中国の高級ミニバン市場に、新たな主役が登場した。GM(ゼネラルモーターズ)の中国ブランド「ビュイック(Buick)」が展開するフラッグシップMPV「世紀(センチュリー/CENTURY)」は、その名の通り“100年の誇り”を体現する存在だ。日本の高級ミニバンの代名詞・トヨタ「アルファード」をも超えるボディサイズに、贅沢を極めた2列4人乗りの内装、そして快適性を徹底追求した独自の“特許技術”が組み込まれているという。
本稿では、「ビュイック・世紀」が中国の高級ミニバン市場でなぜ注目を集めているのか、どのような技術や特許が快適性を支えているのかを掘り下げ、日本市場や知財戦略の観点からも読み解いていく。
アルファード超えのサイズとプレゼンス
まず驚かされるのは、「世紀」の堂々たる車体サイズだ。全長5230mm、全幅1980mm、全高1867mm、ホイールベース3130mmというボディは、トヨタ・アルファード(全長4995mm)やレクサスLM(全長5125mm)すら凌駕している。外観はクロームが多用され、フロントグリルには立体感のある新世代ビュイック・エンブレム。ファストバック調の伸びやかなサイドラインは、高級セダンとSUVを融合したような威厳を放つ。
「世紀」はもともと2022年にデビューしており、中国国内では「ミニバン界のマイバッハ」とも評される。2024年には新仕様「センチュリー・センテニアル」も加わり、再び注目を集めている。
なぜ“2列4人乗り”が選ばれるのか?ビジネスクラスのような快適性
多くのミニバンは3列シートで最大7人程度を乗せる設計だが、「世紀」はあえて“2列4人乗り”という仕様を用意している。これは単なる贅沢仕様ではない。中国の富裕層、とくに経営者や政府関係者、芸能人などの「移動空間」を重視する層にとって、もはやクルマは“第2の書斎”あるいは“ラウンジ”となっている。
この2列仕様では、セカンドシートに独立したマッサージ機能付きのパワーシートを配置し、左右席の間には大型センターコンソールとミニ冷蔵庫、22インチの大型ディスプレイを搭載。さらにBOSEの特注音響システムにより、走行中でも静寂に包まれた“移動会議室”として機能する。
また、後席と運転席の間には電動パーティション(仕切り)が装備されており、遮音性能の高いガラスパネルが自動で開閉。これにより、ドライバーと乗客のプライバシーが確保されるという。これらは単なる装備ではなく、中国で取得された複数の特許技術に支えられている。
快適移動を支える“特許システム”とは?
「世紀」の注目ポイントは、豪華さだけではない。快適性と静粛性を支える技術面でも特許出願が積極的に行われている。
たとえば、「ノイズキャンセリング・エアサスペンション・システム」(CN112883546A)は、道路の凹凸や走行音をセンサが検知し、リアルタイムでサスペンションの硬さと音響制御を調整する技術で、空調やタイヤの摩耗音までも低減する。
また、「リアキャビン・パーティション制御システム」(CN113994102B)は、乗客が話しかけたときだけ自動で仕切りが開くなど、音声認識とセンサーを組み合わせたインターフェースが特徴。これらの知財戦略が、「中国製でも品質は高い」と評価を変える要素となっている。
GMは中国での合弁会社・上汽GM(SAIC-GM)を通じて、特許出願を積極的に行っており、特に2020年以降、モビリティ×快適性をテーマにした特許の出願件数が急増している点も見逃せない。
なぜ今、中国で“超高級MPV”が求められているのか?
背景には、中国の都市部における「運転手付き移動」という文化と、コロナ後における“非公共交通回帰”の流れがある。とくに北京、上海、広州などの富裕層は、飛行機や鉄道のファーストクラスに代わる“地上のプライベート空間”を求めている。
また、地方政府によるEV補助金の後押しもあり、「世紀」は48Vマイルドハイブリッド搭載モデルを皮切りに、今後フルEV仕様の登場も噂されている。中国市場のEV化とプレミアム化の両方を狙う戦略的モデルといえる。
トヨタ・アルファードとどう違う?知財とブランドの視点から
トヨタ「アルファード」や「レクサスLM」も同様に“後席重視”のコンセプトを貫いているが、特許や知財面ではやや保守的な印象がある。たとえば、音響やシート配置に関する部分で、ビュイックはより独創的な特許を国内で押さえている。
また、アルファードは世界戦略車であるため、ボディサイズやインテリアに「最大公約数的な調整」が入る。一方、中国専売モデルである「世紀」は、中国人のライフスタイルや美意識に徹底的に最適化されている。これが「中国市場におけるアルファード超え」と呼ばれる理由でもある。
おわりに:日本メーカーへの示唆
「ビュイック・世紀」は、単なる高級ミニバンではなく、「移動体験の再定義」に挑んだプロダクトだ。中国市場はすでに「ハードウェアとしての車」ではなく「空間価値」「知的財産」「体験設計」に重きを置きはじめており、その兆候は車両の特許構成にも如実に現れている。
日本メーカーも、単に高品質を追求するだけでなく、どのような知財で競争優位性を作るのか、地域に根差したUX設計をどのように展開するかが問われる時代に突入した。
これからのモビリティ競争では、“アルファードの上を行く”とは何を意味するのか。その答えは、「世紀」が示しているのかもしれない。