中国の電気自動車(BEV)産業は、急速な技術革新と政府支援を背景に、世界市場を席巻しつつある。その最前線に立つのが、BYD(比亜迪)、HUAWEI(華為)、XIAOPENG(小鵬)、NIO(蔚来)、ZEEKR(極氪)、そしてXIAOMI(小米)といった企業群である。彼らの競争力の源泉には、特許戦略に基づいた技術開発と事業戦略がある。本稿では、各社の特許情報と独自の取り組みから、その強みと潮流を読み解いていく。
BYD:自社技術の塊、特許で守られた垂直統合モデル
BYDは、世界最大のEVメーカーとして君臨する。最大の強みは、自社内でEVのほぼすべての構成要素を開発・生産する「垂直統合モデル」にある。特に、同社の代名詞である「ブレードバッテリー」は、安全性・エネルギー密度・コストの面で従来のリチウムイオン電池を凌駕し、既に自社車両の多くに搭載されている。
このブレードバッテリー関連の特許は数千件にのぼり、セル構造、熱管理、充放電制御に関する技術まで網羅している。また、BYDは「セル to パック」「セル to ボディ」など、車体とバッテリーを一体化する構造技術も強化しており、車両の剛性や安全性、軽量化に寄与している。これらは全て特許によって保護されており、他社の模倣を防ぐとともに、サプライチェーンでの交渉力を高めている。
HUAWEI:ICT企業の知見を活かした“スマートカーOS”戦略
通信機器で世界的な地位を持つHuaweiは、「自社で車は作らない」という姿勢を取りながらも、EV分野での存在感を着実に高めている。その核心は、車載OS「HarmonyOS」を中心としたソフトウェア技術と、自動運転、通信、クラウドに関する特許ポートフォリオだ。
特許出願の多くは、V2X(車車間・車路間通信)やセンシング技術、AIによる走行支援、OTA(Over The Air)アップデートに集中しており、これは同社のICT分野での知見がEVに応用されている証左だ。近年では、AITOブランドとの連携でEV「問界」シリーズを投入。ソフトウェア重視のUX(ユーザー体験)設計と、Huaweiの高性能チップ「MDC」(Mobile Data Center)による車載知能の強化で、市場からの評価も高まっている。
XIAOPENG(小鵬汽車):L4レベルを見据える先進運転支援技術
Xpengは、創業当初から“自動運転ファースト”を掲げ、開発の中心に先進運転支援技術を据えてきた。LiDAR、ミリ波レーダー、カメラなどを統合するXpilotシステムは、都市部における高度な自動運転機能(L2+~L3)を既に実現しており、上海や広州では一部地域で完全な自動走行テストも進んでいる。
注目すべきは、Xpengの特許出願の約60%が自動運転関連であること。中でも特徴的なのが、センサーの配置最適化や、複数のセンサーからのデータをリアルタイムに統合する“Fusion AI”技術に関するものだ。また、XpengはEVだけでなく空飛ぶクルマの開発も進めており、都市型モビリティの未来を見据えた野心的な企業といえる。
NIO:バッテリースワップを核としたエコシステム型モデル
NIOは「プレミアムEVブランド」として設計・デザイン・サービスに特化している。最大の特徴は、独自のバッテリー交換ステーション(Battery Swap Station)を全国に展開し、「充電を待たないEV体験」を提供している点だ。NIOの特許には、この交換ステーションのロボティクス制御や、バッテリーパックの標準化に関するものが多い。
さらに、車載AI「NOMI」による音声アシスタント、ソフトウェアによる運転支援(NIO Pilot)など、UXを強化する技術にも注力している。こうした特許戦略は、単なる“移動手段”ではなく、NIOを“サービスとしてのEV(EV-as-a-Service)”へと昇華させる方向性を示している。
ZEEKR(極氪):プレミアム・ハイパフォーマンスを追求する技術主導型
ZEEKRはGeely傘下で誕生した若いブランドでありながら、その技術力と製品力で注目を集めている。彼らの製品は800Vアーキテクチャ、高速充電(最大360kW)、長距離航続(1000km超)といったスペックでプレミアム市場に挑戦している。
特許分布を見ると、モーター制御やエネルギー効率最適化、バッテリーの温度管理に関する技術に集中しており、パフォーマンス重視のブランド姿勢がうかがえる。また、ZEEKRは欧州市場への進出を視野に入れており、グローバル規模での知財戦略も構築中である。2024年にはAI主導の自動運転システム「ZEEKR AD」を本格展開する予定で、自動運転分野でも後発ながら強い存在感を放ちつつある。
XIAOMI:IoT巨人の“スマートEV”構想
家電・スマートフォンメーカーとして成長してきたXiaomiは、2024年に初のEV「SU7」を発表。スマホとシームレスに連携し、エンターテインメント、ナビゲーション、スマートホーム制御などが統合された“スーパーアプリ的EV体験”を提案している。
Xiaomiの特許出願は、EVの根幹部品というよりも、UX設計、通信、クラウド連携、顔認証によるドライバー識別といったIoT志向が強い。つまり彼らの目指すBEVは、“走るスマートデバイス”であり、既存の自動車業界とは異なるベクトルで市場を切り拓こうとしている点がユニークである。
終わりに:BEV競争は技術×特許×体験価値の複合戦争へ
中国BEV企業の特許分析から見えてくるのは、単なるEV開発競争を超えた「未来のモビリティプラットフォーム戦争」である。それぞれが強みとする領域で独自の戦略を取り、ユーザー体験、サステナビリティ、ソフトウェア優位性など、多角的な価値創造に向けて動いている。
今後は、技術の高さだけでなく、それをどう守り、どう広げ、どうユーザー体験に昇華させるかが重要になる。特許情報は、その戦略の“地図”とも言える。2025年以降、この地図の先に生成を続ける。