HAPSの未来はどうなるのか ソフトバンクがLoonの特許約200件取得


ソフトバンクは2021年9月30日、Googleの親会社Alphabet傘下のLoonから成層圏通信プラットフォーム(HAPS)に関する特許約200件を取得したと発表している。

今、Beyond5G/6Gに向けて、空からのネットワーク「NTN(Non Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)」への期待が高まっている。地上から10~30㎞の成層圏からの通信は、衛星などと比べると格段に地上に近く、1機の基地局でカバーできる範囲こそ狭いが地上と遜色ないネットワークが利用できる。

HAPSにはさまざまなプレイヤーが注目しており、ソフトバンクは子会社のHAPSモバイルとともに、HAPSを利用した商用インターネットサービスを2027年に提供開始する計画だ。

Loonは気球を成層圏に打ち上げ、インターネット接続を提供する事業を展開していたが2021年1月、事業継続を断念すると発表。同社はGoogleの次世代技術の開発プロジェクト「Google X」(現在の名称は「X」)から生まれた企業で、インフラの整備されていない地域や国にあまねくインターネット接続を提供する構想を掲げていた。

HAPS市場を開拓してきた先駆者であるLoonが撤退する一方、今回の特許取得でHAPSモバイルはHAPSについて最大規模の特許数を持つ企業になった。今後のHAPS市場はどうなるのか。先駆者であるLoonの歩みを振り返りながら予想したいと、businessnetwork.jpが22年3月2日伝えている。

世界人口約77億人のうち、インターネットを利用できているのは米HootSuiteによると約43億人。途上国を中心に多くの人口がいまだにネットワークを利用できていない。地上に通信インフラを張り巡らせるのはコストがかかり、点在する集落などにサービスを提供するのは経済的に困難だ。

プロジェクトLoonはこうした課題を、上空から解決するために始まった。Loonという名前は気球のBalloonと、馬鹿げた、狂ったという意味を持つLooneyという単語を掛け合わせたもので、気球からインターネットを提供するというアイデアはまさに馬鹿げたものに聞こえたのだろう。

2013年にニュージランドで実証実験を開始し、2017年にはハリケーンで被災したプエルトリコや洪水で被災したペルーにおいてテニスコートサイズの気球を打ち上げ、都市部にインターネット接続を提供した。

そのLoonとHAPSモバイルの関係が深まったのは2019年のことだ。HAPSモバイルがLoonに1億2500万米ドルを出資。各種航空機やITU準拠の周波数帯に適用可能なペイロード(HAPSに搭載する通信機器)の共同開発などに取り組んだ。「例えば、成層圏での実用に耐えられるペイロードの開発はLoonのメカニカルエンジニアがリードした。

一方、ペイロードを用いたネットワークのエリア設計などは我々のノウハウが活きた」とソフトバンク テクノロジーユニット 先端技術開発本部 本部長 兼 HAPSモバイル 取締役 兼 HAPSアライアンス 理事 湧川隆次氏は語る。

この共同開発の成果の1つが、太陽光パネルを搭載した成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「Sunglider(サングライダー)」だ。2020年9月21日(米国山岳部時間)に実施したサングライダー5回目のテストフライトでは、4G/LTEの電波を利用して、米国にいるLoonのメンバーと日本にいるHAPSモバイルのメンバーが一般的なスマートフォン同士によるビデオ通話に成功した(図表)。

構成としては地上のゲートウェイ(基地局)とサングライダー間のフィーダーリンクには70~80GHz帯の周波数を用い、サングライダーからスマートフォンをつなぐサービスリンクには700MHz帯(LTE Band 28)を用いた。

「成層圏という市場をまず作って、実際に成層圏からの通信が活用される時代になってから競争しようという思いが共有されていた。そのため、パートナーとしてかなり密接に連携していた」と湧川氏は振り返る。一方、Loonは2020年、ケニアで商用インターネットサービスの提供を開始した。HAPS市場がいよいよ立ち上がろうという中での撤退だった。

撤退の理由については、公式ブログで事業性の問題だと説明されている。インドなどの途上国で急速にブロードバンド環境が普及したことや、各国ごとに周波数などを調整する事業モデルの困難さが背景にあるようだ。また、Loonのプロジェクトが開始した当時、Googleのトップだった共同創業者のラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏の辞任による社内の方向転換もあったのかもしれない。

HAPSの未来、中でも国内のHAPS市場はまだ立ち上がっていない。「ビジネスモデルもはっきり見えておらず、想像もしていなかった仕組みが主流になるかもしれない。そうしたときでも、多くの知財を持っているため、柔軟な戦略がとれる。場合によっては市場拡大のため、特許を公開するという戦略もとれる」と湧川氏は話す。Loonが撤退した後も、彼らの残した知恵や努力は市場の中できっと活用されていくことだろう。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://businessnetwork.jp/tabid/65/artid/8964/page/2/Default.aspx


Latest Posts 新着記事

村田製作所、“特許力”で世界を制す 年々強化される知財戦略の全貌

電子部品業界において、グローバルで確固たる地位を築く日本企業・村田製作所。同社はスマートフォン、自動車、通信インフラなど、あらゆる先端分野で不可欠な部品を供給し続けているが、その競争優位性の核心には、他社を圧倒する「特許力」がある。 村田製作所の特許出願数は、国内外で年々増加しており、特許庁が公表する「特許資産規模ランキング」においても常に上位を占める。2020年代以降、その特許戦略はさらに洗練さ...

トヨタ・中国勢が躍進 2024年特許登録トップ10に見る技術覇権の行方

2024年における日本企業の特許登録件数ランキングが、特許庁公表の「特許行政年次報告書2025年版」により明らかになりました。その結果、国内企業上位10社には、自動車関連企業が3社名を連ね、さらに中国企業の技術力と知財戦略の成長が際立つ結果となりました。本稿では、トップ10企業の顔ぶれを振り返るとともに、自動車関連企業の動向、中国勢の勢い、そして今後の展望について解説します。 ■ ランキング概要:...

メルク、英ベローナを100億ドルで買収 キイトルーダ後を見据えCOPD新薬を強化

米製薬大手メルク(Merck & Co.、日本ではMSDとしても知られる)は、英国バイオ医薬品企業ベローナ・ファーマ(Verona Pharma)を約100億ドル(1兆4,700億円)で買収することで基本合意に至りました。買収金額は現地株式の米国預託株式(ADS)1株あたり107ドルで、これは直近の株価に対して約23%のプレミアムを上乗せした水準です。 背景:キイトルーダの特許切れと「ペイ...

知財覇権争い激化 中国企業が日本の次世代技術を標的に

中国企業、日本で次世代技術の知財攻勢強化 特許登録が急増 日本における次世代技術分野で、中国企業による特許登録件数が急増している。AI(人工知能)、量子技術、電気自動車(EV)、通信(6G)といった先端分野での出願が目立ち、知的財産権を活用したグローバル戦略の一環とみられる。中国勢の台頭により、日本国内企業の技術優位性や将来的な事業展開に影響を及ぼす可能性があるとして、専門家や政策当局も注視してい...

「aiwa pen」誕生!端末を選ばない次世代タッチペン登場

株式会社アイワ(aiwa)は、ワコム株式会社が開発した先進的なAES(Active Electrostatic)方式の特許技術を搭載した新製品「aiwa pen(アイワペン)」を、2025年7月3日より全国の家電量販店およびオンラインショップにて販売開始したと発表しました。マルチプロトコル対応によって、Windows・Android・Chromebookなど様々な端末での利用を可能にし、使う端末を...

完全養殖ウナギ、商用化へ前進 水研機構とヤンマーが量産技術を特許化

絶滅危惧種に指定されているニホンウナギの持続的な利用に向けた大きな一歩となる「完全養殖」技術の量産化が、いよいよ現実味を帯びてきた。国の研究機関である水産研究・教育機構(以下、水研機構)と、産業機械メーカーのヤンマーホールディングス(以下、ヤンマー)が共同で開発を進めてきたウナギの完全養殖技術について、両者が関連する特許を取得したことが明らかになった。 これにより、これまで不可能とされていたウナギ...

ミライズ英会話、AI活用の語学教材生成技術で特許取得 EdTech革新が加速

英会話スクール「ミライズ英会話」(運営:株式会社ミライズ、東京都渋谷区)は、AIを活用した「完全パーソナライズ語学教材自動生成技術」に関する特許を、2025年5月に日本国内で正式に取得したと発表した。この技術は、学習者一人ひとりの語学レベルや目的、学習傾向に応じて最適な学習教材をリアルタイムで生成・更新するという、従来にない革新的な仕組みである。 本技術の特許取得により、語学教育における個別最適化...

トランスGG、創薬支援で前進 エクソンヒト化マウスの特許が成立

株式会社トランスジェニック(以下、トランスGG)は、2025年6月、日本国内において「エクソンヒト化マウス」に関する特許が正式に成立したと発表した。本特許は、ヒト疾患の分子機構解析や創薬における薬効評価、毒性試験など、幅広い分野で活用が期待される次世代モデル動物に関するものであり、今後の創薬研究において大きなインパクトを与えるものとなる。 ■ エクソンヒト化マウスとは エクソンヒト化マウスは、マウ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る