英国で「人工知能は特許発明者と認めない」判決。 AIが生み出した特許品の発明者は誰に?


人工知能(Artificial Intelligence:AI)が、何かの役に立つ物(のレシピ)を創造したり、何らかの画期的な手法を編み出したりした場合、その特許を押さえようとしたら、発明・発案者は誰になるのか。デジタルガジェットの最新情報をどこよりも早く伝えるengadget 日本版は2021年9月24日、そのことについて次のように掲載している。

ここ数年で、AIは飛躍的にその能力を高めてきており、たとえば自ら絵を描く能力や文章を作る能力、つまり創造性を備えつつある。

Imagination Engenes社のCEO、スティーブン・タラー博士は自身が開発した「DABUS」と称するAI(人工ニューラルネットワーク)は、思考と記憶を延々と繰り返すことで自律的に新しい何かを発明することができる ” 創造性エンジン ” だと語っている。

DABUSが発明したという特許案件は、それが実用的で機能するかどうかはわからないが2019年、タラー博士は、人の神経活動を真似たというパターンでランプが明滅する「人の気を引き付ける装置」を含むいくつかの特許を、DABUSを発明者と記載して2019年に世界国で出願した。

スティーブン・L・タラー博士

タラー博士は、自身の名前を記載しなかったのは「自分の専門分野ではなく、発明者と言えるほどこの件に貢献できなかったから」だと述べている。しかしおそらくそれは、DABUSをあえて発明者として世界中で特許出願することで、DABUSと自身(および自身の会社)を世界に宣伝する意図も、おそらくあることだろう。

しかし、出願された以上、各国の特許に関する機関は審査をせざるを得ない。そして米国を含む多くの国では、発明者が「生身の人間」ではないことを根拠に発明者としては認められないとの判断を下した。

しかし、オーストラリアや南アフリカではこれを認めるとの判決を下したため、国によってAIが発明したものに関する判断が分かれる状態になっている。
今回判決を出したロンドンの控訴裁判所は、判決文で「特許は法定の権利であり、人にしか与えられない」と述べ、機械(である人工知能)は権利を得ることができないとした。
多くの国では、権利を付与できるのは人に限られるというのが共通した考え方で、また、合理的に考えれば機械が権利を取得しても、機械はそれを行使して何かをするわけではなく、そこに意味があるようにも思えないのだ。

ただ、近年は新薬の開発などでAIを用いるケースが増加しており、特許対象となる発明があったとしても発明者に該当する人がいないケースも出てくる可能性があるとの意見もある。
実際、ドイツの技術企業シーメンスが2019年にAIによって開発した新しいサスペンションが、発明者がAIだとして特許を認められなかったとされている。
われわれ日本の法律でも、特許法第29条第1項の柱書で「産業上利用できる発明をした者」が、その発明の特許を受けられると規定され、生身の人間、つまり ” 物 ” ではなく ” 者 ” でなければ特許を得ることは難しそうだ。

ただ、DABUSの件に関して、日本でもAIの発明者適格性審査は始まっている模様なので、今後の展開は気になるところだ。

【オリジナル記事、引用元、参照】
https://japanese.engadget.com/ai-cant-be-legally-credited-as-an-inventor-in-the-uk-100023221.html
https://www.gizmodo.jp/2021/09/ai-cant-be-in-an-inventor.html
https://imagination-engines.com/founder.html


Latest Posts 新着記事

村田製作所、“特許力”で世界を制す 年々強化される知財戦略の全貌

電子部品業界において、グローバルで確固たる地位を築く日本企業・村田製作所。同社はスマートフォン、自動車、通信インフラなど、あらゆる先端分野で不可欠な部品を供給し続けているが、その競争優位性の核心には、他社を圧倒する「特許力」がある。 村田製作所の特許出願数は、国内外で年々増加しており、特許庁が公表する「特許資産規模ランキング」においても常に上位を占める。2020年代以降、その特許戦略はさらに洗練さ...

トヨタ・中国勢が躍進 2024年特許登録トップ10に見る技術覇権の行方

2024年における日本企業の特許登録件数ランキングが、特許庁公表の「特許行政年次報告書2025年版」により明らかになりました。その結果、国内企業上位10社には、自動車関連企業が3社名を連ね、さらに中国企業の技術力と知財戦略の成長が際立つ結果となりました。本稿では、トップ10企業の顔ぶれを振り返るとともに、自動車関連企業の動向、中国勢の勢い、そして今後の展望について解説します。 ■ ランキング概要:...

メルク、英ベローナを100億ドルで買収 キイトルーダ後を見据えCOPD新薬を強化

米製薬大手メルク(Merck & Co.、日本ではMSDとしても知られる)は、英国バイオ医薬品企業ベローナ・ファーマ(Verona Pharma)を約100億ドル(1兆4,700億円)で買収することで基本合意に至りました。買収金額は現地株式の米国預託株式(ADS)1株あたり107ドルで、これは直近の株価に対して約23%のプレミアムを上乗せした水準です。 背景:キイトルーダの特許切れと「ペイ...

知財覇権争い激化 中国企業が日本の次世代技術を標的に

中国企業、日本で次世代技術の知財攻勢強化 特許登録が急増 日本における次世代技術分野で、中国企業による特許登録件数が急増している。AI(人工知能)、量子技術、電気自動車(EV)、通信(6G)といった先端分野での出願が目立ち、知的財産権を活用したグローバル戦略の一環とみられる。中国勢の台頭により、日本国内企業の技術優位性や将来的な事業展開に影響を及ぼす可能性があるとして、専門家や政策当局も注視してい...

「aiwa pen」誕生!端末を選ばない次世代タッチペン登場

株式会社アイワ(aiwa)は、ワコム株式会社が開発した先進的なAES(Active Electrostatic)方式の特許技術を搭載した新製品「aiwa pen(アイワペン)」を、2025年7月3日より全国の家電量販店およびオンラインショップにて販売開始したと発表しました。マルチプロトコル対応によって、Windows・Android・Chromebookなど様々な端末での利用を可能にし、使う端末を...

完全養殖ウナギ、商用化へ前進 水研機構とヤンマーが量産技術を特許化

絶滅危惧種に指定されているニホンウナギの持続的な利用に向けた大きな一歩となる「完全養殖」技術の量産化が、いよいよ現実味を帯びてきた。国の研究機関である水産研究・教育機構(以下、水研機構)と、産業機械メーカーのヤンマーホールディングス(以下、ヤンマー)が共同で開発を進めてきたウナギの完全養殖技術について、両者が関連する特許を取得したことが明らかになった。 これにより、これまで不可能とされていたウナギ...

ミライズ英会話、AI活用の語学教材生成技術で特許取得 EdTech革新が加速

英会話スクール「ミライズ英会話」(運営:株式会社ミライズ、東京都渋谷区)は、AIを活用した「完全パーソナライズ語学教材自動生成技術」に関する特許を、2025年5月に日本国内で正式に取得したと発表した。この技術は、学習者一人ひとりの語学レベルや目的、学習傾向に応じて最適な学習教材をリアルタイムで生成・更新するという、従来にない革新的な仕組みである。 本技術の特許取得により、語学教育における個別最適化...

トランスGG、創薬支援で前進 エクソンヒト化マウスの特許が成立

株式会社トランスジェニック(以下、トランスGG)は、2025年6月、日本国内において「エクソンヒト化マウス」に関する特許が正式に成立したと発表した。本特許は、ヒト疾患の分子機構解析や創薬における薬効評価、毒性試験など、幅広い分野で活用が期待される次世代モデル動物に関するものであり、今後の創薬研究において大きなインパクトを与えるものとなる。 ■ エクソンヒト化マウスとは エクソンヒト化マウスは、マウ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る