「住まい」の新たな価値観~注目の3Dプリンター住宅はこれからのスタンダードとなるか

らいおんハート整骨院 長野県佐久平本院(写真撮影/渡部茂夫)

3Dプリント技術の進化は著しく、従来は手のひらサイズのデータを出力するのが限界とされていたが、今では家一軒を丸ごとプリントアウトする技術が登場している。昨年の10月、セレンディクス(本社:兵庫県西宮市 代表:小間裕康)が一般販売を開始した驚きの3Dプリンターによる建築物「serendix10」。最初耳にしたときは「その手があったのか」という驚きで、発表以来数々のメディアにも取り上げられ筆者も興味津々で注目していた。先ごろ、近くまで行く機会があり足を伸ばして、3Dプリンター住宅に視て触れてきた。

それはセレンディクスの「serendix10」竣工第1号、また商用店舗として初の3Dプリンター施設で、建築物は長野県佐久市内に今年の6月完成している。北陸新幹線の停車駅の佐久平駅から歩いて5分ほどの幹線道路沿いで、周りの町並みの中ではひときわ目立っていた。

今回竣工した〈serendix 10〉は、介護や整骨鍼灸、リラクゼーション事業を展開するカスケード東京(本社:東京都港区)が購入したもので、住宅や事務所ではなく整骨院の施術スペースとして使用される予定だとか。近未来的な外観を生かし、EMSトレーニングスーツを用いた先進的なトレーニングや、非日常のリラクゼーション体験などに提供する着眼点がすばらしい。

この〈serendix 10〉に続きさる7月25日、愛知県小牧市で日本初となる2人暮らし向けの3Dプリンター住宅が竣工され、さらに大きな反響となっている。

この3Dプリンター住宅だが、3Dプリンター住宅メーカーとして2018年に創業したセレンディクスによるとその最大の売りは、車を買うような感覚で家を買うことを目指すとし、広さ10m²の住宅を300万円で建てることを目標に開発され、数十年にわたる住宅ローンの負担から人々を解放するとして、高い関心を集めている。

その「価格」、最低でも数カ月間かかる住宅建設を数日間で完遂できるというだけでも、現場での作業時間等を大幅に減らせるため、資材価格や物流費、人手不足などによって建築コストが上昇している今、3Dプリンター建築はその打開策としても期待できるのは確かだ。

買う側にとっては「価格」と同時に圧倒的に短い工期はもちろん魅力的で、その普及へのインパクトには十分だが、それらは開発側のロジックであって、少し気になるのは本来住まいに求めるひとの感性的満足「住み心地」を提案するものではないが、はたしてどうなのか。

このように日本では販売に向けた準備が進んではいるが、アメリカ、ロシア、ドバイ、オランダなど3Dプリンター先進国ではすでにその建造物の販売は始まっている。日本でも具体的な施工をきっかけに法整備や技術革新がさらに進めば、この技術は間違いなく次世代建築の選択肢のひとつになるだろう。

住宅と言えば、アメリカでは移動できる小型住宅「タイニーハウス」が人気で、もちろん住所を持たないで暮らすモバイルハウス(キャンピングカー)での生活も本場だ。2年も3年も家を持たないでモバイルハウスで全米を移動しながら気に入ったところで暮らすわけで、「住宅」はまさしくライフスタイルそのものだ。

日本では一生かけて住まいを持つことが戦後、住宅に対する価値観だった。また日本では築30年40年の中古住宅の多くは取り壊して建て替えて「自分の住みたい家」に住む、となる。一方、アメリカでのリノベーションの目的は「住んでる家を価値高く転売する。そのための実現手段」だ。つまり資産であり投資なのだ。日本でもコロナ禍を境に働き方や移住も含めて「住まう=住宅」ことへの意識が大きく変わり始めている。

3Dプリンターの技術進化は住宅を「建てる」から「造る」に変革させるインパクトはある。しかもこの建造物はとても堅牢で、資産価値・投資価値は高い。など、それは単に住宅の選択肢だけでなく「生き方」へインパクトにおいても目が離せない。と同時に「住宅」に対する価値観も大きく変えるであろう「3Dプリンター住宅」、これからも興味深くウオッチしていきたい。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。


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