今回のコラムは、JR東海(東海旅客鉄道株式会社)が2004年に出願し、2011年に特許化された技術について紹介します。この技術は、冬季の鉄道運営において大きな課題となっている、鉄道車両への着雪をいかにして防止するかというものです。融雪や着雪防止のための発熱部と、その駆動電力を供給する発電部を核としており、熱電効果(ゼーベック効果)を活用する点が大変ユニークです。
なお、この特許は、現在は権利が消滅しており、誰でも利用可能なフリーテクノロジーとなっています。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-4664632/0541BFE36D27E73A16FA7434048EFC522FA37B1D8C79CB2B272EF0273257C2A5/15/ja
ゼーベック効果とは
上述のとおり、この特許発明の中心にあるのは、熱電効果(ゼーベック効果)です。これは、異なる金属または半導体間に温度差がある場合、電圧が生じる現象を指します。身近な例では、温度の測定などに用いる熱電対にこの原理が活用されています。このゼーベック効果を利用することで、温度差を直接電力に変換することが可能になります。JR東海のシステムでは、この原理を用いて、鉄道車両の走行中に自然に発生する熱(例えばモーターやエンジンからの熱)を利用して電力を生成し、融雪や着雪防止に必要なエネルギーを得るのです。
【熱電素子を用いた本発明の概略図】
熱発電システムの概要
このシステムは、熱電素子を用いて温度差から電力を生成し、その電力を融雪や着雪防止のために利用します。このプロセスは、熱電素子によるゼーベック効果を利用しており、発電部と発熱部の両方に熱電素子が使用されています。
具体的実施形態
発電部と発熱部は電気的に接続され、発光ダイオードを通じて動作状態が視覚的に識別できます。このシステムは特に鉄道車両に適用され、車両の走行に用いられるモータの動作に伴って自然に発生する熱を利用して効率的に発電します。これにより、車両の床下部分などの雪や氷の付着を防ぎ、安全な運行を支援します。
安全性と効率性
この特許で提示されたシステムは、温度差がなくなると自動的に発熱が停止するため、安全性が高く、無駄なエネルギー消費を防ぎます。また、家屋に応用された場合においても、内外の温度差を利用して効率的に発電し、屋根上の雪を溶かすなどの応用が可能です。
実用化されたかは疑問
上述のとおり、この特許は権利期間満了を待たずに権利消滅しています。
ゼーベック効果に関する一般的な問題点および課題として、発電効率、材料、コストなどの問題が常に挙げられます。現状、最も大きな問題点は、エネルギー変換効率が低い点です。多くの熱電材料では、変換効率は10%以下であり、これは他の発電方法と比較しても低い値です。また、必要な材料としては希少で高価な原料を使用せねばならず、トータルコストとして見合わないという問題もあります。
しかしながら、今後の社会課題を考えるにあたり、JR東海の革新的なアプローチは、鉄道業界における技術革新の先鞭として、優れた例といえるでしょう。今後のさらなる進歩が期待されます。