2025年大阪・関西万博(EXPO2025)が近づくなか、多くの国が自国の強みをテーマにパビリオンを構築している。イタリアといえば、多くの人が思い浮かべるのは、パスタやピザ、ワインといった「食」、アルマーニやプラダ、グッチなどの「ファッション」だろう。しかし、イタリアの真の魅力はそれだけではない。今回の万博では「もうひとつのイタリア」、すなわち高度な技術力と伝統文化、そして未来志向の融合が強く打ち出されようとしている。
本稿では、EXPO2025におけるイタリアの戦略と展示内容を分析するとともに、日本ではあまり知られていないイタリアの革新分野―航空宇宙、ロボティクス、持続可能な建築技術、そして職人文化とデジタルの融合―に焦点を当てて紹介する。
■「アルテ・サイエンツァ(技術と芸術)」を掲げるイタリア館
イタリア館の基本コンセプトは「アルテ・サイエンツァ(Arte e Scienza)」──すなわち、芸術と科学の融合である。これはレオナルド・ダ・ヴィンチをはじめとする歴史的な巨匠たちに共通する「知の総合」を意識した設計であり、伝統と未来の橋渡しを意味する。
建築デザインは環境に配慮したサステナブル構造となっており、再生木材やバイオ素材を活用。また、館内にはAR(拡張現実)とVR(仮想現実)を用いたインタラクティブな展示が多数設けられ、来場者は自分の動きに反応して変化する「動く美術館」のような体験ができる。
■航空宇宙大国としての顔:レオナルド社の技術展示
一般には知られていないが、イタリアは欧州有数の航空宇宙技術大国である。イタリア最大の防衛・航空宇宙企業「レオナルド(Leonardo S.p.A.)」は、欧州宇宙機関(ESA)とも連携し、地球観測衛星や火星探査機の製造に深く関わっている。
EXPO2025では、レオナルド社の展示ブースが予定されており、模擬宇宙飛行体験や、月面探査ロボットのミニモデルの操作体験などが可能になる見込みだ。さらに、地球温暖化対策としての宇宙からの環境モニタリングに関する展示も行われ、サステナビリティと最先端科学の融合が来場者に示される。
■ロボティクスと人間中心設計:ComauとIIT(イタリア技術研究所)
イタリアの産業ロボット分野も見逃せない。フィアット系の自動化技術企業「Comau(コマウ)」は、人間と協働するコボット(協働ロボット)の分野で世界をリードしている。特に医療や介護の領域における応用が進んでおり、イタリア館ではリハビリ支援ロボットの実演も予定されている。
また、IIT(イタリア技術研究所)が開発したヒューマノイドロボット「iCub」は、人間の認知や学習を模倣するAIロボットとして世界的に注目されている。子どものようなフォルムを持つiCubは、単なる機械ではなく、「感情を読み、対話する存在」として展示され、イタリアが目指す「人間中心のAI社会」の未来像を象徴する。
■未来志向の建築と都市デザイン:スーパークオドラの挑戦
建築分野では、ミラノ工科大学と建築事務所「Superquadra(スーパークオドラ)」による共同プロジェクトが注目される。同プロジェクトは、伝統的なイタリアの街並みをベースにしながら、気候変動に適応する“適応型建築”を提案。通気性の高い石材と光の屈折を活かした自然冷却システムにより、エアコンに頼らない室内温度調整が可能となる。
さらに、建材には廃棄されたワイン樽やオリーブオイルの絞りかすから生まれたバイオ複合素材が使用され、循環型社会への貢献を体現している。
■職人技とデジタル製造の融合:未来の「メイド・イン・イタリー」
イタリアの強みは手工芸(アルティジャナート)にあるが、それをデジタルで次世代化する動きも加速している。トスカーナ地方では伝統的な陶器工房が3Dスキャンと3Dプリンティング技術を導入し、「デジタルで再現される手仕事」として注目されている。
EXPO2025のイタリア館では、フィレンツェの革工芸師がARで再現される「職人の手技」によって、来場者がバーチャルに工房を訪れ、手仕事の美と緻密さを体感できるコーナーも設置される予定だ。
■まとめ:「知のルネサンス」としてのイタリア再発見
食とファッションだけが「イタリア」ではない。航空宇宙からロボティクス、サステナブル建築、そして伝統とデジタルの融合まで―EXPO2025のイタリア館は、まさに現代の「知のルネサンス」を体現している。
私たち日本人にとって、イタリアは“憧れのライフスタイル”の象徴であると同時に、科学と文化が溶け合う先進国でもある。その「もうひとつのイタリア」に触れることで、日常の見方が少し変わるかもしれない。
大阪・夢洲での出会いが、未来へのインスピレーションを与えてくれることだろう。