イタリアの名門アルファロメオが手掛けるSUV「ステルヴィオ」が、次世代モデルで大胆な進化を遂げようとしている。現行モデルが登場したのは2016年、ブランド初のSUVとしてスポーティかつラグジュアリーな存在感を放ってきたが、その後の市場の急激な電動化とSUVトレンドの変化を受け、次なる一手が注目されていた。
今回明らかになった次期ステルヴィオの開発情報によれば、最大の変化は「クーペSUV」としての再定義、そして「BEV(バッテリーEV)」の本格導入にある。アルファロメオというブランドが、単なるエンジン車の代替品ではなく、次世代モビリティの中でどのような存在価値を持つかが問われる中、この変化は戦略的な意味合いを多分に含んでいる。
クーペSUV化:美意識と空力の融合
まず注目すべきは、クーペSUVとしてのデザイン方向性だ。ステルヴィオの名は、イタリア北部の名峠「ステルヴィオ峠」に由来するが、その名に恥じぬダイナミズムがデザインにも反映されてきた。次世代型では、さらにルーフラインを低く、リアをスポーティに絞り込むことで、クーペスタイルの美学をSUVに融合させる。
この動きは、BMW X6やメルセデス・ベンツ GLEクーペといった、プレミアムブランドがすでに成功させてきた文脈に連なる。とはいえ、アルファロメオの場合、単にトレンドに追随するのではなく、伝統的な「イタリア車の美意識」がそこにある点が異なる。つまり、官能的な曲線とスリムなプロポーションが、BEVのパッケージング自由度を活かしてより際立つ可能性があるのだ。
BEV導入:ステランティスとの協調とアルファの独自性
次期ステルヴィオでは、BEV(純電気自動車)の導入が確実視されている。これは親会社ステランティスの電動化戦略「Dare Forward 2030」に基づくものであり、アルファロメオも2027年までに全モデルをEV化する方針を明言している。
次期ステルヴィオに搭載されるプラットフォームは、おそらくステランティスの新世代BEVアーキテクチャ「STLA Large」と予想される。最大800kmの航続距離、急速充電対応、そしてハイパフォーマンスモデルにも対応できるこのプラットフォームは、アルファロメオの「走りの哲学」を電動化時代にも継承する上で、理想的な選択だ。
特に注目されているのが、「Quadrifoglio(クアドリフォリオ)」モデルの電動化だ。従来は510馬力の2.9L V6ツインターボを誇っていたが、EV版では最大出力が1000馬力に達するとも噂されている。これはTesla Model X Plaid、あるいはBMW iX M60といったライバルに真っ向勝負を挑む意図が透けて見える。
なぜ今「BEV × クーペSUV」なのか?
市場の観点から見ても、BEVとクーペSUVの組み合わせは時代の要請に応える選択だ。まず、SUVの中でもクーペスタイルは差別化が容易で、プレミアム市場での競争優位性を持つ。また、BEVにおいては空力性能が航続距離に直結するため、クーペの流線型ボディは合理的な選択とも言える。
さらに、BEVにありがちな「無個性」なデザインへの反発として、アルファロメオのような情熱的デザインを打ち出すブランドには追い風が吹いている。EVであっても「魂のドライビングエクスペリエンス」を提供する──これがアルファロメオの差別化ポイントとなるだろう。
中国市場とBEV戦略
ステランティスは中国市場での再起を期しており、次期ステルヴィオのBEV展開は中国での存在感強化にも寄与する可能性がある。アルファロメオは中国市場では苦戦を強いられてきたが、BEVプレミアムSUVというカテゴリは急成長中であり、ステルヴィオはその突破口になり得る。
また、欧州では2035年に内燃機関車の新車販売が禁止される見通しであり、早期からBEVへの移行を進めることはブランド存続に直結する。さらに、アルファロメオは今後日本市場においてもEVシフトを進めることが予想され、特に都市部でのプレミアムEV需要に応えるラインアップとなるだろう。
独自分析:BEV×アルファロメオは成立するか?
懸念されるのは、「電動化されたアルファロメオに魅力はあるのか?」という疑問だ。音、振動、エンジンの鼓動といった「感覚的な歓び」はEV化によって失われがちである。だが、ここで求められるのは、「走りの楽しさ」の再定義である。
すでにポルシェやロータスといったスポーツブランドもEV時代への適応を進めており、「重量があってもドライバビリティは高い」という新たな文法が確立しつつある。アルファロメオも例外ではなく、軽量モーターのトルクレスポンスやシャシー制御技術、さらには人工音響のチューニングなどを活用すれば、「イタリア車らしいBEV」は十分に可能だ。
終わりに:ステルヴィオの再定義はアルファの未来
次期ステルヴィオの刷新は、単なるモデルチェンジではなく、アルファロメオというブランドの再定義でもある。クーペSUVへの変化はスタイルの象徴であり、BEV導入は時代への適応だ。そして、その背後には、「感情を揺さぶるクルマを作る」という、100年以上変わらぬブランド哲学がある。
EV時代にあっても「走りを愛するすべての人のためにある」──次世代ステルヴィオがそれを体現できるならば、アルファロメオは再びプレミアム市場の中心に踊り出ることになるだろう。