「漫画村」など、著作物の違法アップロード問題に取組む  漫画原作者デビューした弁護士の気概とは


海賊版サイト「漫画村」の運営者特定や「ファスト映画」の摘発に関わるなど、著作物の違法アップロード問題に取り組みながら、漫画原作者としてデビューした異色の法律家がいる。時には訴訟費用を自己負担してまで違法アップロードと戦い続ける中島博之弁護士だ。その闘志はどこから湧いてくるのか。その本人の話をJIJI.COM22210日伝えている。(時事ドットコム編集部 太田宇律)

ーどうして違法アップロード問題に取り組むようになったのでしょうか。

2017年に「漫画村」の存在を知ったことがきっかけです。子どものころから漫画が大好きでしたし、それまでも出版社の規約作りや作品中の法律設定などに関わる機会があったので、漫画家や編集者、スタッフの方々がどれだけ苦労して作品を生み出しているのかをよく知っています。情熱の込もった作品を勝手にアップロードしてお金を儲けていることが許せず、何とかして運営者を突き止めら

れないかと考えました。

ー漫画村はどんなサイトでしたか。

ファイルをダウンロードする必要がなく、サイト上で気軽に読むことができる「オンラインリーディング(ストリーミング)型」の海賊版サイトでした。7万冊を超える作品が無断掲載されており、サイト上には「日本と国交のない国で運営されているので違法ではない」と、掲載を正当化するようなメッセージも書かれていました。

こうしたサイトで若い世代の人たちが多くの作品を無料で読めることになってしまうと、著作物に対価を支払う習慣がなくなってしまいます。放置していれば、権利者にお金が入らなくなり、次の作品も生まれなくなって「漫画文化自体が崩壊してしまう」と大きな危機感を持ちました。

ー運営者特定の突破口になったのは何だったのでしょうか。

友人の漫画家に原告になってもらい、発信者情報の開示請求訴訟を東京地裁に起こしました。訴訟と並行し、米国のサーバー会社から任意提供を受けた漫画村のアクセスログを分析したところ、運営者はサイトにログインする際、ある企業のドメインのメールアドレスを使っていたことが分かりました。このアドレスを海外のデータベースと照合した結果、所有者の電話番号が判明し、特定につながりました。得られた情報を福岡県警などの合同捜査本部に提供し、男は19年9月に著作権法違反容疑で逮捕されました。

ー漫画村は閉鎖され、運営者の男は実刑判決を受けました。漫画村に匹敵する規模だった「漫画BANK」も閉鎖になりましたが、海賊版サイトは後を絶ちません。

新型コロナウイルスの影響でステイホームが呼び掛けられ、空いた時間にスマートフォンで漫画を読む人が増えたことが影響していると思います。書店での立ち読みは第三者の目がありますが、自宅で誰にも気付かれずに海賊版を読めるとなると、安易な気持ちでアクセスしてしまうのでしょう。

ー海賊版サイトの運営者はどういう人物なのでしょう。

海外サーバーを使うなどし、身元を隠しながら大量の画像をアップロードしてサイトを運営できるのですから、ITに詳しい人物であることは間違いないですね。私は「テロリストに近い存在」と考えています。海賊版サイトでの「ただ読み」による経済的被害は推計で年間7000億円を超えています。企業にサイバー攻撃を加えて身代金を要求する「ランサムウエア被害」が近年問題になっていますが、海賊版サイトも日本の企業とコンテンツを狙ったサイバー攻撃そのものと言えるのではないでしょうか。

ー海外サーバーを使った海賊版サイトは摘発が難しいのでしょうか。

漫画村の事件以降、大規模サイトの運営者は逮捕されていません。「やはり海外のサーバーを使って運営していれば安心なのではないか」と考えている運営者は多いと思います。ただ、漫画村事件で、たとえ海外サーバーを使っていても運営者の特定は可能で、海外に逃げたとしても逮捕できることが証明できました。こうした事例を積み上げれば、相当な抑止力になると思います。

漫画家デビューの理由

ー弁護士活動の傍ら、漫画原作者としてデビューされました。

私は代理人弁護士ですから、基本的に権利者がいなければ著作権侵害と戦うことができません。自分が直接権利者として戦う方法はないかと考えてきたのですが、それには私自身が著作権者になるのが一番だと思い立ち、原作を書き始めました。誕生した作品は、漫画家の新人アシスタントが実は弁護士で、著作権侵害などさまざまな社会問題と戦うというストーリーです。漫画家の武村勇治さんとタッグを組み、連載を始めることができました。ちなみに、この漫画で得られる印税は全額、海賊版サイトの撲滅に使うことにしています。

ー海賊版の読者や視聴者に伝えたいことは。

違法アップロードは、犯罪者が収益を得る手段です。海賊版を読んだり、視聴したりすることは犯罪に間接的に協力していることになります。また、お金を得た犯罪者が人を雇い、さらに被害を拡大させることもあると知ってほしいですね。漫画は1コマ1コマ、漫画家が考え抜いてできたもので、映画は演技者や監督、スタッフたちの思いがこもったシーンの連続です。海賊版ではなく、ぜひ正規品に触れてほしいと思います。


【オリジナル記事・引用元・参照】
https://www.jiji.com/jc/v8?id=202201mangamura-shakaibuhatu”>https://www.jiji.com/jc/v8?id=202201mangamura-shakaibuhatu


Latest Posts 新着記事

知財の主戦場は「充電」から「交換」へ——CATLが先回りする日本市場の布石

世界最大級の車載電池メーカーCATLは、セルやパックの“モノづくり”を超えて、交換式バッテリーによる「BaaS(Battery as a Service)」へと事業射程を拡張している。交換ステーション、共通モジュール、運用ソフト、資産管理—この新モデルが成立するとき、勝負を決めるのは工場規模だけではない。規格化を押さえる特許と、サプライチェーン横断で効くサービス設計の知財である。中国本土では、Si...

環境×技術×知財 BlueArchがつくる“持続可能な海洋モニタリング”の新モデル

海岸林、マングローブ、塩沼、藻場などの ブルーカーボン生態系 は、地球温暖化対応の大きな鍵となる。これらの環境は、陸上森林よりも濃密に炭素を隔離する能力を持つという報告もある。Nature+2USGS+2 だが、こうした海・沿岸域の調査・保全には「アクセス困難」「高コスト」「リアルタイム性の欠如」といった課題が横たわる。ここに、ドローン技術、GPS(あるいは水中位置推定技術)、そして特許設計による...

ファーウェイ、特許で動く EV×5G基地局に見る中国知財の拡張戦略

■ 序章:静かに増える“赤い知財網” 特許庁の公開データを丹念に追うと、近年ひとつの変化が浮かび上がる。日本国内での中国企業による特許出願が、2015年以降、年率二桁で増加しているのだ。 とりわけ通信・電池・モビリティといった「脱炭素×デジタル」分野に集中しており、日本企業が得意とする領域を正面から狙っている。こうした動きの中心にいるのが、通信大手・華為技術(ファーウェイ)である。 米中摩擦のさな...

終わりなき創造の旅 厚木の発明家が挑む“次の技術革命”」

特許数でギネス更新 21世紀のエジソン、厚木に―発明の街が問いかける、日本の未来図 神奈川県厚木市―東京からわずか1時間足らずの距離にあるこの街が、世界の技術史に名を刻んだ。特許数の世界記録を更新した発明家、山﨑舜平(やまざき・しゅんぺい)氏が拠点を構えるのが、まさにこの地である。彼の名がギネス世界記録に再び載ったというニュースは、科学技術の世界だけでなく、日本人のものづくり精神を象徴する話題とし...

知財は企業の良心を映す鏡――4億ドル評決が語るイノベーションの倫理

2025年10月、米テキサス州東部地区連邦地裁で、韓国の大手電子機器メーカー・サムスン電子に対し、無線通信技術の特許侵害を理由に4億4,550万ドル(約690億円)の賠償を命じる陪審評決が下された。この判決は、単なる企業間の紛争を超え、ハイテク産業における知的財産権(IP)の重みを再認識させる事件として、世界中の知財関係者の注目を集めている。 ■ 「技術を使いたいが、支払いたくない」——内部文書が...

知財が揺るがす電機業界――TMEIC×富士電機、UPS特許訴訟の裏側

2025年夏、産業用電源装置分野を揺るがすニュースが伝わった。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が、富士電機の無停電電源装置(UPS)製品が自社の特許を侵害しているとして、韓国において訴訟および輸入禁止の措置を求めた件である。韓国貿易委員会(KTC)は8月下旬、TMEICの主張を一部認め、富士電機製の特定UPSモデルについて韓国への輸入を禁止する決定を下した。日本企業同士の知財紛争が、国外で具...

「JIG-SAW、AI画像技術で米国特許を獲得へ 知財を武器にグローバル競争へ挑む」

はじめに:発表概要と意義 JIG-SAW(日本発の IoT / ソフトウェア/AI ベンチャーと理解される企業)は、米国特許商標庁から「コンピュータビジョン技術」に関する Notice of Allowance(特許査定通知) を取得した旨を、自社ウェブサイトおよびニュースリリースで公表しています。 具体的には、JIG-SAW は「コンピュータビジョン技術、画像処理・画像生成支援技術」分野において...

「特許で世界を包囲する中国 イノベーション強国への加速」

はじめに:なぜ国際特許出願数が注目されるか イノベーション(技術革新)の国際競争力を測る指標として、研究開発投資、論文発表数、特許出願数などが長らく注目されてきました。特に国際特許(例えば、特許協力条約 PCT 出願、あるいは各国出願による外国での保護を意図した出願)は、一国の発明・技術が国際市場を見据えて保護を志向していることを示すため、技術力だけでなく国際志向性の強さも反映します。 近年、中国...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

海外発 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る