自社のマークと類似しているとするアップルの請求も 微妙な無効判決で請求認められず

商標の審決をコメント付けてフィードしてくれるツイッターアカウント「商標審決」による次のような審決についてのコメントをYAHOOニュースが22年1月28日伝えている。(なお審決日は1月13日だ)。

判決によると問題となった登録商標は5770529号、指定商品は9類のスマホケース等、権利者は群馬県にある株式会社シェリーという企業で、同社は、スマホケースやノベルティグッズなどのプラスチック成形品の製造会社だ。1961年創業で特許も数多く取得している真っ当な会社。

この無効審判は、この登録商標が自社の有名なマークと類似するとして、米アップルが請求したもので、確かに、向きは違うものの微妙に似ているようにも見える。
実は、これは偶然の一致ではなく、シェリー社がiPhone用のスマホケースを作る際に、iPhone本体の背面のアップルのマークが外部に露出するように、ケースの一部をくり抜いたことにより生じた形状で、アップルの林檎マークそのまんまの形でくり抜くとアップルの商標権を侵害してしまう可能性があることから、あえて、「アップルのマークの形状と非類似になるように、スマートフォンカバーを大きめにくり抜き」、「アップルのマークを模倣したものではなく、逆にそのデザイン性を尊重し、かつアップルの権利を侵害しないよう、非類似になるようにデザインしたもの」です(と答弁書でシェリー社自身がカミングアウトしています)。

そして、アップルからの権利行使を避けるため、及び、同業他社が類似のデザインを採用しないようにするために商標登録をしたものと思われる。

なかなか興味深い経緯だが、特許庁の審判官は、この辺の事情にはまったく触れずに、両商標は外観が明らかに異なるので非類似であるとし、アップルの主張(4条1項11号(類似先登録)、4条1項15号(他人の業務との混同)、4条1項19号(周知商標を不正目的使用))をすべて退けている。

既存の登録商標を露出させるために生まれた商標というのは、あまりないパターンと思うのでちょっとコメントしにくいが、おそらくアップルは審決取消訴訟を提起することになるだろう。また、不正競争防止法が商標権をオーバーライドすることもあるので、商標登録ではなく、商標の使用についても不正競争防止法による何らかのアクションを取る可能性もある。

また、無効審判に加えて、米アップルを請求人として不使用取消審判も請求されているので、そちらでも動きがあるかもしれない(たとえば、使用実績がスマホケースの「くり抜き穴」だけであれば、商標的使用と認められない可能性があるだろう)。

さらに、もう1点興味深い論点があるので加えておくと、上記の通り、このシェリー社の商標登録の目的は、アップルのマークを露出させるためのくりぬき部の形状なわけだが、アップルは、これは商標的使用ではない(自他商品識別のためではない)ということで、「己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」ではないので3条1項柱書違反であるとの追加的主張を行っている。

これに対して審判官は無効審判の請求時に主張していなかった話を後付けで持ち出しても受け付けないとし(ちなみに職権で審理することは法的には可能だが審判官の裁量となる)。シェリー社の登録は除斥期間(登録から5年間)を過ぎているため、アップルはこれを理由にした新たな無効審判を請求することはできない(そもそも、今回の無効審判が登録から5年目という除斥期間経過前ぎりぎりで請求されている)。

ただ、別途走っている不使用取消の方で、「くりぬき穴としての使用は商標的使用ではない」との判断がされれば、どちらにしてもシェリー社の登録は取消になるので、実はあまり大きな問題ではないと思われる。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20220128-00279444

* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。

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