あのPCRを発明してノーベル賞をとったキャリー・マリスは 天才科学者でしかもサーファーだった


『女性が好き、酒が好き、パーティーが好き、そしてドラッグも好き?』サーファー、キャリー・マリスは天才科学者か?それとも?——ここ数年パンデミックによって『PCR』という3文字を耳にしない日はない。もちろんPCRとは新型コロナウィルスの検査などで用いられる手法のことだ。もしこの検査が発明されていなかったら人類は今よりもずっと深刻な事態を招いていたかもしれない。だからPCRは人類の救世主と言っても過言ではない。

そのPCRを発明したのが、カリフォルニアのサーファーだってことを知っているだろうか?唐突に言われても誰も信じないかもしれない。でも嘘ではなく本当の話。そのサーファー/科学者はキャリー・マリスについて国内外サーフィン関連ニュースやサーフカルチャーを発信するTHE SURF NEWSが22年1月1日伝えている。

サーフィンが大好きなキャリー・マリスは、サンディゴのラホヤに住んでいた(2019年没)。ラホヤというとあのサーフポイント、ブラックスの近くだ。マリスはガールフレンドとのデート中に、PCRのアイデアを思いついたのだという。
DNAの超微細な断片をPCR法によって増幅することによって、DNAの配列を解読できるようにする。と言ってもなにがなんだか筆者にはさっぱり分からないけどね。とにかくPCRは、ウィルスだけでなくどんなDNAでも解読してしまうらしい、この発明でマリスは1993年にノーベル化学賞を受賞した。

サーファーがノーベル賞を受賞した、ということでアメリカでは話題になり一般メディアで大々的に取り上げられたが、サーフ系雑誌ではそれほど取り上げられなかったようだ。「サーフィンが上手くなる発明」でもすれば別だろうけど、ノーベル賞ってサーファーにとってはサーフワックスのラベルくらいの重みしかない、と言ったら怒られるかな。(そんなことないか)

おそらく日本のサーフィン界でもマリスはほとんど無名に近い。彼の自叙伝『マリス博士の奇想天外な人生』が日本語で出版されているが、読む人はサーファーというよりも、科学に興味がある一般の人がほとんどかもしれない。

さて、サーファーと一口で言ってもさまざまだ。ビッグウェーブに挑む猛者から、日々の気分転換として波と遊ぶだけの人もいる。おそらくこのマリス氏はその後者の部類に入るのだろうと筆者は思っていた。しかし本を改めて読んでみると、彼がリアルサーファーだということに気づいた。彼のサーフィンの腕前はそこそこだと思うが、彼の生き方がまるでサーファーライクなのだ。

まず一般社会の枠にははまらない。高価な物を所有して自分の権威を高めようとしない。そして女性が好きで、酒が好きで、パーティーが好き、そしてドラッグも好き?な人なのだ。それってサーファーでしょ?(サーファーの定義についてご意見はさまざまだとは思いますが…それは別の機会で)

つまり、マリスは優秀な頭脳を持っているから、「仕事は科学者」かもしれないが、彼はサーファーとしての(のような)生き方を実践している男なのだ。その自由奔放な生き方が、PCRの発想の源泉になったことに疑いの余地はない。(筆者の独断です)

その彼の自叙伝『マリス博士の奇想天外な人生』のあとがきで訳者福岡伸一氏がこんなことを書いている。

「マリスは、アカデミズムの塔にこもる大御所教授のイメージとは対局に位置する人物だ。実際、マリスは有名大学とかエリート研究機関といったアカデミックな場所で定職に就いていたことは一度もなく、彼が書いた学術論文は数えるほどしかない。ある時など、研究を離れてファーストフード店で働いていたこともあったほどだ。」
――『マリス博士の奇想天外な人生』訳者福岡伸一のあとがきより

そう、彼はサーファーでありアウトローなのだ。一般社会の枠にははまらない生き方をし、価値観も一般の常識とは異なる。サーフィンのために海の近くに住み、自家用車はホンダの小型車。高級車に乗って自分の成功を誇示するようなことは性分に合わないのだと本人が自ら語っている。

彼の著書の訳者がマリス氏にインタビューを試みたときの一文から。
――この世界のなかのどんなことに心を魅かれますか?

マリス博士「ブロードな(広い)知識とナローな(狭い)知識という言い方があるだろう。私は、この言葉を普通の人とはまったく別の意味で使いたいんだ。私はつねにナローな知識に注目する。ナローな知識こそ、ブロードな世界を説明することができるんだ。たとえば、ある物質に関する有機化学。それ自体は狭い専門知識だけど、この世界のすべての局面と連結する細部を含んでいる。そういう風に世界を見たいんだ。ブロードな知識は表層をなぞるしかできないからね。」


【オリジナル記事・引用元・参照】
ttps://www.surfnews.jp/feature/51443/


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