ノーベル物理学賞で話題「ペロブスカイト型太陽電池」の技術解説まとめ


ペロブスカイト型太陽電池とは?

ペロブスカイト型太陽電池とは、次世代の太陽電池として注目を集めている新しい技術であり。シリコンを基材とする従来の太陽電池と比較して、低コストで効率的に電力を生成できることから、研究開発が急速に進んでいます。「柔軟で曲げられる太陽電池の製造が可能」になることが特徴で、さらに光エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換できる特性も持っています。

ペロブスカイト型太陽電池の原理

ペロブスカイト型太陽電池は、その名前の由来となった「ペロブスカイト構造」を持つ材料を使っており、ペロブスカイトとは、酸化チタンカルシウム(CaTiO3)に代表される結晶構造のことで、特定の原子配列を持つ化合物を指します。この構造は、光を効率的に吸収し、電子と正孔を発生させる能力に優れています。

太陽光がペロブスカイト材料に当たると、光子が吸収され、励起された電子が材料内部で移動し、この電子移動が電流となり、外部回路で電力として取り出されるのです。

シリコン太陽電池と異なり、ペロブスカイト材料は非常に薄く作ることができるため、より軽量で柔軟なデザインが可能です。

さらに、ペロブスカイト材料は比較的容易に作成できるため、生産コストが低く抑えられ、さまざまな基材に適用できるという利点があります。

ペロブスカイト型太陽電池の特徴

・高い変換効率
ペロブスカイト型太陽電池の最大の特徴は、変換効率の高さです。研究が始まった当初、ペロブスカイト型太陽電池の変換効率は数パーセントに過ぎませんでしたが、急速に技術が進展し、現在では25%以上の効率を達成するものもあります。これは、シリコン太陽電池に匹敵する効率です。

・製造の簡便さと低コスト
ペロブスカイト材料は、溶液プロセスを利用して容易に成膜できるため、製造コストが大幅に削減されます。シリコン太陽電池の製造に必要な高温・真空プロセスに対し、ペロブスカイト型太陽電池は低温で製造可能です。これにより、大量生産が可能となり、太陽電池の普及が加速することが期待されています。

・柔軟性と応用の広がり
ペロブスカイト材料は、ガラスやプラスチックなどの基材に成膜できるため、柔軟で曲げられる太陽電池の製造が可能です。これにより、建物の窓や車のボディ、さらには衣服にまで応用が期待されています。従来の太陽電池では実現できなかった新しいデザインや用途が生まれるでしょう。

ペロブスカイト型太陽電池のメリット

・環境への配慮
ペロブスカイト型太陽電池は、少量の材料で高い変換効率を実現できるため、資源の利用効率が高いです。また、シリコン太陽電池と比較して製造時のエネルギーコストが低く、環境への負荷が少ない点も魅力です。これにより、持続可能なエネルギーソリューションとして期待されています。

・多様な用途への展開
柔軟性や透明性を持つペロブスカイト型太陽電池は、ビルの窓やカーテンウォール、携帯電子機器の充電用パネル、さらにはウェアラブルデバイスへの応用も期待されています。軽量でありながら効率的なエネルギー生成が可能なため、これまで太陽光発電が難しかった分野への展開が加速するでしょう。

ペロブスカイト型太陽電池の課題

・耐久性の問題
ペロブスカイト型太陽電池の最大の課題の一つは、耐久性です。特に湿気や高温環境での安定性が低く、性能が劣化しやすいことが指摘されています。現在の技術では、数年で劣化してしまうことが多く、商業化には長期的な耐久性を向上させる技術が必要です。

・鉛の使用
ペロブスカイト材料には、鉛が含まれているものが多く、環境や健康への影響が懸念されています。鉛を含まないペロブスカイト材料の開発が進められていますが、現時点では鉛を使用したものの方が変換効率が高い傾向にあります。環境への配慮と高効率の両立が、今後の技術開発の課題です。

今後の展開

ペロブスカイト型太陽電池の技術は、急速に進歩しており、今後さらなる効率向上と耐久性の改善が期待されています。特に、シリコン太陽電池と組み合わせた「タンデム型太陽電池」は、理論的には30%以上の変換効率が可能とされています。これにより、既存の太陽電池技術との相乗効果が期待でき、商業化が加速する可能性があります。

また、製造コストの低さから、発展途上国や遠隔地での利用にも期待が高まっています。従来の太陽電池よりも軽量で運搬が容易であり、現地での設置が簡便なため、エネルギーインフラが十分でない地域でも活用できるでしょう。

さらに、都市部での建物一体型太陽光発電(BIPV)や自動車のボディに組み込むソーラーパネルなど、新しい用途が広がることで、エネルギー自給率の向上に貢献することが期待されます。特に、スマートシティ構想や電気自動車の普及と組み合わせることで、より持続可能なエネルギー社会の実現が可能になるでしょう。

ペロブスカイト型太陽電池の特許について

日本におけるペロブスカイト型太陽電池の特許については、複数の重要な分野で強力なポートフォリオが構築されています。特に、基礎的な特許に関しては、日本と欧州が優位に立っており、これに加えて日本企業は改良や量産技術に関する特許を多数取得しています。これにより、日本は包括的な特許戦略を持ち、世界の競合企業と差別化できています。

代表的な特許には、京都大学発のスタートアップ企業であるエネコートテクノロジーズが挙げられます。この企業は、ペロブスカイト型太陽電池の事業化に向けて多くの投資を集めており、フィルム型ペロブスカイト太陽電池に強みを持っています。また、フィルム型太陽電池は、軽量で設置が簡単なため、建築物やインフラ施設に活用されることが期待されています。

経済産業省もフィルム型太陽電池の開発支援を進めており、これは日本の素材技術の強みを最大限に活かすための戦略的な取り組みです。フィルム型太陽電池の低コストや量産性も、特許戦略の一環として重要視されています。

これらの取り組みが進む中、日本はペロブスカイト型太陽電池の技術で国際競争力をさらに高め、エネルギー自給率の向上にも貢献することが期待されています。

ペロブスカイト型太陽電池は、その高効率、低コスト、柔軟性などの特性から、太陽光発電の次世代技術として注目されています。しかし、耐久性や鉛の使用といった課題もあり、商業化に向けた技術的な改善が必要です。 課題を解説する技術が発明されれば、より重要な特許となる可能性を秘めています。


ライター

渡部一成

株式会社白紙とロック代表取締役

高校卒業後、20歳で起業しwebマーケティングや商品開発に関するコンサルティング事業を15年間経営。
さらに、バンコクでスタートアップ企業を設立し、海外でIT関連のプロダクト開発を経験。
その後、大手IT企業に特許を売却し、その資金で株式会社白紙とロックを設立。
創業後も複数の特許を取得。 その他にも、新規事業の立ち上げや、医療法人理事、大学で特別講師として授業を行うなど多角的に活動中。




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