実用新案権


実用新案権とは

実用新案権とは、物品の形状、構造または組み合わせに係る考案であって、産業上利用することができるものを保護対象とする知的財産権です(実用新案法第2条第1項)。ここでいう「考案」とは、自然法則を利用した技術的アイデアのことを指し、いわばモノに関する“ちょっとした工夫”を保護する制度です。特許と比べて、技術的に高度である必要はなく、現場で生まれる実用的な改善や便利な仕組みも対象となります。

たとえば、折れにくい傘の骨の構造や、工具なしで簡単に取り付けられる棚の仕組みなど、製品の形や構造に関する工夫が挙げられます。また、実用新案には特許と異なり、審査を経ずに登録される点が特徴で、出願から数か月で権利化が可能です。保護期間は出願日から10年(特許は20年)と比較的短めですが、短期間で市場に投入する製品にとっては有効な保護手段となります。

製品の差別化や、模倣品対策として実用新案を活用することは、特に中小企業やスタートアップにとって現実的かつ戦略的な知財活用といえるでしょう。

 

実用新案権は出願したらすぐに取れるのか?

実用新案権は、特許とは異なり審査が不要な「無審査登録制度」を採用しています。つまり、出願した内容が法律上の形式や要件を満たしていれば、約2~3か月程度以内(早ければ1か月)に登録されるのが一般的です。審査官による「新しさ」や「進歩性」のチェックが行われないため、非常にスピーディーに権利化できます。

ただし、注意点もあります。無審査で登録されるということは、登録された=有効な権利とは限らないということです。将来、他社を警告したり差し止め請求を行う場合には、その前に「技術評価書」を取得して、登録された考案の有効性を客観的に示す必要があります。この評価書は、実質的に特許でいう審査のような位置づけになります。

実用新案権を取るにはいくらかかるのか?

実用新案権の取得には、以下のような費用が発生します。
※費用は2025年4月時点の日本国内における概算です。

■ 出願時の費用(特許庁に支払う費用):

  • 出願料:14,000円

  • 登録料(1〜3年分):5,400円 × 請求項の数(請求項1個の場合=5,400円)

※実用新案は登録と同時に最初の3年間分の登録料を納める必要があります。

■ オプション費用:

  • 技術評価書請求:42,000円 (将来、他社に警告などを行う前に必要になることが多い)

■ 代理人費用(弁理士に依頼する場合):

  • 出願書類の作成:5万〜15万円程度が一般的です。
  • 技術評価書の請求代行やアドバイスも、別途料金が発生します。

実用新案権の出願前にやるべきこと

実用新案権は、製品や構造のちょっとした工夫を素早く保護できる便利な制度です。しかし、出願すれば必ず価値のある権利になるとは限りません。せっかく出願するなら、無駄なく、しっかり守れる権利にしたいものです。以下は、実用新案出願前にやっておくべき基本的なステップです。

1. 考案内容の整理と明確化

まず最初に、保護したい「考案(アイデア)」が実用新案の対象に該当するかを確認します。実用新案の対象は「物品の形状、構造または組み合わせ」に限定されており、ソフトウェア単体や方法そのもの、自然法則を利用しないアイデア(例:ビジネスモデルだけ)は対象外です。

次に、そのアイデアがどのように製品に組み込まれているのか、図やスケッチを用いて具体的に表現しましょう。後の書類作成がスムーズになります。

2. 類似技術の調査(先行技術調査)

すでに同じような考案が他人によって登録されていないかを確認することは非常に重要です。たとえ無審査で登録されたとしても、既存の技術と同じ内容であれば無効とされるリスクがあります。

調査には、特許庁の「J-PlatPat」などの無料データベースを活用できます。自分で調べるのが難しい場合は、弁理士や知財コンサルタントに相談するのも一つの手です。

3. 秘密保持の徹底(公知にしない)

実用新案も特許と同様に、「新規性」が重要です。出願前に展示会やSNS、クラウドファンディングで公開してしまうと、登録できなくなる可能性があります。

出願前に製品を公開する必要がある場合は、事前に出願を済ませるか、秘密保持契約(NDA)を交わすなど、情報管理を徹底しましょう。

4. ビジネスとの位置づけ確認

その考案が、ビジネス上どのような役割を果たすのかも整理しておきましょう。

  • 製品のコア技術か?
  • 差別化ポイントか?
  • 顧客が重視する使いやすさの工夫か?

これを明確にすることで、「出願する価値があるか」「将来的に権利を使う場面があるか」を見極められます。

5. 書類作成と出願戦略の検討

最後に、出願に必要な書類(願書・明細書・図面など)を準備します。自力での出願も可能ですが、権利としての質を高めたい場合は弁理士に相談することをおすすめします。また、複数の改良アイデアがある場合は、どの部分から出願すべきか、段階的に出すべきかといった戦略の検討も重要です。

実用新案の申請方法 ― 書類申請と電子申請の違いと手順

実用新案を出願する際には、「紙による書類申請」または「オンラインによる電子申請」のいずれかの方法を選択できます。それぞれに特徴やメリット・注意点がありますので、事業の状況に応じて適切な方法を選びましょう。

① 書類申請(紙出願)の方法

【こんな人に向いています】

  • 電子証明書や出願ソフトの準備が難しい
  • 出願回数が少なく、スポット的に利用する
  • 専門家(弁理士)に紙で提出してもらう予定

【手順】

  1. 書類の準備
     願書、明細書、図面(必要に応じて)、要約書を作成。すべてA4サイズで印刷し、綴じずに提出します。原則として黒インク・白紙で印刷します。

  2. 提出先の記載
     封筒には赤字で「実用新案登録出願書類 在中」と記載。差出人情報も明記します。

  3. 提出先の住所
     〒100-8915
     東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
     特許庁 実用新案課 宛

  4. 手数料の納付
     紙出願の場合は、納付書を作成して金融機関で払い込みます。出願料(14,000円)と登録料(5,400円×請求項数)を併せて支払います。納付書の控えを保存しておきましょう。

  5. 受付証明書の受領
     出願書類が受理されると、受付番号が付与された証明書が送られてきます。

【注意点】

  • 郵送トラブルを避けるため、簡易書留や書留速達が推奨されます。
  • 記載内容に不備があると「補正命令」が届くことがあるため、提出前の最終チェックが重要です。

② 電子申請(オンライン出願)の方法

【こんな人に向いています】

  • 出願を複数回行う予定がある
  • 全国どこからでも効率的に申請したい
  • 電子化に慣れている、またはGビズIDを持っている

【手順】

  1. 出願環境の準備
     電子出願には以下が必要です:
     - 電子証明書(マイナンバーカードなど)
     - ICカードリーダー
     - 特許庁の電子出願ソフト(最新版)
     - 「e出願用アカウント」(利用者登録)

  2. 電子出願ソフトのインストール
     特許庁のサイトから電子出願ソフト(インストール型ソフトウェア)をダウンロード・セットアップします。

  3. 書類の作成(データ形式)
     願書、明細書、図面、要約書を所定の電子フォーマットで作成します。ファイル形式はXMLやPDFに対応しています。

  4. 出願データの送信
     ソフトを使って、特許庁のサーバに直接提出します。提出後、受付番号や提出日が即時に通知されるため、管理がしやすくなります。

  5. 手数料の電子納付
     オンラインバンキングやインターネットバンキングを使って、出願料・登録料を納付。納付状況はオンラインで確認可能です。

【メリット】

  • 出願手続きが迅速かつ管理しやすい
  • 受付確認が即時に取れる
  • 書類の記載ミスを事前にチェックする機能もある

【注意点】

  • 初期準備(ソフトのインストール、設定)がやや煩雑
  • ICカードリーダーや電子証明書の取得が必要
  • オンラインに不慣れな方にはハードルが高く感じることも

スタートアップや新規事業で1件だけ試験的に出願する場合は、書類申請でも十分対応可能です。
一方で、複数のアイデアや改良案を継続的に出願する予定がある場合は、電子申請を整備しておくことで効率が格段に上がります。

 

実用新案権の権利行使方法 ― 詳細解説

実用新案権を取得した場合、その権利は「自己の発明を独占的に利用できる」ことを意味しますが、その権利をどのように行使するかは状況によって異なります。ここでは、実用新案権をどのように使い、他者の侵害に対してどのように対応するかについて詳しく説明します。

■ 実用新案権の基本的な行使方法

実用新案権を行使するためには、主に以下の方法があります

1. 製品や技術の独占的利用

実用新案権を持つことにより、その考案に基づいた製品や技術を独占的に利用することができます。権利を活用して、自社製品の製造や販売を行う、またはサービスを提供するなど、事業活動を進めていきます。

  • 自社での製造・販売
    実用新案を活用して、自社で製造・販売する製品や技術の差別化が可能です。競合他社が同じ技術を使えないため、競争優位性を持つことができます。

2. ライセンス契約による収益化

他社に対して実用新案権を許可するライセンス契約を結ぶことができます。ライセンス契約により、権利を使用する権利を他者に提供し、その対価としてロイヤリティを受け取ることができます。

  • 独占ライセンス:他社に独占的に使用を許可する契約
  • 非独占ライセンス:複数の企業に使用を許可する契約

ライセンス契約は、特に製造リソースが限られている企業にとって、技術やアイデアを他社に活用させる一方で、収益を得る方法として有効です。

3. 製品や技術の販売

実用新案権を使って、その製品や技術を他社に売却することもできます。売却することで、権利を一度にお金に換えることができ、その後の権利管理から解放されます。買い手はその技術を自由に利用できることになります。

■ 実用新案権の侵害対応方法

実用新案権を取得した後、他者がその権利を侵害した場合、いくつかの対応方法があります。

1. 警告書の送付

他社が自社の実用新案を無断で使用している場合、まずは「警告書」を送付するのが一般的です。警告書は、相手に対して自社の権利侵害を知らせ、侵害をやめさせるための公式な通知です。

警告書には、侵害している製品や行為を特定し、侵害をやめるよう求める内容を記載します。さらに、侵害停止を求めるとともに、損害賠償の請求を示唆することもあります。

2. 差止請求(訴訟)

もし警告書に従わない、または侵害行為が続く場合、裁判所に対して差止請求を行うことができます。差止請求は、侵害行為の停止を求める法的手続きです。

差止請求を行うには、裁判所に訴えを起こし、相手が自社の権利を侵害していることを立証する必要があります。裁判所が差止命令を下すと、相手はその行為を停止しなければならなくなります。

3. 損害賠償請求

実用新案権を侵害された場合、その損害について損害賠償を請求することができます。損害賠償の額は、実際に発生した損害額(実損害)や、侵害によって得られた利益(利益損失)に基づいて決定されます。

  • 侵害によって販売された製品の利益や、侵害行為を停止するためにかかったコストなどが賠償対象となります。
  • 侵害者が意図的に行った場合は、損害賠償額が増額されることもあります。

■ 実用新案権の強化 ― 技術評価書

実用新案権の権利行使を行う際、第三者に対してその権利の有効性を証明するために「技術評価書」を取得することもできます。

技術評価書は、特許庁に依頼して出願した実用新案について、その新規性や進歩性を第三者に証明してもらうための文書です。これにより、他社に対して実用新案の権利が有効であることを立証でき、権利行使の強化につながります。

■ 実用新案権の商業的活用

実用新案権は、特許と異なり、技術的には比較的簡便に取得できるため、スタートアップや中小企業にとって非常に有効な知財ツールです。技術力がある企業が自社の製品や技術に対して権利を確保し、その権利を活用して収益を上げたり、他者に提供したりすることは、事業の成長に大きく貢献します。

具体的には:

  • 新製品を市場に投入する前に、競合からの模倣を防ぐ
  • 提供する技術やアイデアをライセンス契約で収益化
  • 他社製品への技術提供や共同開発に活用

など、多くの選択肢があります。

まとめ

実用新案権は、低コストかつスピーディーに取得できる知的財産権であり、プロダクトの独自性を守るための有効な手段です。権利取得後、技術評価書の取得やライセンス契約などを通じて権利を商業化することが重要であり、侵害への対応策も考慮する必要があります。スタートアップや中小企業にとって、実用新案権は競争力を維持・強化するための強力なツールとなり得ます。


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