店舗からネットへ、総合から専門・単品へ、価格訴求から感動訴求へ


さる3月10日、イトーヨーカ堂創業者でセブン&アイ・ホールディングス(HD)名誉会長の伊藤雅俊氏が死去しました。折しも、前日の3月9日、セブン&アイ・ホールディングスは総合スーパー、イトーヨーカ堂の店舗を2026年2月末までに2割超削減すると発表している。これで現在126店舗あるヨーカ堂は首都圏を中心に93店舗となり、直営のアパレルからは完全撤退し食品中心の運営にシフトするとしている。また、同時に創業者の次男の伊藤順朗氏が4月1日付で代表取締役に就任すると発表されていることにも反応してしまった。

ヨーカ堂やダイエーに代表される総合スーパーは90年ごろまでは飛躍的に拡大を続けたが、バブルが崩壊したと同じころには右肩上がりの時代に陰りが出て来る。この「総合」とは、総合品揃えのことで、食品からアパレル、家庭雑貨と何でもワンストップで購入できる総合品揃えのことだ。同じように総合品揃えでは、百貨店の縮小もそうだし、かつて通販専業で上場を果たしたセシール、千趣会、ニッセンの御三家も総合品揃えのカタログ通販で70年代から90年代に拡大し、その後その事業規模は大幅な縮小に至っている。

小売り業におけるいわゆる「総合」の終焉は、安い・便利だけの業態拡大モデルの終りともいえ、百貨店、通販といった業態においてはすでに言われて久しく、総合スーパーも同じだった。今回のイトーヨーカ堂の経営不調での店舗2割削減は最後の総合スーパーの終焉といえる。

「総合」に代わるのが「専門」であり「単品」だ。「総合」は普通の商品がなんでもある多くの品揃えで客を呼ぶため特徴がなく、すぐに競合になる。すると規模による販売力を背景に安易に価格訴求に走る。確かに「安い」は誰にとっても魅力的だ。しかも世界の工場=中国の恩恵で一気に拡大できた。つまり価格価値は知恵を絞らなくても仕入れの仕方を変えることで誰でも安易に実現できた時代である。するとすぐに安くて当たり前になって粗利を落として価格設定しなければなくなる悪循環に陥る。

「総合スーパー」の終焉と言っても小売り業全体では二周遅れ、三周遅れの話しで、店舗と通販のすみ分けと共存も進み、ユニクロやニトリ、ドン・キホーテ、マツモトキヨシ、家電量販店の台頭のように売り方も商品=価値もスピード感を増して進化し続けている。

普通の商品が何でもある品揃えといえばAmazonも総合品揃えのネット通販だ。通販市場は1998年Amazonジャパンが法人設立から一気にネット通販の時代に入り、わずか20年余りの2021年には約20兆円を超える規模に拡大した。これは小売り市場全体が縮小している中、カタログ通販中心からネット(EC)へと媒体が移行し、その利便性と安心感の進化によって店舗から通販へ購入の手段が急速に移り、そのスピードはコロナ禍でますます加速した。

同時にEC拡大では総合から専門・単品へと安さ・便利さだけではなく、ストーリーのあるモノ、二ッチなものまで低コストで出店できるメディア特性も業態成長の大きな要因だ。いわば、総合スーパーに何でも売ってるではなく、ネット通販ではひとりひとりにとってホントに欲しいもの、欲しかったものが検索でき1回のクリックで手に入る業態になっている。それを牽引したのがAmazonだ。もちろん業態拡大時におけるAmazonも総合品揃えだが、ZOZOはアパレルの専門ネット通販だ。ヨドバシカメラもネット通販は順調だ。総合はガリバーのAmazon一社で、追随するのは専門通販と個性的な単品通販だ。

ちなみに、ネット通販での1クリック購入、これはAmazonが開発し日本では2012年3月に「1クリック特許」が認められている。この特許によってAmazonは競合のないサービスを提供、その拡大におおきなアドバンテージとなったことに疑いはない。これからは小売業においても知財戦略は重要なキーになる。

小売業は「業態=売り方」の開発と拡大」と「商品=価値」の開発だ。店舗は無くならないしネット通販の拡大はまだまだ続く。「専門」とか「単品」、店舗はそれだけで客を呼ばなきゃいけない。時間とコストをかけて「お店」まで行く、行きたい。それはそこに感動の提案・発見・体験があるからではないか。
いまや小売業は業態開発・拡大の業にあらず、独自のマーチャンダイジング(MD)力ありきの業となっている。

イトーヨーカ堂はアパレルから撤退し食品にシフトしてゆくとしているが、それはそれで先行している食品スーパーの「専門」に勝てるのかということでは先行き楽ではない。


ライター

渡部茂夫

SHIGEO WATANABE

マーケティングデザイナー、team-Aプロジェクト代表

通販大手千趣会、東京テレビランドを経て2006年独立、“販売と商品の相性” を目線に幅広くダイレクトマーケティングソリューション業務・コンサルティングに従事。 通販業界はもとより広く流通業界及びその周辺分野に広いネットワークを持つ。6次産業化プランナー、機能性表示食品届出指導員。通販検定テキスト、ネットメディアなどの執筆を行う。トレッキングと食べ歩き・ワインが趣味。岡山県生まれ。




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