ブリングアウト、複数面談のビッグデータを効率解析する技術の特許取得


人材採用における「面談」の在り方が、今、大きな転換期を迎えている。履歴書や職務経歴書といった定型情報では読み取れない人物像を、企業はより深く、多面的に把握しようとしている。そのため、1回の面談で即決するのではなく、複数の担当者による複数回の面談を通じて候補者を評価するケースが増加している。

こうした「複数面談」時代の課題は、面談記録の管理と評価の一貫性だ。面談官が異なれば、見る視点や質問の切り口、評価基準も異なる。そのため、候補者の全体像を組織としてどう評価し、最終的な意思決定につなげるかが難しくなっている。

この課題を解決する技術として注目されるのが、スタートアップ企業・ブリングアウトが開発し、2025年3月に取得した特許技術である。特許第7412312号に基づくこの技術は、複数の面談内容をビッグデータとして処理し、構造化された解析結果として出力するというものだ。面談データを「活用できる知」に変えるこの技術は、従来の「面談=属人的判断」の限界を乗り越える可能性を秘めている。

面談の“非構造化データ”を価値ある情報へ

従来、面談内容は主に「面談官の記憶」や「簡単な記録メモ」に依存していた。録音や録画が行われるケースもあるが、それらは再確認の材料に留まり、十分に活用されているとは言いがたい。面談中に交わされる発言、間、表情、沈黙、質問の応答順など、豊富な情報が含まれているにも関わらず、それらは「非構造化データ」として埋もれてきた。

ブリングアウトの技術は、音声認識、自然言語処理、評価軸の照合、そして面談者ごとのスコア比較といった一連の処理を通じて、非構造化データを構造化データへと変換する。この過程で、発言内容は意味単位で分割され、「論理的思考」「主体性」「協調性」といった評価項目にマッピングされていく。

たとえば、ある面談官が「候補者は質問に対して的確に返答した」と述べ、別の面談官が「抽象的な話に終始していた」と評した場合、ブリングアウトの技術はこれらを評価軸ごとに対照し、どの評価が強く出ているのか、また評価が割れているポイントはどこかを可視化する。人事担当者はこのデータをもとに、評価の根拠を把握しながら意思決定できる。

「評価のばらつき」を客観化する仕組み

特許技術のコアとなるのは、「複数面談の解析において、意味的・時系列的に情報を統合し、評価の整合性を導く」アルゴリズムである。面談者ごとに異なる時間・状況・質問内容で行われる面談記録を、同一人物に関するものとして統一的に処理し、「面談全体における候補者の特徴」を抽出する。

また、面談の時間軸に注目し、「序盤は緊張していたが、終盤にかけて論理的思考力を発揮していた」などの変化も数値化される。これにより、「その場の印象」に左右されがちな判断を補正し、候補者の本質的な特性を捉えやすくする。

さらに、特許の中では「評価傾向の類似性に基づいて面談官ごとの評価重みを調整する」技術も含まれている。すなわち、評価の一貫性が高い面談官のコメントは重視し、ばらつきの大きい評価は相対的に重みづけを低くする。これにより、個人の主観の強さに左右されず、組織としての合理的な評価判断が可能になる。

採用の現場における実用性と広がる応用領域

この技術が採用現場にもたらすインパクトは大きい。たとえば以下のような場面での活用が想定される。

  • 候補者ごとに面談スコアを可視化し、フィードバック材料として提供
  • 面談官ごとの評価傾向を分析し、評価のトレーニング材料に活用
  • 面談ログをAIにより分類し、面談評価会議の準備時間を短縮
  • 採用後のタレントマネジメントにおける特性データとしての利活用

また、退職面談や1on1面談など、社内で行われる非定型的な面談にも応用が期待される。ブリングアウトでは、これらの面談記録からも“組織知”を抽出し、人的資本の可視化に役立てる構想を持っている。

企業にとって、採用とは単なる人材の補充ではない。未来の経営資源を見極め、組織にフィットする人材を迎え入れる行為だ。そこには深い観察と多面的な評価が求められる。ブリングアウトの特許技術は、その「観察と評価」のプロセスをテクノロジーによって高精度・高効率に支援する。

採用の未来を支える「面談知」のインフラ化

今回の特許取得により、ブリングアウトは「面談を知に変える技術」の中核に立つことになる。同社はすでに大手企業との実証実験を進めており、2025年後半にはSaaS型のサービスとしてリリースを予定している。将来的には、大手採用管理システム(ATS)やビジネスチャットとの連携も視野に入れており、面談評価の“共通インフラ”となる可能性もある。

一方で、こうした技術の活用においてはプライバシーや倫理的配慮も不可欠だ。面談データは候補者にとってセンシティブな情報であり、その活用は透明性と同意に基づいた運用が前提となる。ブリングアウトでは、データの匿名化やセキュアな環境での解析を標準実装しており、「信頼できる採用AI」のモデルケースを目指している。

人材を“見抜く”という営みは、テクノロジーがどれだけ進歩しても最後は人の判断に委ねられる部分がある。しかし、判断の質を高めるための材料として、面談から得られる膨大な情報を活かせるかどうかは、今後の採用戦略を左右する要素となる。

「面談知」を可視化し、共有し、未来の人材選定に役立てる。ブリングアウトの技術は、まさにそのための“面談インテリジェンス”基盤となりうる。データドリブンな採用が進む中で、同社が描く「採用の未来地図」が、これからの人事部門のスタンダードを塗り替えていくかもしれない。

 


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