「八丁味噌」発祥地の生産者がブランド名を使えない? 地理的表示保護制度めぐり訴訟に

農水省が欧州に日本のブランド農産品を輸出するために推進している地理的表示(GI)保護制度。愛知県の八丁味噌も登録されたが、発祥の地・岡崎市八帖町(旧八丁村)の味噌会社2社(岡崎2社=株式会社まるや八丁味噌、合資会社八丁味噌)がGI制度に参加せず、市外業者43社が参加する愛知県味噌溜醤油工業協同組合(県組合)が登録団体となるという、なんとも奇妙なドーナツ現象が起きている。このままいくと、元祖の八丁味噌が店頭から消えるかもしれない……、と日刊ゲンダイDIGITALが22年2月12日伝えている。

八丁味噌は愛知県の豆味噌の一種。豆と塩と微生物が作り出す赤褐色の豆味噌はコクがある。八丁味噌の名は、徳川家康が生まれた岡崎城から八丁(870メートル)の距離にあった八丁村(現・岡崎市八帖町)という地名に由来するとされる。

岡崎市には八丁味噌協同組合があり、株式会社まるや八丁味噌(浅井信太郎社長)と合資会社八丁味噌(早川久右衛門社長、商号カクキュー)があり、岡崎2社と呼ばれる。2つの味噌蔵の生産方法は豆麹、塩、水と地域の微生物だけを用い、杉の木桶で2夏2冬寝かす。江戸時代からこだわってきた製法だ。

しかし現在、農水省が八丁味噌の生産者団体として認めているのは岡崎2社ではなく、「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」(県組合、43社)だ。その結果、岡崎2社は輸出先だったEU(欧州連合)加盟国で八丁味噌を使えなくなる見込みで、国内では自社の八丁味噌に地理的表示(GI)保護制度のGIマークをつけることもできなくなった。さらに2026年以後は、八丁味噌というブランド(名称)を使用する場合は、「GI認定を受けていない」という表示をつけないと販売できなくなる奇妙な事態に遭遇している。

原因はGI制度の運用にある。GI制度は農水省のホームページによると<伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度>だ。登録内容を満たす産品はGIマークの使用が可能になり、不正使用は行政が取り締まる。地域の生産者は登録団体に加入すればGIの使用が可能になる。

現在114号(2月3日現在)まである登録産品には夕張メロン(夕張市)、前沢牛(岩手県奥州市前沢区)、市田柿(旧市田村=長野県下伊那郡高森町)など有名なブランドが見つかる。登録49号の八丁味噌の認定産地は八帖町ではなく愛知県。地域的に広い。認証された生産方法も、木桶にこだわらずひと夏以上熟成させれば品質基準を満たす。この結果、愛知県では名古屋市、豊田市、半田市のメーカーも「八丁味噌」の名称で商品を発売している。

GI制度を所管する農水省輸出・国際局知財課地理的表示保護制度担当に、認定地域が愛知県全体とは広すぎないのかと質問すると、「地域を狭くするほど地域色は強くなると思うが、広がりがなくなる場合もある。八丁味噌を長年造ってきている(岡崎市以外の)業者が入れないことにもなる。岡崎2社が発祥の地であることは間違いない。席は空けている。ぜひ県組合と一緒にGI制度に入っていただきたい」と説明した。

しかし岡崎2社のひとつ、まるや八丁味噌は昨年9月、農水省に対し県組合への認定を取り消すよう裁判を起こした。同社の浅井信太郎社長は欧州に通い、40年以上も前から八丁味噌という日本文化をフランスなどに輸出してきた人物。なぜ訴訟を起こしたのか。

GIを取るために訴訟を起こしたわけではありません。そう思われたら心外です。信頼の欠けたGIを取るつもりはありません。農水省の運用に信頼が持てないので元に戻してほしいと言っているんです。これまでのように県組合が勝手に八丁味噌を名乗るのは消費者が混乱するので困る。このままではGI認証がある県組合の八丁味噌が正規で、認証のないわれわれが非正規になる。そうなればいずれ岡崎2社は滅ぶ」

岡崎2社は300年以上、土地を動かず同じ製法で味噌を造り続けてきた。100年以上同じ木桶を使い、6トンの味噌の上に3トンの重しを使う。味噌蔵にいる菌たちの体系を守るために洗剤は使わず、土壁も落ちた土を足して塗り直す伝統製法。

「私はきわめてGIにそぐうものを造っているし、やりたかったことだし、欧州では多くの人が認めてくれた」と話す。浅井社長は、エコサート(有機認証)など多数の海外認証も取得している。
一方、農水省が認めた八丁味噌のGI基準は熟成は3カ月、加熱処理も認める「ミニマム」基準。ステンレス桶やアルコール使用もある。早く大量生産できる。
県組合の担当者は「岡崎2社とは平行線」と次のように話す。

「発祥は八丁村でしょうが、昭和2年から八丁味噌を名乗っている県組合の業者はいます。スタートは1社かもしれないが、どんどん広がって地区全体の名前がついたものなどいくらでもあります。2社が八丁味噌を独占するのはおかしい。蔵つきの菌といっても、岡崎2社でも菌は違う。県組合と岡崎2社は違うでしょうが、岡崎2社同士でも味覚や成分分析の結果は違う。麹を作るのも自動だし、木桶に入れて石を積むのが伝統製法か、くらいでしょう。味噌業界は斜陽業界。味噌が40万トン、豆味噌2万トン、八丁味噌は2000トンほどです。一緒になってやりましょうというのがわれわれの思いです」

ブランド産品を主張する団体が2つあるのに、両者の合意形成がないまま片方(県組合)の申請を農水省は拙速に認めた。また、県組合の申請名が「愛知八丁味噌」だったのに、GI登録されたのは「八丁味噌」だったという不可解な経緯もあるという。裁判所は日本文化をいかに守るのか。注目だ。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/301074

* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。

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