「クールジャパン」は日本の魅力を発信するブランド戦略だが なぜ国の主導だと失敗するのか


「クールジャパン」は日本の文化やポップカルチャーなど、外国人がクールととらえる日本の魅力を発信し、日本の経済成長につなげるブランド戦略だ。アベノミクスの柱、成長戦略のひとつだったが、明らかに失敗していると言われている。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制))やめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)からの解説をYAHOO!JAPANが22年2月11日伝えている。

平成19年(2007)、第一次安倍内閣は「感性価値創造イニシアティブ」を策定し、産業における日本特有の価値観を「作り手の感性やこだわりに由来し、生活者の感性に訴えかけるもの」と位置付けて、日本ブランドの価値を高めようという政策を始める。

これを背景に、平成22年(2010)、民主党政権が経済産業省に「クールジャパン海外戦略室」を設置、これを拡大する形で本格的に始動したのは平成24年(2012)のことです。内閣府の知的財産戦略推進事務局には、クールジャパン戦略の要点が次のように掲げられている。

◎クールジャパンとは、世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる(その可能性のあるものを含む)日本の「魅力」。

◎「食」、「アニメ」、「ポップカルチャー」などに限らず、世界の関心の変化を反映して無限に拡大していく可能性を秘め、様々な分野が対象となり得る。

◎世界の「共感」を得ることを通じ、日本のブランド力を高めるとともに、日本への愛情を有する外国人(日本ファン)を増やすことで、日本のソフトパワーを強化する。

簡単にいうと、クールジャパンは「外国人がクールととらえる日本の魅力」であり、クールジャパン戦略は「クールジャパンの発信、海外展開、インバウンド振興によって世界の成長を取り込み、日本の経済成長を実現する」ものだ。

少し考えればすぐに分かることですが、この取組みは実際には役所の人がやって来て「我が国の文化は、これが面白いのです」と伝えれば、それを面白いと思わねばならない、という話だ。

政府が「これが我が国の素晴らしい文化だ」と認定して展開すれば、これまで知らなかった人に知ってもらうことはできるかも知れない。しかし、それは人々の中から自発的に出てきた文化が世界に向けて広がることとは別の話だ。

政府が音頭をとって事業を展開したクールジャパンがどのような経過をたどっているのか、政治・外交ジャーナリストの原野城治氏が次のように問題点を指摘している。

<日本の文化を海外に紹介し、マンガ・アニメ、食、ファッションなどの輸出を支援すると官民ファンドの産業革新機構が投資した事業が成果ゼロのまま次々に打ち切られ、その株式が民間企業に極めて廉価で売却されている。

中には20億円以上の「全損」案件もあり、税金の無駄遣いがはなはだしい。特に、2013年11月に鳴り物入りで設立された「海外需要開拓支援機構」(クールジャパン機構、東京都港区)のいくつもの投資事業案件が苦戦続きとなっている。(中略)ブランド戦略である「クールジャパン」の戦略的コンセプトはイメージ先行で、コアが判然としない>

ところが、どうもお金になるらしいと目を付けて、政府が海外展開するための予算を付けたら、大失敗したという話。

投資主体となった産業革新機構は、平成21年(2009)に設立された投資ファンドで、政府出資が9割、残りは民間(企業26社・2個人)が少し出資している。政府保証で借り入れが可能なので、最大で2兆円を超える投資能力があるとされている。

そこに色々な人たちが群がってみんなでお金を使うという、最悪の仕組みです。今回は漫画やアニメなどのポップカルチャーが食い物にされたというのが、クールジャパンの顛末だ。

政府がわざわざこんなことをしなくても、令和2年(2020)のアニメ産業は2兆5000億円もの市場規模に成長。政府が育ててきたのではなく、見た人が「面白い」と思うからだ。政府が口を出さなくても、文化は勝手に広がっていくもの。税金を使って予算を付けなくても、面白いものは市場で勝手に売れる。そして、何がこれから人気となって売れるのかは、誰も正確には予測できない。

クールジャパンの失敗は、単に外国人受けしているからという理由でアニメやゲーム、ファッションなど、市場で評価されているものを何となく並べて、「ほら、日本はすごい国でしょう」と言っているに過ぎないこと、そういう無意味なことに税金を注ぎ込んでいることにある。

単に市場でウケているから海外に持っていきましょう、程度のことなら、民間でも十分できることなので政府が行う必要性はない。すでに輸出されているコンテンツ、しかも市場で売れているものに対して「政府が認めてあげる」など、単なる便乗。せっかく面白かったものも、陳腐にしてしまいかねない。

すでに市場で成功しているものに対して、政府が優劣を付けるような愚かな政策を行わない限り、新しい芽はどんどん出てくる。クールジャパンは、政府が手出し口出ししないことで、もっとクールになる。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://news.yahoo.co.jp/articles/9602807025aeccac2b4733b8d1ee1d8027aaeceb?page=1
https://gentosha-go.com/articles/-/40789?page=2&per_page=1


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