特許を取るのが必ずしも正解とは限らないという話

クリエイターが文章やマンガ、写真、音声を投稿することができるメディアプラットフォーム「note」、2020年4月13日九頭龍 ‘kuz’ 雄一郎氏が魅かれる表題で以下の内容の投稿がされていた。

事業戦略を立てる人も、スタートアップを立ち上げる人も、多くの場合で気にしていることのひとつが「特許」だろう。これは投資家や決裁者が大抵特許の状況を聞くからというのもあるだろうし、実際に特許を沢山持っている会社が巨額の出資を受けたり、研究機関では取得特許の数である程度評価が行われたりするからだ。

まぁ別に間違っていない。知財戦略はとても重要だ。これをしくじると一瞬で会社を失いかねないし、逆に上手くやれば会社の価値を大きく上げることができる。そんなことは誰でも知っているし、私もそう思うので、ここではあえて「必ずしも正解とは言えない」ことについて書いておく。

具体的に特許を取るデメリットは以下の通り
1. 特許申請する過程で自社の大まかな戦略が他社にバレる
2. 金がかかる
3. 時間が取られる
4. 特許は取得することが大事なのではなくて係争できることが大事(資金力・ノウハウ)
5. 特にソフトウェア特許は侵害の証明が大変

中でも「4. 」について、これはガチ。特許は持っていればめでたしめでたしなんて話ではない。もし侵害されたら相手を訴えなければならない。あなた自身が。

当然持っているだけである程度の抑止力を発揮するというぬるい考え方もあるかも知れないが、世の中そこまでお行儀良くはできていない。意匠なんて誰が見ても明らかなんだから大丈夫だろうと思っても攻めてくるやつらはガンガン攻めてくる。

外から見て「侵害してもどうせ訴える体力ないでしょ」と思われていたらそんな特許になんの意味もない。

また、「5. 」について、損害賠償の基本は「原告側が証明すること」だ。これは厳密にはとても難しくて、原告は被告のことをどこまで知っているかというと微妙だし内部情報などもらえない。

その状況でも金を使い、労力を使い、証拠を揃えていよいよと訴えて、そこから係争が始まる。どの程度の情報を揃えなければならないかは私はプロフェッショナルではないのでわからないが、エンジニアとしてその情報を揃えることの難しさはよくわかる。

電気回路の特許なら相手の回路図が入手できれば一発だがなかなかそうはいかないだろう。
メカ構造の特許なら一見して「似てる」くらいはわかるが、相手が使っている素材の違いや彼らなりの特殊性を主張してきたら非常に厄介だ。

そして解析の内部やソフトウェアの話になると、、、さてはて。困難を極める。外から見て判断することは不可能だし、アプリの挙動などから言いがかりをつけるのもしんどい。同じパラメータを突っ込んで全く同じ結果が得られて云々、という手が一般的には考えられるが、相手がそこまでの自由度をこちらに与えてくれる可能性は低い。

私は判例にはあまり詳しくないが、ソフトウェアでの特許侵害訴訟は往往にして混迷するということくらいは認識している。

さて、ここまでは特許取得の面倒くさいところや「それ本当に必要?」という疑問の投げかけを行ってきた。最後にそれとは別の角度からの話で締めたい。

スタートアップのゴール設定は色々あるが、特許訴訟で勝った負けたをするために製品開発している人は極めて稀だろう。みんな良い製品・サービスを世に送り出したくて日々汗水垂らして開発に取り組んでいるはずだ。

例えば先日友人がこんな面白い記事を紹介していた。
AMDがなぜ巨人Intelの向こうを張って戦ってられるか、という話。要するに優れたエンジニアがいれば資金的に圧倒的に不利でもどこかチャンスはある、ということだと思う。
スタートアップにとっては絶対勝てる確信なんて常に無いのが当たり前で「勝機がある」くらいで十分だという言い方もできないだろうか。

私もたまにやってしまうので少々反省する部分があるが、若手がアイディアを持ってきた時についついドヤ顔で「そのアイディアは某中国企業が資金100億円エンジニア100人投入してきても勝てますか?」とか聞いてしまう。

当然投資家や私のようなメンターは質問に対する答えを聞きたいのではなく「それにどう答えるやつなのか?」が知りたいだけだ。したがって正解なんていくらでもあって
・とにかく先行者利益で突っ走る
・特許で守りきる
・今は先行者利益しかないが、今後常に競合に対して優位性のある技術を作り出せるだけのチームがある
・デザインやコンテンツなど他社とは違う角度で独自の立ち位置を作る
・パッとやりきってバイアウトする

どれも間違いではない。大事なのは「その答えと起業家自身が合ってるか」だ。

上記の答えなんてそこらへんの起業ノウハウ本でも買えば大抵載ってる話なのでクチではいくらでも言うことができる。そこで、言ったこととその人の特性が合ってそうであれば投資家は安心して見てられるということだ。

戦略なんて十人十色なのだから自分に合っているものを選択すれば良い。
覚えたての特許用語を駆使して「特許対策は万全です!」なんて虚勢を張る人よりは「もうめんどいんで基本オープンソース化でいきたいと思ってます。社会に還元した方がきっとこの事業には合ってますよ」とハッキリ言ってくれる人の方がよっぽど信用できる。

ちなみに私は、投資家や銀行の融資担当、あなたの上司、とは立場も意見も異なると思うので全てを鵜呑みにしないように。笑

九頭龍 ‘kuz’ 雄一郎  エンジニア/経営者、ClayTech CEO,2nd-Community取締役、144Lab取締役、東北大学客員教授、東京工業大学非常勤講師、他複数社の顧問など。

【オリジナル記事】
https://note.com/claytech/n/n58dc988ede34

* AIトピックでは、知的財産に関する最新のトピック情報をAIにより要約し、さらに+VISION編集部の編集を経て掲載しています。

コメントを残す