特許出願でEV技術の最前線へ!トヨタが欧州特許庁のランキングで2位


欧州特許庁(EPO)は2024年の特許指数を発表し、日本の自動車メーカー・トヨタ自動車が電気自動車(EV)関連技術において世界第2位となったことが明らかになった。本コラムでは、トヨタの特許出願動向、技術戦略、そして今後の展望について詳しく解説する。

1.トヨタの特許出願動向

EPOの発表によると、2024年におけるトヨタ自動車の特許出願数は、EV技術分野で世界第2位となった。

トヨタはこれまでハイブリッド車(HEV)を中心に電動化技術を推進してきたが、近年はEV技術への投資を加速させている。その結果、電池技術や駆動システムに関する特許の出願が急増している。

2024年の特許データを見ると、トヨタは特許出願公開件数で5825件を記録し、特許取得件数でも3073件と高水準を維持している。特に、全固体電池技術や高効率モーター技術、さらにはエネルギーマネジメントに関連する出願が目立つ。

2.トヨタの全固体電池開発と特許

EVの普及において重要な鍵を握るのがバッテリー技術であり、特に全固体電池(Solid-State Battery)は次世代電池として注目されている。従来のリチウムイオン電池に比べ、エネルギー密度の向上、安全性の向上、充電時間の短縮といった利点があり、多くの企業が研究開発を進めている。

トヨタはこの分野においても積極的に特許を取得しており、特許庁の調査では全固体電池に関する国際的な特許出願件数でパナソニックに次ぐ第2位となった。これは、同社が次世代EVの開発に向けて戦略的に特許ポートフォリオを構築していることを示している。

トヨタは2027年までに全固体電池を搭載したEVの市場投入を計画しており、2024年現在も試作開発が進行中だ。特許の取得と実用化の両輪で、競争力を高めている。

3. 特許の無償開放と業界への影響

トヨタは過去に電動化技術に関する特許約2万3740件を無償開放するという大胆な戦略をとった。この動きは、業界全体の技術革新を促進し、EV市場の拡大を図る狙いがあると考えられる。

特許の無償開放は、競争の激しいEV市場において、トヨタが「オープンイノベーション」の精神を取り入れていることを示すものであり、他社にとっても技術開発の指針となる。また、トヨタとしては、自社の技術標準を業界内で確立し、サプライチェーンの一部として他企業と連携しやすくする狙いもある。

この戦略は、テスラが2014年に特許を無償開放したことと類似しており、EV技術の普及を後押しする要因となるだろう。

4.トヨタの今後の展望

トヨタはEV市場での競争が激化する中で、どのような戦略をとっていくのか。現在の特許動向から見えるトヨタの今後の展望を考察する。

(1)全固体電池の実用化と商業展開

前述の通り、トヨタは2027年を目標に全固体電池の量産化を進めている。もしこの技術が実用化されれば、現在のEVの課題である航続距離の短さや充電時間の長さが大きく改善され、EV市場のゲームチェンジャーとなる可能性が高い。

(2)EV以外の電動化技術の推進

トヨタはEVだけでなく、HEVや燃料電池車(FCEV)にも注力している。同社は「マルチパスウェイ戦略」を掲げ、バッテリーEVだけでなく、ハイブリッドや水素燃料電池車の開発も進めている。今後も、さまざまな電動化技術を組み合わせた車両の開発が加速することが予想される。

(3)知財戦略の深化

特許出願の増加は、企業の技術力の向上を示すと同時に、競争優位性を確立するための重要な指標でもある。トヨタは特許の取得だけでなく、技術の標準化を狙った特許ポートフォリオの形成にも注力している。たとえば、EVの充電インフラやバッテリー管理システムなど、業界全体に影響を与える技術に関する特許を取得し、業界の中心的な存在としての地位を固めようとしている。

(4)パートナーシップとアライアンスの強化

トヨタは単独での開発だけでなく、他企業との提携を積極的に進めている。特にバッテリー技術に関しては、パナソニックとの協力が深まっており、今後のEV開発においても重要なパートナーシップとなるだろう。また、スタートアップ企業との連携も視野に入れ、新たな技術開発のスピードを加速させている。

まとめ

2024年の欧州特許庁の発表により、トヨタ自動車がEV技術分野で引き続き高い競争力を維持していることが明らかになった。同社は特許出願を通じて技術力を強化し、全固体電池や電動化技術の開発に注力している。

さらに、特許の無償開放や業界との連携を通じて、EV市場全体の成長を促進する姿勢を示している。今後の技術開発と市場での動向から目が離せない。

トヨタの次なる一手は何か。特許戦略と技術革新が、自動車業界全体にどのような影響を与えるのか、今後も注視していきたい。


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