アウトソール(ラバーソール)の知財ミックス事例


皆さん、こんにちは、弁理士の杉浦(パテ兄)です。今回も、日本弁理士会が発行した「ヒット書品はこうして生まれた!ヒット商品を支えた知的財産権 日本弁理士会」の中から面白かった事例について取り上げたいと思います。

靴はアッパーやソールなど様々なパーツが組み合わさって構成されていますが、それぞれパーツごとに製造者が異なっていたり、こだわりがあったりします。

今回のミックス事例は日進ゴム株式会社さんのHypaerVの知財ミックス事例をご紹介します。

商標

まずは、「HypaerV」というのは日進ゴム株式会社の登録商標です。
登録番号 第4910700号
商標権者 日進ゴム株式会社

日進ゴム株式会社は、このロゴ商標以外にも、①「HyperV」(25類、登録5147340)、②「ハイパーV」(25類、登録5154986)なども取得しております。ロゴ、アルファベッド、カタカナなど幅広く取得することで、大事なブランドを保護していると思われます。

意匠

次に意匠登録(デザイン登録)です。
登録番号 意匠登録1274590
意匠権者 日進ゴム株式会社

【正面図】

すでに存続期間満了により、権利が消滅しておりますが、最長の登録日から15年間年金納付を継続していたようです(当日の意匠法の保護期間は登録日から15年間、現在は出願日から25年に法改正されております。)。

物品は「靴底」として保護されておりました。ここで、面白いのが、物品が「靴」ではなく「靴底」となっているところです。意匠登録するパターンとして、
①物品「靴」の全体意匠
②物品「靴」でソール部分の部分意匠
③物品「靴底」で全体意匠
④物品「靴底」でソールの一部分の部分意匠の主に4パターンが考えられます。

今回は③のパターンで登録されておりますが、仮に他社がアッパーのデザインが異なる靴にこのソールデザインを採用しても、物品は非類似となって非侵害を構成ますが、利用侵害ということで最終的には侵害が認められる可能性があります。

このように意匠はとてもニッチな分野ありながら侵害予防にはとても効果的です。どのパターンで登録するかは“意匠を得意とする”弁理士と相談して決定されるのをおすすめします。

特許

次に特許です。
登録番号 特許第3959648号等
発明の名称 耐滑性靴底
特許権者 日進ゴム株式会社

この特許の内容は以下のとおりです。
「【請求項1】
基台部の長さ方向に所定間隔を設けて前記基台部の接地側面に形成された複数の接地凸部を有する耐滑性靴底であって、
前記各接地凸部は、V字形状の横断面及び矩形状の縦断面を有し、前記基台部との付け根部位に、前記基台部側に向けて広がる傾斜補強部が形成され、かつ、20℃におけるJIS-A硬度が45~80度の弾性重合体によって形成されていることを特徴とする耐滑性靴底。 」

つまり、この特許は、地面と設置する側に複数の接地凸部3を有し、接地凸部3は、移管い条件によって形成されているものです。
・V字形状の横断面
・矩形状の縦断面
・傾斜補強部
・20℃におけるJIS-A硬度が45~80度の弾性重合体

このような条件を満たすときに、接地凸部の変形を抑えつつ良好なグリップ性を保つことができ、さらには、接地凸部と基台面との付け根部位に傾斜補強部を設けているために、接地凸部は、所望の耐倒れ性・耐変形性を得ることができるというものです。

知財ミックス

ブランド名を商標で保護、ソールの形状の“全体”を意匠登録で保護、ソールのさらに具体的な“部分”形状(接地凸部3)を特許で保護しているとても参考になる事例です。

 皆さんどうでしたでしょうか?今では大ヒット商品となったアウトソール(ラバーソール)の知財ミックス事例をご紹介させていただきましたが、単純に特許、意匠、商標の3つを取得するだけではなく、その3つの守備範囲を理解した上でどの法律でどこの部分を保護するのか、これが重要です。

是非、みなさんも、自社製品を多方面から保護してみてはいかがでしょうか。

参考文献:ヒット書品はこうして生まれた!ヒット商品を支えた知的財産権 日本弁理士会

ライター

杉浦 健文

パテ兄

特許事務所経営とスタートアップ企業経営の二刀流。

2018年に自らが権利取得に携わった特許技術を、日本の大手IT企業に数千万円で売却するプロジェクトに関わり、その経験をもとに起業。 株式会社白紙とロックの取締役としては、独自のプロダクト開発とそのコア技術の特許取得までを担当し、その特許は国際申請にて米国でも権利を取得、米国にて先行してローンチを果たす。 その後、複数の日本メディアでも取り上げられる。

弁理士としてはスタートアップから大手企業はもちろん、民間企業だけではなく、主婦や個人発明家、大学、公的機関など『発明者の気持ち、事業家の立場』になり、自らの起業経験を生かした「単なる申請業務だけでない、オリジナル性の高い知財コンサル」まで行っている。

■日本弁理士会所属(2018年特許庁審判実務者研究会メンバー)
■株式会社白紙とロック取締役
■知的財産事務所エボリクス代表
■パテント系Youtuber 




Latest Posts 新着記事

知財分析に地殻変動:Patentfieldが中韓データ標準化を実現

はじめに 企業がグローバル市場で競争力を維持・強化するうえで、知的財産(IP:Intellectual Property)の戦略的な活用は欠かせません。特許情報の分析は、新たな事業機会の発見、研究開発の方向性決定、競合の動向把握など、多様な意思決定の根拠となります。その中で、知財分析プラットフォームとして多くの企業や研究機関に支持されてきた「Patentfield(パテントフィールド)」が、このた...

iPhoneの次はこれ?アップルが仕掛けるAIウェアラブル革命

2025年5月、米Apple(アップル)が出願した新しい特許資料が公開され、テック業界やウェアラブル技術の未来に関心を持つ多くの人々の間で話題となっている。その内容は、従来のスマートウォッチやARグラスの枠を超える、まさに「身体拡張」と呼ぶにふさわしい次世代のAIウェアラブルデバイスに関するものだった。 本稿では、特許から読み取れるデバイスの可能性、他社動向との比較、そしてアップルが目指すであろう...

エーザイ、レンビマ特許訴訟に勝訴 知財強化で収益基盤を防衛

2024年3月、日本の製薬大手エーザイ株式会社は、同社が開発・販売する抗がん剤「レンビマ(一般名:レンバチニブ)」に関する米国での特許侵害訴訟において、インドの大手後発医薬品メーカーであるサン・ファーマシューティカル・インダストリーズ(Sun Pharmaceutical Industries Ltd.)との間で和解に至ったことを発表した。この訴訟での勝訴は、単なる一製薬企業の勝利にとどまらず、国...

「宇宙旅行OS」が誕生──スペースデータ、次世代ステーション統合特許を取得

2025年、宇宙ビジネスのフロンティアを牽引する日本企業「スペースデータ株式会社」が、宇宙ステーションの統合管理から宇宙旅行の予約・運用システムに至るまでを包括的にカバーする特許を取得した。これは単なる技術的成果にとどまらず、宇宙産業全体の未来像を方向づけるマイルストーンとなり得る重要な出来事である。 本コラムでは、スペースデータ社の取得した特許の概要、技術的・社会的な意義、そしてそこから見えてく...

ステランティス、ブラジルで特許出願急増 3倍増で革新の最前線へ

2024年、ステランティスはブラジルにおいて目覚ましい成果を収めた。特許出願数が前年比で3倍に達し、国内企業としては第3位という快挙を成し遂げたのである。これは単なる数字の増加ではなく、同社が南米、特にブラジルを次世代モビリティの技術革新の中核と位置づけ、グローバルな戦略拠点として本格的に機能させ始めていることを示す重要な指標だ。 ブラジルでの研究開発強化 ステランティスが急速に特許出願数を増やし...

知財リノベーション:老舗企業に求められる特許戦略の転換

はじめに:増え続ける「数」の先にあるもの 日本は長年にわたり、技術立国として数多くの特許を生み出してきた。特に1980年代から1990年代にかけては「知財大国」として世界を牽引していたが、21世紀に入り、特許出願件数が急増する一方で、その“質”への懸念が深まっている。いま、企業は単なる特許の“数”ではなく、社会的価値や経済的インパクトを持つ“質”を問われる時代に突入しているのだ。 この流れの中で、...

知財戦略の先に未来がある ― IT企業の特許から見る国際競争力

近年、IT業界のグローバル競争は激化の一途をたどっている。GAFAを筆頭に、中国BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)や新興のスタートアップが覇権を争う中、各社がグローバル市場での競争優位を築くために重視しているのが「知的財産」、特に「特許」である。特許は単なる技術の保護にとどまらず、国際戦略の可視化、競合排除、M&Aの交渉材料としても機能する。各社がどの分野にどのような...

ジェネリックに逆風?東レ新薬が特許侵害で沢井製薬に大勝利

2025年5月、知的財産高等裁判所(知財高裁)は、東レ株式会社が起こした特許権侵害訴訟において、沢井製薬株式会社をはじめとするジェネリック医薬品メーカーに対して、217億円の損害賠償を命じる判決を下した。このニュースは製薬業界関係者を驚かせるとともに、日本の知財制度と医薬品政策のあり方について、改めて深い議論を呼び起こす契機となっている。 本稿では、この判決の背景、判決が意味するもの、そして今後の...

View more


Summary サマリー

View more

Ranking
Report
ランキングレポート

中小企業 知財活用収益ランキング

冒頭の抜粋文章がここに2〜3行程度でここにはいります鶏卵産業用機械を製造する共和機械株式会社は、1959年に日本初の自動洗卵機を開発した会社です。国内外の顧客に向き合い、技術革新を重ね、現在では21か国でその技術が活用されていますり立ちと成功の秘訣を伺いました...

View more



タグ

Popular
Posts
人気記事


Glossary 用語集

一覧を見る