知財覇権争い激化 中国企業が日本の次世代技術を標的に


中国企業、日本で次世代技術の知財攻勢強化 特許登録が急増

日本における次世代技術分野で、中国企業による特許登録件数が急増している。AI(人工知能)、量子技術、電気自動車(EV)、通信(6G)といった先端分野での出願が目立ち、知的財産権を活用したグローバル戦略の一環とみられる。中国勢の台頭により、日本国内企業の技術優位性や将来的な事業展開に影響を及ぼす可能性があるとして、専門家や政策当局も注視している。

■ 登録件数、ここ5年で2倍以上に

特許庁の統計や民間調査機関の分析によると、2024年までの5年間で、中国企業による日本での特許登録件数は2倍以上に増加した。特に2023年以降はその伸びが著しく、年間登録件数が韓国や欧州諸国を抜き、米国に次ぐ第2位の水準に達している。

対象となる技術分野は、汎用的なICT技術から、AIアルゴリズム、画像認識、音声処理、さらには半導体製造装置や量子計算といった高度な分野にまで広がっている。また、EV分野では、バッテリー管理技術や自動運転に関する出願が目立ち、中国大手IT企業や電気機器メーカーだけでなく、スタートアップ企業からの出願も増加傾向にある。

■ ファーウェイ、テンセント、BYDなどが存在感

登録件数の急増をけん引しているのが、中国のIT大手やハードウェアメーカーだ。例えば、通信機器大手のファーウェイは、通信分野において日本での特許取得を積極的に進めており、6Gを見据えた通信プロトコルや基地局技術の関連出願が確認されている。

同様に、テンセントはAIによる画像処理やゲームエンジン関連の技術で、日本市場を含むグローバル知財戦略の一環として出願を強化。EV大手のBYDは、EV向けバッテリー制御やモーター技術に関する出願を行い、2025年以降の日本市場での本格展開を見据えているとされる。

■ なぜ日本市場なのか? ―「知財保護の強さとブランド価値」

中国企業が日本での特許取得を加速させる背景には、日本が世界でも有数の知的財産保護国であることがある。日本で特許を取得することで、アジア市場における技術の信頼性を高められるほか、日本企業との協業・ライセンス交渉で有利な立場を取ることができる。

また、日本市場での存在感を高めることで、世界市場における技術ブランドの価値向上にもつながるとの戦略的意図もある。特に自動車、精密機器、電子部品など日本が技術的に優位とされてきた領域での特許取得は、中国企業にとってのシンボリックな意味を持つ。

■ 日本企業にとっての影響は?

中国勢の特許攻勢は、日本企業にとってさまざまな影響をもたらす可能性がある。一つは、技術開発における自由度の制限だ。競合他社が先に特許を押さえることで、日本企業が類似技術の開発を進めにくくなる「特許包囲網」が形成される恐れがある。

また、部品供給や製造工程においても、中国企業の技術に依存する構図が強まれば、ライセンス費用の負担増や交渉での不利な立場が生じる可能性もある。特にAIやEVなど新規分野では、日本企業自身の知財出願スピードやグローバル戦略の再構築が急務となっている。

■ 政府や業界団体も危機感

このような動向を受けて、日本政府や業界団体も警戒を強めている。経済産業省は2025年以降、次世代技術分野での知財戦略支援を強化する方針を示しており、スタートアップ企業や中小企業に対する特許出願支援や海外出願費用の補助制度を拡充する計画だ。

また、日本弁理士会などは、中国を含む海外企業の出願状況を分析し、日本企業へのアラートを行う仕組みを整備。知財リスクを早期に検知し、必要な技術開発や防衛的出願を促すための情報提供を強化している。

■ 知財の主導権争い、技術覇権へ

中国企業による日本での特許登録急増は、単なる知財取得にとどまらず、今後の技術覇権を左右する重要な戦略の一部であると見る向きが強い。かつて日本が半導体・家電で米国との知財摩擦を経験したように、今後は中国との間で「見えない技術戦争」が本格化する可能性がある。

日本企業がこうしたグローバル競争に勝ち抜くには、独自技術の育成とともに、海外での特許出願や権利行使を前提とした攻めの知財戦略が求められる。技術を「守る」だけでなく、「使う」「売る」時代への転換が迫られている。


Latest Posts 新着記事

村田製作所、“特許力”で世界を制す 年々強化される知財戦略の全貌

電子部品業界において、グローバルで確固たる地位を築く日本企業・村田製作所。同社はスマートフォン、自動車、通信インフラなど、あらゆる先端分野で不可欠な部品を供給し続けているが、その競争優位性の核心には、他社を圧倒する「特許力」がある。 村田製作所の特許出願数は、国内外で年々増加しており、特許庁が公表する「特許資産規模ランキング」においても常に上位を占める。2020年代以降、その特許戦略はさらに洗練さ...

トヨタ・中国勢が躍進 2024年特許登録トップ10に見る技術覇権の行方

2024年における日本企業の特許登録件数ランキングが、特許庁公表の「特許行政年次報告書2025年版」により明らかになりました。その結果、国内企業上位10社には、自動車関連企業が3社名を連ね、さらに中国企業の技術力と知財戦略の成長が際立つ結果となりました。本稿では、トップ10企業の顔ぶれを振り返るとともに、自動車関連企業の動向、中国勢の勢い、そして今後の展望について解説します。 ■ ランキング概要:...

メルク、英ベローナを100億ドルで買収 キイトルーダ後を見据えCOPD新薬を強化

米製薬大手メルク(Merck & Co.、日本ではMSDとしても知られる)は、英国バイオ医薬品企業ベローナ・ファーマ(Verona Pharma)を約100億ドル(1兆4,700億円)で買収することで基本合意に至りました。買収金額は現地株式の米国預託株式(ADS)1株あたり107ドルで、これは直近の株価に対して約23%のプレミアムを上乗せした水準です。 背景:キイトルーダの特許切れと「ペイ...

知財覇権争い激化 中国企業が日本の次世代技術を標的に

中国企業、日本で次世代技術の知財攻勢強化 特許登録が急増 日本における次世代技術分野で、中国企業による特許登録件数が急増している。AI(人工知能)、量子技術、電気自動車(EV)、通信(6G)といった先端分野での出願が目立ち、知的財産権を活用したグローバル戦略の一環とみられる。中国勢の台頭により、日本国内企業の技術優位性や将来的な事業展開に影響を及ぼす可能性があるとして、専門家や政策当局も注視してい...

「aiwa pen」誕生!端末を選ばない次世代タッチペン登場

株式会社アイワ(aiwa)は、ワコム株式会社が開発した先進的なAES(Active Electrostatic)方式の特許技術を搭載した新製品「aiwa pen(アイワペン)」を、2025年7月3日より全国の家電量販店およびオンラインショップにて販売開始したと発表しました。マルチプロトコル対応によって、Windows・Android・Chromebookなど様々な端末での利用を可能にし、使う端末を...

完全養殖ウナギ、商用化へ前進 水研機構とヤンマーが量産技術を特許化

絶滅危惧種に指定されているニホンウナギの持続的な利用に向けた大きな一歩となる「完全養殖」技術の量産化が、いよいよ現実味を帯びてきた。国の研究機関である水産研究・教育機構(以下、水研機構)と、産業機械メーカーのヤンマーホールディングス(以下、ヤンマー)が共同で開発を進めてきたウナギの完全養殖技術について、両者が関連する特許を取得したことが明らかになった。 これにより、これまで不可能とされていたウナギ...

ミライズ英会話、AI活用の語学教材生成技術で特許取得 EdTech革新が加速

英会話スクール「ミライズ英会話」(運営:株式会社ミライズ、東京都渋谷区)は、AIを活用した「完全パーソナライズ語学教材自動生成技術」に関する特許を、2025年5月に日本国内で正式に取得したと発表した。この技術は、学習者一人ひとりの語学レベルや目的、学習傾向に応じて最適な学習教材をリアルタイムで生成・更新するという、従来にない革新的な仕組みである。 本技術の特許取得により、語学教育における個別最適化...

トランスGG、創薬支援で前進 エクソンヒト化マウスの特許が成立

株式会社トランスジェニック(以下、トランスGG)は、2025年6月、日本国内において「エクソンヒト化マウス」に関する特許が正式に成立したと発表した。本特許は、ヒト疾患の分子機構解析や創薬における薬効評価、毒性試験など、幅広い分野で活用が期待される次世代モデル動物に関するものであり、今後の創薬研究において大きなインパクトを与えるものとなる。 ■ エクソンヒト化マウスとは エクソンヒト化マウスは、マウ...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る