万件の特許文献を記憶するデータベースを有しており、世界中の特許検索において利用されている。

しかしながら、世界各国において、常時膨大な量の特許が出願され続けており、さらには、国によって言語が異なることはもちろん、特許分類(発明に関する技術区分ごとに、特許文献に付与するインデックスのようなもの)の付与ルールが異なるため、特許管理システムは、データベースの更新に膨大な時間を要することが大きな問題となっていた。

AIを活用して世界中の特許文献を効率的に管理する

特許庁では、上述した課題に対応するため、各国で出願された特許文献が有する、形式情報、内容情報、書誌情報を、AI技術による機械学習処理を用いて抜粋・分類し、共通のデータ形式に変換すること、さらに各国特許庁の使用言語に応じた翻訳システム(例えば統計的機械翻訳(SMT)又はニューラル機械翻訳(NMT)など)を駆使し、国が異なることに起因して、言語および特許分類が異なる特許文献であっても、希望する言語や特許分類を用いて一括して特許文献を検索することができ、効率的に特許情報を管理できるシステム「アドパス(ADPAS)」を開発し、特許権を取得した。

アドパスでは、データベースの更新処理が、わずか7日間(1週間)の周期で実行される。形式情報の取得処理、書誌情報の取得処理及び検索情報の生成処理が1日目に同時に開始され、形式情報の取得処理及び書誌情報の取得処理は3日目に完了するが、検索情報の生成処理は4日目まで完了しない。

形式情報及び書誌情報を用いた第1統合情報の生成処理が3日目に開始され、4日目に完了する。そして、第1統合情報及び検索情報を用いた第2統合情報の生成処理が5日目に開始され、6日目に完了する。最後に、第2統合情報及び内容情報を用いた第3統合情報の生成処理が6日目に開始され、7日目に完了する。

諸外国の特許庁でもアドパスの活用が期待される

今後、アドパスを用いて、特許庁が自ら開発した特許文献検索システムを安定的に自己実施できるようにし、国内ユーザーのみならず、諸外国の特許庁などに広く同技術を活用してもらうことを目的としているとのことだ。



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